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傭兵サムライ、異世界に行く〜世界最強の傭兵は異世界でも規格外でした。(サムライ無双Web版)  作者: キー太郎
第三章 ???ミーツサムライ

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第67話 一生懸命考えた名前でも結局被る

 扉の前に立つ男性に「クロウ」と呟いたジンが、背中の大剣の柄を強く握りしめた。


「何じゃ、知り合いけ?」


 クロウ呼ばれた男性とジンを見比べる六郎に、短く「まあな」と答えるだけのジン。


「オジサン達にも色々と事情があるのよ」


 対するクロウはヘラヘラと笑ったままだ。ヘラヘラと笑うクロウに


「裏切り者が、よくもサクヤ様の目の前に――」


 怒りに打ち震えるようなジンが腰を落とし、大剣の柄を更に握り込む――「ギュゥゥ」という音がやけに静かな部屋に響き渡る。


「そう怒りなさんなって、オジサン今日は君に用があるわけじゃないのよ」


 ヒラヒラと手を振ったクロウが、視線をジンから六郎へと移した――


「さて青年。……君、なんかヤバい薬とかやってるでしょ? じゃないとその感覚の鋭さは説明できないって……」


 扉の前で相変わらずヘラヘラと笑うクロウに、「ワシん故郷クニでは、こんくらい普通じゃ」と六郎は獰猛に笑う。


「うっそー……薬とかやっててよ。じゃないとオジサンの沽券に関わっちゃうんだよね」


 頭をボリボリ掻くクロウの視線が真剣なものに――


「なぁんでオジサンの言葉無視して、豚の所に行かなかったかね……」


 ――眼光鋭い視線に込められた殺意に、六郎以外の全員がブルリとその身を震わせた。


「豚ぁ? ぎるなんちゃら ん事か?」


 そんな殺意を平然と受け流す六郎が、斜め前に一歩だけ進み出る。その背中には椅子に座ったままのリエラ。


「ギルバートの所に行ってくれてたら……ジン君達だって出来もしないことは諦めて、田舎でひっそりと――」


 言葉の途中で、驚いたように目を見開いたクロウ。その瞳に映るのは、いつの間にか間合いを詰めて振り抜かれた六郎の右拳だ。


 慌てて後ろに飛び退いたクロウ。それを追いかけるように六郎も小屋から飛び出した。


 小屋の周囲には、転がる無数の首無し死体といくつもの血溜まり。晴天とは不釣り合いな濃厚な血の臭い。


「話が終わってないんだけど?」


 笑顔のクロウだが、余裕そうな言葉とは裏腹に腰を落とし六郎をしっかりと視界に入れている。


「ツマランし興味ねぇの」


 呆れ顔で指を鳴らす六郎に、「詰まらないって、そりゃ酷くない?」と笑顔が引きつるクロウ。


「お喋りがしてぇんなら、ワシが居らん時にせぇや。主らん都合なんぞ欠片も興味がねぇわい」


 眉を寄せる六郎の言葉に「身も蓋もないねぇ」とクロウが再び頭を掻いて苦笑いをこぼしている。


「じゃ、無理矢理にでも話を聞いてもらうよ――」


 小さな砂埃だけを残し、クロウがその姿を消す――


 六郎の蟀谷(こめかみ)に迫るクロウの右足。

 仰け反るように躱した六郎――がカウンターの右上段回し蹴り。


「うっそ……」


 宙にいたクロウが堪らず腕を交差させ、六郎の足を受け止めた。


 踏ん張りの効かないクロウが、蹴りの勢いに負けて盛大に吹き飛ぶ。


 突き刺さったクロウの衝撃で、ガラガラと音を立てて崩れる小屋が、盛大に土埃を舞い上げる中――


「本気で来んか。それとも仲間に入りたいんけ?」


 ――六郎がつき出した親指の先には、転がる首無し死体の山。


「……そりゃ勘弁――」


 土埃の中から聞こえてくる声と、木が転がるような乾いた音。


「――オジサン、まだまだ死にたくないのよ」


 土埃が収まった瓦礫の上で、「うへぇ、砂食っちゃったよ」と唾を吐き出すクロウ。


「ホント、末恐ろしい子だよ」

「悪ぃが、主と年齢としは変わらんぞ?」

「またまた冗談を――」


 再び姿を消すクロウ。


 六郎の視線がその姿を追って右へ。

 回り込むクロウへカウンターの左後ろ回し蹴り。


 完璧なタイミングのそれは、クロウが防御のために上げた左腕へ。

 打つかった瞬間、六郎に訪れたのは――


 衝撃ではなく、浮遊感だった。

 視界には目まぐるしく入れ替わる空と地面。

 漸く自分が放り投げられた事に気がついた六郎。


 繰り出された六郎の左踵を、腕で上へいなしたクロウが、一瞬で六郎の軸足を払ったのだ。


