伝説の武具
薄気味悪い澱んだる空気感であるのは間違いない
薔薇色の世界が広がっているなんて
今の世の中の人は誰も思わないだろう
過去の歴史の中で妖怪がいるなんて誰も教えなかった
今後も教えられる事はない
何故なら学校という制度はとうの昔になくなって
社会人という身分の者もいない
妖怪が右往左往している世界で安心と安寧の心持ちでいるなら
その肝っ玉は楠木正成ではないかと思うくらいに
今の世界は荒んでいる
人類は妖怪に敗れている
その腐敗した世界に住んでいるのが俺だ
名を佐藤直彦という
不幸な時代に生まれたものだ
人生で楽しみがあるとしたら
多分飴玉を噛んでいる時ぐらいだろう
妖怪が絶対的な優位に立っているこの秩序は
何が正義なのか分からない
祖母から聞いた事なんだが
昔は神様というものがいたらしい
神様は神社に現れるという
神様なんて信じられないが
もっと信じられないのは人間
妖怪との闘いで人類が敗れた以上
希望なんて見当たらない
やる事がないから気晴らしで神社に行ってみた
祖母の話を間に受けている訳ではないけど
神社でブラブラしてたら胸の中で声がする
【琵琶湖に行け】
琵琶湖?何で?
返事はない
声の主はわからないまま
琵琶湖なんて行くかよなんて思ってたら琵琶湖に着いた
なんで俺は琵琶湖にいるんだろう
気づけば辺りは夜のしじまとなる琵琶湖
良く目を凝らすと琵琶湖の中から天に光の柱がもれている
俺は水中に潜る
光の原因は水の中にある棍だ
【俺を連れてけ】
なんだ?なんかしゃべったか?
俺は棍を掴むと一気に地上に引き上げられた
服がびしょ濡れだ
「おい、棍。何でお前しゃべるんだ?」
【俺を妖怪の所に連れてけ】
この棍、俺の質問に答えない
「何でしゃべるのか教えろ」
………
しゃべったのは気のせいか?
【俺を妖怪の所に連れて行けばいい】
棍を掴んでみると輝きだした。
みなぎる力が伝わってくる
ものすごいパワーだ。
だがそれだけの事。
俺が妖怪の所に行く理由はない。
棍を離そうとすると手から離れない
あれ?何で棍を握ったままなのか?
すると俺は走り出した
ものすごいスピードだ。
速すぎて目が開けられない
失神と同時に深い眠りに落ちる
それでも走り続ける
目が覚めて気がつくと眼前には妖怪がいた。
終わったな
俺の人生も終わりだ。
妖怪と出会った人間は全て生きて帰れない
そう言われている
不思議と死を受け入れる気持ちが出来ていた。
右手を見ると棍を持っている
何だ?この棍?
すると俺の掴んでいる棍が勝手に動き出し
妖怪を殴り倒している
核兵器を喰らっても平然としていた妖怪が
俺の持っている棍に圧倒されている
妖怪は馬鹿でかい悲鳴をあげると同時に息を引き取った。
それを偶然見ていた人達が妖怪退治の証人となる
佐藤直彦は伝説の人間に祭り上げられる事になったのだが
その時には既に佐藤直彦の人格は無くなっていた。
棍の影響だろうか。