シラユキとの出会い
それから毎日、朝食夕食の手伝い、夜は勉強、空き時間の午前や午後は町に出かけて見聞を広めていった。数日が経つと文字も大分、読めるようになってきた。この世界の事を詳しくまとめられている本も本屋で見つけて少しずつ読み始めている。それによると、どうやらこの世界には7つの王国があって、王国事に7人の女神様が信仰されている形らしい。もう一つ、気になる点があった。7人の魔女がいるらしい。嫉妬の魔女、暴食の魔女、悲嘆の魔女、怠惰の魔女、中傷の魔女、略奪の魔女、虐待の魔女…キリスト教に出てくる7つの大罪的なものか…できれば関わりあいたくない名称の魔女たちだ。そんな日々が過ぎていったある日の夕食中の出来事。
「シンデレラ!早くおかわり持ってきて!」
「はい!ただいま!」
やけに騒がしい客がいる。かなり酔っ払っているようだ。幼く見えるが飲酒年齢制限とか無いのだろうか?マントを付けてトンガリ帽子を被っている。リーディングしてみると見た目どおりに魔法使いのようだ。黒髪におさげのツインテールでいかにも美少女魔法使いって感じである。皆の夕食が終わってもまだ飲み続けている…片付けも終わったのでシンデレラが声を掛けた。
「あの…シラユキさん…もう閉店なので…」
シラユキだって?童話に出てくる白雪姫がモチーフなのだろうか?
「何?帰れって言うの…やだ!まだ帰らない…そうだ!今夜、シンデレラの部屋に泊めて!」
「えっと…それは宿屋的に問題が…」
「え〜!良いでしょ?大丈夫、大丈夫!」
絡まれているシンデレラを見過ごすわけにはいかない。僕も声を掛けてみた。
「あの…そろそろ帰って頂かないと掃除ができなくですね…」
「あんた誰?私には帰る家なんて無いもん!帰る家なんて…うぅ…うわぁーん!」
シンデレラが心配そうに声を掛ける。
「どうされたんですか?王宮仕えの魔法使いですから王宮にお住まいでは?」
「うぅ…ぐすん…もうお払い箱になったのよ…」
「え…またどうして…」
「先月にダンジョン攻略を終えてから急に魔法が使えなくなったの…それで…」
「そうなんですか…」
「それでね…私が王宮を魔女から守る結界を担当してたんだけど…効力が消えたタイミングで嫉妬の魔女が侵入して姫様に呪いが…」
姫様?あのレイナ姫様か…うぅ…できれば関わりたくないのだが…
「そうだったんですね…それは大変ですね…どんな呪いがかけられたんですか?」
「一生、恋愛できない呪い…」
「それはまた…姫様もお辛いでしょうね…」
生命に危険が及ぶ呪いじゃないのなら大丈夫か?いや!恋愛できない苦しさは誰よりも分かっている。ほっとけない。トラウマは正直、怖いけど…大好きだった子に瓜二つのレイナ姫様の幸せを願わねば…やっぱり好きだった子には幸せでいて欲しい。思い切ってシラユキに尋ねてみた。
「あの…どうやったらレイナ姫様の呪いを解除できるんですか?」
「あんた、さっきから誰よ?」
「僕は…ヨウって言います。この宿屋に宿泊しながらお手伝いもさせてもらっています」
「ふ〜ん?そうなんだ。呪いはね、嫉妬の魔女を倒せば解除できると思うわ。でも私は魔法が使えなくなってるし…そもそも、天才魔法使いって言われてた私1人でもどうにかできる相手じゃないし…」
「そうですか…」
やはり簡単にはいきそうもない…今の自分のステータスではとても無理かも。そう思い悩んでいたら恋愛運スキルがまた勝手に拡大した。
「シラユキのステータスを見て!」
何だろう?言われたとおりに見てみるとビックリした!もの凄い数値だ…魔力9999だと?HPも9999…カンストしてるのか?これで勝てない相手って…ん?魔力の下に(−9999)ってあるぞ。何だこれ?数値を押すと画面がスライドして呪いの指輪と出てきた!呪いだと?効力を調べてみる。
「この指輪を付けると魔力が0になります。代わりに魔力の数値分がHPに加算されます」
これが原因で魔法が使えなくなったのか!
「ねえ?あんたさっきから空中を指で押して何をしているの?」
「あ…えっと…これは…僕のスキルというもので、見たい相手のステータスという能力値が見れるんです。今、シラユキさんのステータスを調べてたんですけど呪われていますね…」
「え!何それ?凄いんだけど!ん?待って待って…私、呪われているって今、言った?」
「はい…その付けている指輪の効力です…」
「この指輪?先月のダンジョン攻略で見つけたんだけど外せないと思ったら…ねえ!外す方法とか分からないの?」
「ちょっと待って下さいね…もう少し調べます」
調べてみたが特に解除方法が書かれていない。教会に行くとかじゃないのか?ん?え…恋愛運スキルが動き出してリーディングスキル画面に重なった途端、新たな文字が浮かびあがってきた!何だこれ!こんな事もできるんだ…
「女性が付けた場合は男性にキスしてもらえれば解除できます」
白雪姫の話のように?
