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傭兵サムライ、異世界に行く〜世界最強の傭兵は異世界でも規格外でした。(サムライ無双Web版)  作者: キー太郎
第二章 権威 ミーツ サムライ

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第45話 賭けに出るという事。死に臨むということ。法を曲げるということ。

 慌ただしく駆け回る騎士や従者。王城の中は上を下への大騒ぎだ。


 突如として宣言された王太女殿下の、公開処刑に向けて急ピッチで準備が進められている。


 六郎を殺して欲しい。その発言に、難色を示したレオンとカートライト公であったが、フォンテーヌ公が即座に飛びついた。


 反対派のカートライト公、賛成のフォンテーヌ公とリエラ。そこに病床の現王への影響まで持ち出されては、さすがのカートライト公でも覆すことは無理だった。


 結果、あれよあれよと言う間に、その処刑が決まってしまった。


 フォンテーヌ公としては、渡りに舟なのだ。飛びつくしかないだろう。


 これ以上六郎を痛めつけたとしても、リエラ暗殺の証拠など出るはずがないのだ。そもそもリエラ暗殺という容疑自体が嘘なのだから。


 クリストフの敵も取りたい。

 これ以上ボロがでる前に、犯人としてさっさと殺してしまいたい。


 そして――リエラに賛同することで、事件後の権力争への糧としたい。


 そういった思惑から、リエラの指示するままに、処刑へと舵を切った王国首脳陣。


 ……それがリエラの思惑通りだとは、露とも知らずに。





 城の外庭に設置された東屋。そこに座るリエラと脇を固める両公爵。


 三人の視線の先には、引きずられる六郎の姿。


 全身を酷く殴られ、すでに手足の腱すら切られた六郎に、リエラがその目を見開いた――


「なぜ――?」


 あんな酷い姿なのか。聞いていない。その思いが溢れる瞳で、リエラは二人の公爵を見比べる。


「処刑は決闘方式……とはいえ、あの様な蛮族に武器など渡せば御身が危ないでしょう?」


 ニヤリと嗤うフォンテーヌ公。その顔には「奴に武器を与えさせるとでも?」と書いてあるようだ。


 フォンテーヌ公は、リエラが『処刑という名目で六郎に武器を提供させようとしていた』と考えているのだ。


 確かにそのパターンも考えていたリエラだけに、グッとその唇を噛む。()()()()()()を潰されてしまったのだ。


 本来ならレオンと死闘を演じ、途中で死んだふりでもして、湖にでも逃げ込んで欲しかった。


 だがそれは叶わない。


 手足の腱を切られ、立つこともままならない六郎。暗い雨の中、モゾモゾと動くだけの痛ましい影――それでもリエラは、その姿から消して目を逸らさない。


「……しかし驚きましたな。ガブリエラ様は、あの者にご寵愛をと思っていましたが?」


 白々しく眉を寄せるフォンテーヌ公と、ただ黙って六郎を見ているカートライト公。


「……だからこそ苦しまずに、せめて戦士らしく死なせてあげたいのよ」


 奥歯を噛みしめるリエラに「そうですか」とフォンテーヌ公が鼻を鳴らした。


 戦士らしく……あんな格好ではその願いすら無理だろう。それでももう後には退けない。これは賭けなのだ。六郎と、リエラの命をかけた――


「誰か剣を――」


 リエラの言葉で、六郎の前に放り投げられる一本の剣。


 手足の腱を切られた六郎が、芋虫のように地を這い、その剣を口に咥えた。


 膝立ちで身体を起こし、口に剣を咥える六郎。


 闇に降りしきる雨のせいで、篝火すら焚けず、小さなカンテラが周囲を照らすだけ。


 殆ど闇――にもかかわらず、その場の全員が感じている。六郎の姿が闇に浮かんでいる光景を。その目に宿る戦う意思の光を――


 場を支配するのは、全員が感じたこともない程の闘気。


 手足の自由を奪われて尚、戦う意思を捨てない六郎の気配――身体を覆うそれが、弾ける雨を蒸発させ、六郎の姿を浮き上がらせる。


 何一つ諦めていない。その瞳に、気圧されるように笑ったカートライト公。彼が呟いた「……見事……おん見事なり」と言う言葉が、煩い雨音の中でやけに響いている。


 歴戦の闘将をも唸らせる闘気……それを全身に受けているのは、この国最強の騎士――レオン・カートライトだ。


「……よろしいので?」


 振り返るレオンに、リエラは大きく息を吸い……ゆっくりと頷いた。


「ひと思いに――」


 降りしきる雨が一層強くなる。まるで二人の別れを嘆くかのように――


 鞘から抜いた剣を霞に構えたレオン――その剣が淡く光り輝く。


 ――相も変わらず、凄まじい突きじゃな


 レオンの脳裏に反響した、六郎の声。つい半日ほど前の出来事のはずなのに、何年も前のように感じられて、レオンがその目を固く瞑った。


