レイナ姫様(トラウマとの邂逅)
2人で宿屋に戻ろうとしていたら、衛兵のような者が数人、慌ただしく町の人に指示をしている。
「姫様がお通りになられる。道を開けて下さい」
シンデレラに尋ねてみる。
「姫様?」
「はい。この国のレイナ姫様です。町の奥に王宮がありますので」
「え?そうなんだ!気付かなかったよ」
そうだ。まだこの町の事すらほとんど知らない。この世界の事なんてまだまだこれから。少しずつでも知っていかなければ…
「あっ!あの馬車に乗ってらっしゃるのが姫様です。とても可愛いらしい方ですよね」
赤髪に高い位置でのポニーテール。毅然とした表情。いかにも品のあるお姫様って感じだ。そして、どこかで見たような顔だ。あぁ…何て事だ…あの顔は忘れられるはずがない…災害級レベルのトラウマを受けた初恋の女の子の生写しそのものだ。その女の子は幼馴染だった。小さい頃から仲良く遊んだ。弟と3人で。高校生の頃には弟と付き合い始めた。地獄のような日々だった。逃げたくても逃げられない。毎日、家に帰れば大好きな子の彼氏がいるのだから。いない時も有り、夜遅くに帰ってきたりもする。それもまた堪らなく辛かった。その事がきっかけで家族内は不穏な空気で包まれていた。僕が数年ほど弟と一切、口をきかなくなったからだ。弟が悪い訳では無いと頭では分かっていてもどうしようもなかった。思い出したくもないのにどうして…
「どうしました?顔が真っ青ですよ…」
シンデレラが心配して声を掛けてきた。自分の手が震えているのが分かる。手の甲を見ると血行が悪くなっているのか紫色に変色している。
「何でもない…大丈夫…大丈夫だから…」
「大丈夫じゃないですよ!手までこんなに冷たくなって…」
シンデレラが僕の両手を優しく包んでくれた。柔らかさと温もりを感じる事ができ、少し落ち着いてきた。
「ありがとう…」
「本当に大丈夫ですか?何かあったら言って下さいね」
それから、宿屋に帰るまでの間の記憶は全くない。また、トラウマを受けるのではないかとばかり考えていた。気が付くと宿屋に着いていて、シンデレラが地図を渡そうとしていた。
「これが地図です。交換所はここです。あと他にも色々なお店や施設がありますから」
そうだ。交換所に行ってお金を返さなきゃ。さっきの事を気にしてばかりもいられない。
「うちの宿屋がここでさっきの料理屋さんはここです。で…交換所に行くには…」
シンデレラが親切に教えてくれようとしている。
「あっ…最初からこの地図を貰えば良かったね。そうしたら料理屋さんに案内してもらう手間も省けたし。仕事忙しいだろうに食事に付き合わせちゃってごめんね…」
「いえ!全然、大丈夫です!また誘って下さいね…それじゃあ!」
シンデレラはいそいそと仕事に戻っていく。何か様子がおかしかったようだが…恋愛運ウインドウがまた点滅していてる…見てみよう…
「アホですかあなたは(笑) たぶんシンデレラは知っていてわざと!地図を渡さなかったんですよ。あなたに食事に誘ってもらえて嬉しかったから!それをあんな風に言っちゃうなんて…」
あ…ごめんなさい…先生…
地図を頼りに無事に交換所に行けて両替もできた。何やら掲示板のようなところに貼り紙が沢山あって文字が書いてあるが全く読めない。リーディングスキルでも無理だった。地図の表記も全く読めない。宿屋に一旦、帰ろう…
「あ、お帰りなさい、ヨウさん」
「うん、ただいま」
ご飯代金は直ぐに返した。
「ちょっと教えてもらいたいんだけど、文字を覚えるにはどうしたら良いかな?」
「文字ですか…良かったら夜に私が教えましょうか?」
「え?めちゃくちゃ助かるよ!よろしくお願いします!」
「ふふふ。分かりました。任せて下さい」
これで文字が読めるようになれば行動範囲が広がる。さて、夕食までまだ時間がある。何かする事は…思い出した!町中に行ってリーディングスキルの練習をしなくちゃ!決して好みの相手の下着が読み取れるスキルを楽しむわけではない。今は知らない分からない事が多すぎてそれどころじゃないと感じ始めたからだ。早速、出掛けて町中を歩いてみて、他の人のステータスを見ていると分かった事がある。自分のステータス能力値100ってのがあまり高い方では無いという事が…魔女がいると聞いているが生きていけるのだろうか…突然、けたたましい音が鳴ってビックリする。どうやらリーディングスキルのレベルが上がったようだ。どんなスキルを習得したのだろう?ふむ…
中距離リーディング。リーディングスキルの読み取れる範囲が広がりました。5キロ先まで読み取れます。お!超便利そう!サービスリーディングレベル2。好みの相手の下着が直接、透視できます。直接だと…?ステータス画面で相手のスリーサイズが読み取れます。折角なので利用して下さい!折角かぁ…そうだよね。折角なら仕方ない。使わなきゃ勿体ないもんね。では早速…ふむ…自主規制します。パン屋の娘はベージュ色の紐〇ン…ブ〇が透視できないのはノー〇ラって事?えっと…スリーサイズはB72W58H77…ブ〇が必要ないからかな?それとも習性的なものなのだろうか…こっちの子は薄緑のパン〇と〇ラか…スリーサイズはB81W60H81…あまり見すぎていると倫理観がぶっ壊れそうだ!宿屋に戻ろう!宿屋に戻ると忙しそうに働いているシンデレラが出迎えてくれた。今日も縞々なのかな?スリーサイズも見たい…でも、今はなんか駄目な気がする!
「あ、帰りなさい、ヨウさん。もうすぐ夕食の支度ができますからね」
「ただいま。じゃあ、座って待っているね」
食事を終えて昨夜と同じように片付けの手伝いと今日は掃除もきちんとした。文字を教えてもらう約束だが、入らなかった風呂に行かねば。
「文字を教えてもらうのって風呂の後でも大丈夫かな?」
「はい、大丈夫ですよ。私も夕食後にお風呂頂いてきますので」
「えっと…シンデレラの部屋に行けば良い?」
「あ…私の部屋では小さい机しか無いので…もし良ければヨウさんの部屋に伺いますが…」
「あ…うん。そうしよっか」
「では、また後ほど…」