運の導き
「すいません…お任せしちゃって」
シンデレラが戻ってきた。
「終わるところだから大丈夫だよ。もう夕食を食べてきたら?」
「あ…はい。あの…今日の勉強って…」
「いつものように頼めるかな?シラユキさんには勉強が終わってからと説明してくるよ」
「そうですか…分かりました…」
何処となくぎこちない態度…心情が読めない…その後、いつものように勉強を始めるがシンデレラの態度が固い感じがする。直球で尋ねてみた。
「あの…もしかしてだけど…さっきの事で何か気にしている事ある?」
「え?あ…はい。正直に言うと気になっている事があります…」
「何?良かったら教えて?」
「さっき、シラユキさんへ手の甲にキスした後…シラユキさんもヨウさんと同じようなものが見えるようになっていたじゃないですか…なんか羨ましいと思っちゃって…私、変ですよね?」
「そっかぁ…シンデレラも見れるようになりたいんだね」
「え?あ、はい…」
「さっき、シラユキさんにも言ったように僕にも何故見れるようになったのか分からないんだ…」
「あの…もしかしてですよ?手の甲にキスしたからじゃないですかね?」
まあそうかも知れない。タイミング的にそれしか浮かばないし。スキルにそんな記述無かったが…シンデレラにも手の甲にキスして良いのかな?
「シンデレラに試してみても大丈夫?」
「はい…お願いします…」
良かった…拒否られたら大ダメージをくらうところだった。シンデレラの右手を手に取って甲にキスをしようとした瞬間、理由が判明した!恋愛運スキルがリーディングスキルに重なろうと近づいていく瞬間を見逃さなかった!先生の仕業か!
「ん…」
「どうかな?あ。リーディングって言ってみて」
「リーディングですか?」
その瞬間、シンデレラの前にリーディングスキルのウインドウがちゃんと開いた。
「わあ…凄いですね!こんなふうになっていたんですね!」
シンデレラはとても嬉しそうだ。良かった。
「うん、それでね。色々と見る際は…」
説明しようとしたところ、部屋の扉の方から「ガチャ」という音が聴こえてきたと思ったらバン!と扉が開いてシラユキが現れた!
「遅い!いつまで勉強してるの!」
「え…扉の鍵は閉めてたはずですが…」
「鍵?そんなの私の魔法で開けたわ」
やばい魔法持ってるな…男性の部屋をいきなり開けるもんじゃない。色々と事情もあるのだから…
「あ〜!ずるい!シンデレラだけ!私も一緒に説明しなさいよ!」
「あ…はい。分かりました」
まあ2人同時の方が都合が良いか。勉強終わった後にシラユキと2人きりになるのもシンデレラに対して後ろめたかったし。
「それじゃあ説明していきますね。先ず、使用する際はリーディングと唱えるとウインドウが開いて…」
「うんうん。それでそれで?」
シラユキは食いつくように目を輝かせてステータスを見ている。その横顔を見ていたら不覚にも可愛いじゃんと思ってしまった。ハーレム化で進むのだろうか…他の童話のお姫様たちも…長々と説明しているとシラユキは頭をコックリとしだした。眠くなってきたのだろう。
「今日はこれくらいで終わりにしましょうか?」
「まだ大丈夫よ…まだ…」
そう言った途端、シラユキはテーブルにうつ伏せて寝てしまった。そりゃあれだけ飲んでたら…
「ちょっと!起きて下さい!寝るなら自分の部屋に戻って頂かないと…」
「スピー…スピー…」
駄目だ…完全に寝てる。部屋まで運ぶしかないようだ…鍵はこれか?
「シンデレラ、ごめん。ちょっとシラユキさんを部屋まで運んでくるから待っていて」
「私もそろそろ部屋に戻ります…」
まずい…肝心な事を話しておかなくちゃ…運の能力値の件だ…
「ちょっと待って。大事な話がある。だから申し訳ないけど待っていて欲しいんだ」
「え…あ、はい。それじゃあ…」
心なしかシンデレラが頬を赤らめている。大事な話をされるからからだな…大事な話…告白するみたいになってるじゃん!告白は告白だけど!とりあえず、シラユキをお姫様抱っこで部屋まで運んで戻ってきたらシンデレラが正座している。
「あのさ…」
「はい…」
「運の能力値が高い件についてなんだけど…」
「え?あ…はい」
え?って…もしかして告白されるのを期待してくれていたのだろうか?そうだったら嬉しいけど…今はこちらを優先せねば。
「4329の右上に※があるでしょ?でね。下に指でスライドしていくと同じく※があって数値が高い理由が書いてあるんだ」
「はあ…そうなんですね」
「前に自分が急に泣いたのはそれが原因なんだ…シンデレラはもっと泣くかも知れない…だから見る時は心して見た方がいいよ」
「よく分かりませんが…そうします。教えて頂き、ありがとうございます」
「うん。じゃあ、そろそろ寝なきゃね」
「はい。おやすみなさい、ヨウさん」
「おやすみなさい、シンデレラ」
シンデレラが部屋を出ていく。あの伝え方で良かったんだろうか?恋愛運ウインドウが開く。
「先生は告白してたらいけたと思います。でも両親の件を優先するあなたの気持ちは大好きです」
ありがとうございます…少し救われました。シンデレラやシラユキのハートマークが増えて報酬も有るが明日に確認しよう。色々と有りすぎて心が追いつかないから…ゆっくり進めよう…そう思って眠りについた。
翌朝。朝食の時間で食堂に行くとシンデレラと目が合った。
「おはようございます。ヨウさん」
「おはよう。シンデレラ」
シンデレラは明らかに泣き腫らしたような目元だった。あの後、見たんだろう…朝食の片付けを終えて軽く掃除を始めるとシンデレラが話しかけてきた。
「ヨウさん…お陰様で亡くなった両親の私に対する愛情を知る事ができました。心から感謝しています。本当にありがとうございました…」
「うん…シンデレラは両親に沢山、愛されてたんだと思うよ…きっと今もこれからもシンデレラが幸せになれるように…あの運の数値に込められているんだと…」
「うぅ…少しだけ…良いですか…」
そう言うと僕の胸にしがみついて泣き始めた。
「ひっく…ひっく…うぅ…うぇーん…」
その時、調理場から奥さんが出てきた。
「シンデレラ!朝食、食べ…る…よ?」
僕は奥さんに向けて右手を軽く挙げて制止した。奥さんも察してくれたように調理場に戻った。後で事情聴取はされて丁寧に説明をした。
「そうかい…あの娘の両親がそんなものを残してくれてたんだね…良かった…本当に良かった…」
「はい…」
「あんたと出会って知る事ができたのも運の導きだったかも知れないね…」
「僕もそう思います…」
「そう!あんた!いつシンデレラを嫁にするんだい?もういい加減、メロメロになってるだろ?」
「はい…まあ…順調に?」
「煮え切らない男だね!何かシンデレラに不満でもあるのかい?」
「いえ…そんな事は…」
問題があるのは僕の方だ。恋愛で不幸続きだったトラウマが見え隠れして臆病になってしまっている。また駄目なんじゃないか?また傷つくんじゃないかと…そんな表情を奥さんは察してくれた。
「まあ、あんたにも事情があるかも知れないね。
焦らせて壊しちまうつもりはないよ。時間をかけてでも上手くいけばいいさ」
「はい…ありがとうございます」
「ただし、これだけは覚えときな。私はハッピーエンドが好きだからね!」
「はい!そうなるように頑張ります!」
「よし!」
奥さんは僕の背中をバン!と叩いて仕事に戻っていった。