ふびは(首ば)よほへやー(寄こせやー)!」


 目を瞑ったレオンに、膝で飛び上がった六郎が襲いかかる――宙をフワリと浮く六郎に「……スマン」と呟いたレオンの突きが一閃。


 周囲の闇を消し飛ばすほどの光が、六郎を貫通しその身体を城壁に叩きつける。


 それでも勢いの止まらぬ突きは、壁をも砕き、六郎の身体を暗い湖の向こうへと消し飛ばした。


「……バイバイ……ロクロー」


 呟いたリエラの言葉に、笑みを浮かべるフォンテーヌ公と目をつむり大きく息を吐いたカートライト公。


 ……目を瞑るリエラ。泣いては駄目だ。感情を出しては……そう思っても頬を伝うものに歯を食いしばる。


 本当は今すぐにでも壁の向こうへ飛び出して、回復の魔法をかけてあげたい。だが、それを許さない。それは許されない。それが六郎の意思だから。


「信じてるからね……ロクロー」


 誰にも聞こえないように、小さな、小さな声で呟いた。そうでもしないと心を保てなそうだから。



「これで一件落着ですね」

「ガブリエラ様、お身体に障ります故――」


 対照的な両公爵を伴い、リエラは自室へと踵を――返した瞬間レオンを振り返った。……大丈夫。この距離なら涙は見えない。


「ちゃんと死体を確認してきなさい……それまではカートライト公、あなたが私の護衛を」


 それだけ言い残してリエラは自室へと帰っていった。


「捜索隊を結成せよ――操作範囲は湖全周だ」


 指示だけを残し、レオンはひとり壊れた壁から、崖下にある湖の畔へと飛び降りた――





 ☆☆☆





 夜半にもかかわらず、煩く叩かれたノックの音でピニャは目を覚ました。


 全焼した店の跡地に、騎士団が手配してくれた掘っ立て小屋。それでも雨風を凌げるならと住んでいる場所だ。


 だが、今日は最悪だった。降りしきる雨が煩く眠れなかったのだ。

 漸く眠れたと思ったら、行儀の悪い人間が、今もその扉を壊れるかと言うほどに叩いている。


「……誰?」


 扉ごしに誰何すいかする。ピタリと止んだノックの音に変わって響いたのは、意外な声だった。



「ピニャ殿……レオン・カートライトと申す。ロクローの知り合いが貴殿しか思い浮かばなかった故、夜分にも関わらず失礼した次第だ」


 眠くて瞬いていた目が、固まった。


 ……レオン・カートライト? 守備隊総隊長? いやいやカートライト家のご子息――


 そう思った瞬間、ピニャは扉が外れても構わないという勢いで引き開いた。


 そこに立っていたのは成程、鎧の意匠が近衛の物に変わっているが、レオン本人で間違いはない。


 ただ、その背に担ぐものが異様だった。


 ぐったりとした人……汚れてはいるがどこか見覚えのある派手な意匠の服。


「……ロクロー?」

「ああ、そうだ。酷く衰弱していてな……すまないが床を借りても?」


 レオンの言葉に、ピニャは部屋の隅へと走り、ベッドに大きなシーツをかけた。


「……ここ。床じゃ駄目」


 ピニャの優しさに「……恩に着る」とレオンがその上に六郎を寝かせる。


「……酷い怪我」

「……拷問の跡だ」


 遣る瀬無いように視線を逸したレオンが、その腰につけたポーチから瓶を幾つか出した。


「ポーションだ……目が覚めたら飲ませてやってくれ」


 そしてその後に出てきたのは大きな包みが二つ。それをベッド脇に置くと「ジャラリ」と金属がこすれる音が聞こえる。


「……これは?」

「……口止め料と……あと旅費だ。少し訳ありでな……目覚めたら渡してくれ。そして言伝を頼む――」



 言葉を探すように、レオンが逡巡する――何度か口を開きかけては閉じ、ゆっくりと言葉を探すレオンの顔を、ランプの緩い光が照らしている。


「――友よ……君の大切なものは私が生涯を掛けて守ろう――そう伝えてくれ」


 それだけ言い残すと、レオンはピニャに背を向け、「スマンが、時間がなくてな。後を頼む――」と再び土砂降りの中へと消えていった。


 あとに残ったピニャが、訳が分からないと眉を寄せる中、「戯けが――」と呟く声。


「……気がついた?」

「……最初っからの」


 起きようとする六郎だが、その手に力が入らない。


「スマンが、そん()()()()()っちゃらをくれんね?」


 おずおずと頷いたピニャが、その瓶を開け六郎の口へと含ませた。


 飲み干した六郎が「不味か……良薬何とやらじゃな」と笑い、右手を動かした。


「恐ろしか効能じゃ……」

「……一番高いやつ。新しい傷から治っていく」


 そう言いながら、もう一本の蓋を開けたピニャ。六郎は自身の脇腹を擦るが、貫かれたはずの傷はない。


 いや、貫かれてすらいない。あの時レオンが構えたのは訓練用の剣だ。決闘前に自分の剣を『なまくら』と入れ替え、それで六郎を殺したように見せかけたのだ。


 バレれば自身の首が飛びかねない。