 回転する身体を更に捻り、自分の統制下に起き直した六郎。

 地面を捉えた脚で、目の端に映ったクロウへ肉薄――


 繰り出された右正拳突に「げぇ」とクロウが妙な声を上げた。

 声とは裏腹に、身体を捻りながら六郎の右腕を受け流しながら掴む。


 掴まれた腕に引っ張られるように、六郎がバランスを崩し、そのまま空宙で一回転。


 放り投げられる六郎の姿に、小屋から出てきたリエラが「嘘でしょ」と目を見張っている。


 宙を舞った六郎だが、その背中を地面に叩きつけられるより先に、腰を捻り四つん這いで着地。


 追撃の蹴りを、後ろへ飛び退くことでやり過ごした。


「青年……君アレかな? 実は猫が人に化けてるとかなの?」


 苦笑いのクロウに、「悪ぃが物の怪やねぇの!」と叫んだ六郎が再び肉薄――


 繰り出された蹴りは、先程の後ろ回し蹴り同様、受け流されると同時に六郎が回転しながら宙を舞う。


 回転する六郎が、その勢いを利用して再び脚をクロウへと伸ばした。


「うそーん!」


 叫びながらも咄嗟に間合いを切ったクロウが、その頬を伝う血を軽く拭う。


「……あの状態で反撃に出るかね」


 掠めた六郎の脚に、背中を伝うものを感じながらもクロウは一瞬だけ目を伏せた――


「仕方ないねぇ」


 ――開かれた眼孔に宿るのは明確な殺意。


「強い君が悪いんだよ」


 再び消えるクロウに、六郎がカウンターを――その手を掴み、クロウが身体を捻る。


 回転して宙を舞う六郎。その回転の速さは今までの比ではない。


 何とか着地をする六郎だが、勢いを完全に消しきれていないそれに、地面の上を滑っていく。


 再び肉薄するクロウが今度は六郎の攻撃を待たずに、その手を掴み捻り上げた。


 回転する六郎が宙を舞う。


 投げられる度に速度が上がるそれに、六郎の受け身と着地も段々と雑に――


「ヤバ――」


 その光景を目にしたリエラは完全に焦っている。


 ここまで一方的にやられた六郎を見たことが、初めてなのが一つ。


 そしてもう一つは――


「ちょっと、もう止めなさい! 話ならアタシが聞くから」


 ――声を上げたリエラに、クロウは視線も向けず再び六郎を放り投げた。


 回転して吹き飛んだ六郎が、地面に打ち付けられ、勢いそのままリエラの方へと転がっていく。


「恋人が心配かい?」


 転がってきた六郎に視線を向けたリエラに、ゆっくりと歩きながらクロウが口を開いた。


「こ、恋人じゃ――そうじゃなくて、アタシが心配してんのは――」


 目の前でユラリと立ち上がった六郎に、開いていた口を思わず閉じたリエラ。


「いやぁ頑丈だねぇ……でもあと何回耐えられるかな」


 再び姿を消したクロウに、六郎は背中に庇うリエラを後ろへと突き飛ばした――


「余裕だねぇ――」


 突き飛ばした瞬間、無防備になった反対の腕を掴み、再び六郎を空宙へと――


 放り投げたクロウが、感じた違和感に眉を寄せ自身の手のひらを眺めている。


 その視界の端で、回転していたはずの六郎が難なく着地――


「どないしたんじゃ? 早うかかって来んか」


 ――砂埃で汚れた頬を、袖で拭う。


「言われなくとも!」


 再び手を取ったクロウが六郎を放り投げ――回転した六郎が着地。


 その攻防が更に三度程――


「……驚いたねぇ。君、自分で跳んでるでしょ」


 何度投げても着地をする六郎と、投げる時の感覚から漸く違和感の正体に気がついたクロウ。その顔は余裕そうな言葉とは裏腹に完全に引きつっている。


「何遍も喰ろうとったら、覚えるわい」


 首を鳴らす六郎に、「いや覚えないよ普通は」とクロウが半歩後退った。


 その光景にリエラは、「だから止めろって云ったのよ」と小さく溜息をついている。


 六郎の異常な強さを知っているリエラからしたら、あれだけ一方的に投げられる事自体、おかしな事だと直ぐに気がついた。


 確かに投げられる六郎を見て焦ったが、それ以上に何の抵抗もなくただ投げられているのが異常だと気がついたのだ。


 今までの六郎なら、相手の攻撃に対して必ず何かしらのアクションをしていた。


 それなのに投げられている……


 つまり、自分の知らない技術を盗む気だと気がついたのだ。


 事実リエラの予想通り防御に徹し、相手の呼吸、力のかけ方、身体の捌き方、それらをつぶさに観察していた六郎。