「あ、男性とキスすれば解除できるそうです」
「はあ?あんた何を言ってるの?あ!分かった!私が可愛くてキスしたいから適当な事を言ってるんでしょ?」
そっちこそ何を言い出すんだ…シンデレラがそばにいるんだぞ!心証が悪くなるじゃないか!
「別に誰とでも良いと思いますよ。特に男性の指定はされてませんし。もし信じるならどこかの男性とご自由にして下さい」
ちょっと意地が悪かったかな?シンデレラがシラユキに助け舟を出した。
「あの…ヨウさんの言う事は本当だと思います…どうか信じてあげて下さい…」
「別に信じないって言ってないもん!シンデレラがそう言うなら信じてあげるけど…本当にキスしなくちゃいけないの?」
「はい。そう書いてあります」
両人差し指をくっつけてモジモジしながらシラユキが小声で呟く。
「キス…私、まだした事ないからどうやってするのか分からないもん…」
「口と口をくっつけてですね…」
「そういう事じゃなくて!物理的な問題じゃないの!乙女心の分からない人ね!」
怒りっぽい子だな。また、シンデレラが助け舟を出してくれた。
「あの…だったら手の甲にキスとかどうです?」
「まあ、それならいけるかも…」
良かった。解決策が見つかったようだ。
「ねえ?あんたがしてみてよ」
「え?僕がですか?」
「そうよ。あんたが言い出した事なんだから証明してみせてよ」
「えっとですね…」
ちらっとシンデレラの方を見て顔色を伺う。
「あ…私、この場にいない方が良いですよね…」
「別にそんな事は…」
そう言ってしまった…見られながら…見てない所で…どっちが正解だったんだろう?どちらにしろ何かやましさを感じるな…
「ねえ!早くしなさいよ!」
仕方ない…これも人助けのうちだと思って、シラユキの右手を手に取って甲にキスをした。
「ん…」
「どうですか?指輪、取れますか?」
「取れないわよ…嘘つき!」
「ごめんなさい…私が手の甲でもと…やっぱり口じゃなきゃ駄目なんでしょうか?」
これ以上は非常にまずい気がする…本当に無理だったんだろうか?シラユキのステータスをもう一度、確認をしてみると魔力が3333になってる!
呪いの指輪の部分も見てみると先生が来てた。
「中途半端です。正直、がっかりしました…口に思い切ってして下さい。さあ!早く!」
先生…出張お疲れ様です…それは無理です…
「あの…リーディングしてみたら指輪はまだ外せないようですが魔法は使えるようになってないですか?魔力が3分の1ほど戻っていたので」
「リーディング?魔力が3分の1?何それ?」
そうシラユキが言った途端、驚く事にシラユキの前にリーディングスキルのウインドウが開いた!
「え!何これ?」
「僕もビックリしてます…それがリーディングスキルといってステータスという能力値などが見れたりします。ほら。ここが魔法に関係してると思われる数値の魔力で3333になっています。下にある−6666てのが呪いの影響分です。さっきまでは−9999だったんです」
シンデレラのみが蚊帳の外に置かれている。
「私には何も見えませんが…」
あまり疎外感を感じさせたくない。手早く進めよう。
「早く魔法を使ってみて下さい」
「分かった…じゃあ…フライ!」
シラユキがそう唱えるとシラユキ自身が1メートルほど空中に浮かびあがった。
「わあ!本当に使えるようになった!嬉しい!最高!ありがとう!」
そう言うとシラユキはそのまま飛んで僕に抱きついてきた。シンデレラの視線が痛い…慌てて床にシラユキを降ろした。
「恐らく完全に解除するには口だと思います。あとリーディングスキルが使用できるようになった事ですが、僕にもまだ理由が分かりません。使用方法などは教えられるので、また後日にでも訪ねて頂ければ」
矢継ぎ早に言葉を述べ、シラユキを早く帰らせようとする。
「後日?やだ!待てないもん!今日はここに泊まっていく!シンデレラ?部屋空いてる?」
なんて聞き分けのない娘だ…
「空いてますが…」
「じゃあ、お願い!」
「分かりました。では、お部屋にご案内します」
「シンデレラ。僕が掃除済ませておくから」
「よろしくお願いします…」
シンデレラは目を合わせようとしなかった…何か距離感を感じながら掃除を始めると、恋愛運スキルにシラユキの文字が出てハートマーク5つと報酬がある。2人目…