 たしかに六郎自身、レオンとの決闘に乗じて殺されたフリでもして湖へと逃げようと考えていた。


 そしてリエラが、それに気が付き応えた。


 ただ、決闘とは名ばかりの公開処刑だったが……それでも六郎は仕方がないと思っていたのだ。


 なかなかに楽しかった。第二の人生の幕引きにしては早いが、それでも好きに生きることが出来た。


 そう思っていたが、レオンは自分の危険を顧みず、六郎を逃がすという道を選んだのだ。


 あの頑固一徹が、法を曲げてまで六郎の身を助けたのだ。


 そして六郎に代わり、リエラを守るのだと……。


「……不器用な男じゃな」


 ピニャからポーションを受け取り、今度は自分で飲む。


「友か……獅子身中の虫では無かったんか?」


 笑う六郎が、もう一本ポーションを飲む。すでに手足の自由は戻っている。


 レオンが置いていったポーションを全て飲み干した頃には、体の傷が殆ど癒えた六郎の姿。


「にしても、こん振袖は凄かね。穴一つ空いちょらん」


 泥だらけになった振袖を広げる六郎に、「……でも汚い」とピニャは眉を寄せている。


 そんなピニャ「洗えば良かろう?」と六郎が外へ飛び出し、流れる水路でジャブジャブと振袖を洗い始める。その姿に「……やっぱ無茶苦茶」とピニャは安心したように笑っている。


 びしょ濡れになった振袖を干し、椅子に座る六郎がピニャに頭を下げる。


「……なに?」


「スマンが、夜が明けたらこいで飯ば買うて来ちゃらんか?」


 突き出したのは、六郎の旅費だといって置いていかれた金貨の袋だ。


「……多すぎ」

「……刀の代金も含めじゃ……出来とるんじゃろ?」


 その言葉にピニャは頷き、奥から刀を持ってきた。


 六郎が絵に描いた通り、柄には日本刀独特の巻き。それを見て満足そうに頷いた六郎が、柄を握り鞘から刀身を抜き出すと――


 白く輝く反りのある刀身。

 薄っすらと浮かぶ波紋に、鎬や三ツ頭。


 軽く振ったそれの出来栄えの良さに、六郎が口角を上げた。


「素晴らしか出来、感謝し申す!」


 鞘に刀を収め、頭を下げる六郎に「……報酬分は働く」と満更でもなさそうなピニャ。


「傷ば癒えた……刀ば手に入った……後は飯と睡眠じゃな」


 ランプに照らされる六郎の顔は嬉しそうだ。ピニャにはよく分からないが、とりあえず依頼人が喜んでいるので良しとしている。


「……何か飲む?」


「いんや。()()()ばたらふく飲んだけぇ今はエエの。とりあえず夜明けまで寝る……スマンが、飯だけ頼む」


 そう言い終わると、部屋の隅で膝を立て、肩に掛けた刀を枕に六郎が目を瞑る。


「……それで寝てるの?」


 ピニャの声に応えるのは僅かに聞こえる寝息と、相変わらず煩く屋根を叩く雨音だけだった。




 ☆☆☆



 刀を差し、振袖を羽織り直した六郎。その背中を見るピニャの顔は不安そうだ。


「……街で噂になってる。凶悪犯の死体が()から上がってないって」


「応。死に損なったけぇの」


 顔だけピニャに振り返った六郎は、満面の笑顔だ。


「……やっぱりロクローの事」


 頬をふくらませるピニャに、「黙っとってスマンの」と六郎が頭を下げた。


「……それはいい。ただ――」

「ただ?」


「……本当に行くの?」


 不安そうなピニャの顔には「無理だ」と書いてあるようだ。


「……街で全部聞いた。リエラ……王女の事も、ロクローの事も……」

「そうか」


 体ごと振り返り短く応えた六郎が、笑顔で「おかしか事ばっか起こるわい」と呟いている。


「……死ににいくようなもの……それでも行くの?」

「死ににいく? 何を言いよんじゃ」


 腕を組みピニャの心配を笑いとばす六郎に「……だって、そうでしょ」と呆れた表情のピニャ。


「勝ちに行くんじゃ……少なくともワシと()()()はそれしか考えとらんの」


「……ただの馬鹿」


 ピニャの辛辣な答えに「そらぁ、間違いではねぇの」と笑う六郎。


「では、世話んなったの……また刀が欲しくなったら来るわい」


 何でもないように、ピニャに背を向ける六郎。それは、今からいつもと変わらない日常が始まる、と錯覚してしまいそうなほど自然な所作だ。


 その所作に当てられたように――


「……もう少ししたら帝国に行く……だから、依頼があるなら帝国まで来て」


 ――そんな事は無理だと分かっているのに、出てしまった言葉。


 そのくらい六郎が、自然体だったのだ。いや、今も自然体だ。だから――


「帝国? ……旅に出るけぇ、後でリエラにでん聞くかの」


 と何でもないことのように、後ろ手を振りながら、小雨の降る通りへと歩いていった。


 小雨に霞む通りを六郎の派手な姿がゆっくりと小さくなっていく――雨は少しだけ強くなっていた。

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