 それだけであれば、別に止める事などしない。恐らく相手の技術に満足した六郎が、最後にその首を落として終わりだからだ。


 なら何故止めたのか。


 それは六郎達が出ていってからサクヤ達に聞いた、クロウという男の素性だ。


 元々サクヤ達の仲間であり、参謀的なポジション。


 参謀……今のリエラ達には喉から手が出る程欲しい人材だ。何とか絆して陣営に引き入れる工作くらい試したい。


 そう思ったゆえの「止めときなさい」だったのだが、勿論あの状況で聞き入れて貰えるわけもなく。


 結果、技術を盗んで満足した六郎を止めなければならないという、大仕事に変わってしまった。


 技術が盗めていない状況であれば、それをチラつかせて六郎に戦いを保留にさせる事もできただろうに。


 そう思った所で仕方がない。とりあえず頭脳は欲しいと――


「ロクロー! 殺しちゃ駄目だからね!」


 ――駄目元で叫ぶことにした。


 傍から見ていたら、未だクロウが優勢に見える中、リエラの叫んだ言葉にサクヤもジンも首を傾げ、当のクロウは――


「止めとけって、そういうことね……」


 と漸くリエラの言葉の真意に気が付き、苦笑いを浮かべている。


 皆が見守る中、大きく息を吐いた六郎が拳を握り締め――


「断る」


 短く言い切り、その姿を消した。


 振り抜かれた六郎の拳を、躱したクロウが腕を掴み、その力の方向に引っ張って――「くそ!」――声を漏らした瞬間、六郎が引っ張られた方向に飛び込み、逆にクロウの腕を掴み上げ捻り上げた。


 捻られた腕に引っ張られるように、体勢を崩したクロウ。

 腕を捻り上げられ、六郎と背中合わせで立つ形に――


「ヤッば――」


 クロウの言葉は続かない。


 捻り上げた腕を肩に叩きつける六郎――肩でクロウの肘を極めへし折ろうと――瞬間、肘を庇うように、クロウは六郎のように自分で跳び上がった。


「悪手じゃ」


 笑う六郎が、前方へとお辞儀するようにクロウを放り投げる。体勢の整ってない自分の跳び上がりも相まって、宙へ放られ上下前後が逆さまになったクロウ。


 六郎を背に、頭上には地面。完全に死んでしまった体(隙だらけの状態)に、背筋に走る悪寒。


 訳も分からず腕で頭を守ったのは、クロウの戦士としての長年の勘だ。


 そしてその勘が、クロウの命を繋ぎ止めた。


 放り投げ、地面へと向かうクロウの頭へ、六郎は無慈悲な下段回し蹴り(追撃)を繰り出したのだ。


 腕でガードしたものの、頭の先端に繰り出された下段回し蹴りに、為す術もなく風車のように回転して地面へと叩きつけられるクロウ。


 揺れる脳、霞む視界に映ったのは、靴底だ。


 何とか転がり、それをやり過ごしたクロウの耳に、「ドン」と凡そ人を踏みつけるのには強すぎる衝撃音が届いた。


「……見逃してくれないかなぁ」


 ふらつく視界を悟られぬように、ゆっくりと立ち上がったクロウ。


 腰に刺した短剣に手をかけ――


(これ使うしかないかねぇ)


 ――意を決したように鞘から抜こうとするクロウの視界に、飛び込んでくる白い影。


「はい、コレでお終い!」


 六郎とクロウに対して、それぞれ手を突き出したリエラが、ジト目で二人を見比べている。


「リエラぁ、退かんね。まだ首ば繋がっとろうが」


「駄目。このオジサンは利用価値があるの」


 口を尖らせるリエラの前で


「お前のぅ……ワシん喧嘩に茶々入れる云う意味が分かっとんか?」


 眉を寄せる六郎だが、ゆっくりと闘気が霧散していく。


「分かってるけど、コレは駄目なの。アタシが出てきたことなんて無かったでしょ? そういう事よ」


 腰に手を当て、ジト目で自身を見つめるリエラに、「まあエエわい」と六郎が肩を竦め大きく溜息をついた。


「そいつも未だ本気やねぇしの」


 そう笑う六郎に、リエラは「嘘でしょ?」とクロウを振り返った。


 最終的に六郎が勝ちそうだったが、それでも途中の攻防はクロウに分があったのだ。それでいて本気でないという底の知れなさに、リエラは驚きを隠せないでいる。


 そんな視線の先で、「いやぁオジサンもあと一〇若けりゃねぇ」と笑いながら大の字に倒れた。


「ま、助けてもらったんだし、話くらいは聞くよ」


 空を仰いだまま言い放ったクロウが、「あれ? 話してたのオジサンの方じゃなかった?」と起こした顔に映っているのは、胡散臭そうに自分を見つめる皆の姿であった。

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