転生(2人の女神様と2つのスキル)
「痛たたた…え?ここは何処だろう?」
後頭部の痛む部分を右手で押さえながら、上半身を起こしてみると周りには雲海が広がっている。
「あれ?確か…車に轢かれそうな女の子を助けようとして…それから…え?もしかして死んだのかな? 天国?」
「そうよ。あなたは死んだのよ」
後ろから女性の声が聴こえて振り向いてみると、見目麗しい女性が微笑みながら佇んでいた。
「えっと…あなたは?」
「私は運命の女神よ。あなたは、これから次の世界に転生するの」
「異世界転生ってやつですか?」
「そうね」
「そうですか…僕は死んでしまったんですね…では、よろしくお願いします」
「では、簡単に説明しますね。先ず、次の世界は転生でお馴染みの中世ヨーロッパ的な感じです。魔法も使えたり、剣で戦ったりもできます」
「やっぱり…魔王とかいて戦わなくちゃいけませんか?」
「いいえ。魔王はいなくて魔女がいるけど、のんびり楽しく暮らすのも良し、冒険するも良し、あなたの好きにすれば良いわ」
「え? 魔女を倒さなくても平和に暮らせるんですか?」
「まあ、一応ね」
「一応?」
「後は行ってみて考えてみて」
「はあ…」
「じゃあ転生するにあたって能力を与えるけど何が良い? 武力とか魔力とかよりどりみどりよ」
「何でもですか…う〜ん…あっ!あの幸運アップとか可能ですか?」
「勿論、大丈夫よ。じゃあ、準備は良い?」
「ちょっと待って下さい!」
「え?何?」
「あの…幸運は幸運でも恋愛運とかお願いできたりしますか?」
「恋愛運?どうしてまた?」
「恥ずかしい話なんですが恋愛で不幸続きだったもので…生まれ変わるなら是非、お願いさせてもらえればと…」
「そうなの?普通の幸運アップでも充分、素敵な恋愛ができると思うわよ」
「それじゃ駄目なんです…それじゃ…」
「何?やけに食い下がるわね?ちょっと、あなたのヒストリー見せてもらうわよ」
女神様が空中に映し出された四角いウインドウに書かれた文章や絵を見ている。
「やめて…恥ずかしい…」
「何これ…あなた、前世で何か凄い悪い事でもしたの?いくら何でもこれは辛すぎる…」
「はい…本当に辛かったです…」
女神様は更にウインドウを指でスライドして、前前世まで遡って見ている。
「前前世も真面目そのものじゃない。これはおかしすぎる…良いわ。あなたの言う通りに恋愛運をあげるわ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「ちょっと待ってね」
女神様は新しく出たウインドウを指でタッチする。
「あ、もしもし。ちょっとお願いがあるんだけど今、こっち来れる?」
相手方と思われる女性の返事が聴こえる。
「は〜い。大丈夫。すぐ行くね〜」
突然、瞬間移動のように可愛らしい女性が目の前に現れた。
「どうしたの?何かあった?」
「いや、実はね…かくかくしかじかで…」
「まあ…」
「で、これ見て」
ウインドウを2人の女神様が見ている。
「こんな不幸続きな事って…」
「でしょ?だからね、こしょこしょこしょ…」
「分かったわ。任せて」
「あの…そちらの可愛らしい女性は…」
「ああ、ごめんなさい。これは私の妹で愛の女神よ」
「こんにちは。お姉ちゃんから詳しい事情は教えてもらったわ。さぞ辛かったでしょう…」
「はい…」
「今から私の運命の力と妹の愛の力を混ぜ合わせて、恋愛運のコアを作るからね」
2人の女神様が両手を差し出して、光輝く球体のような物が作られていく。
「むむむむむ!えいっ!よし、これで完成よ。受け取って!」
2人の女神様が飛ばしたコアが、僕の胸に入ってきた。
「わぁ…凄く暖かいですね…あれ?涙が…」
「泣くのはまだ早いわよ。前世の分を取り返すつもりで、素敵な恋愛を沢山して幸せになってね」
「私も、あなたの幸せを祈っていますからね」
「ありがとうございます…何とお礼をいって良いのか…頑張って幸せになります!」
「そうね…転生なんだけど恋愛したいなら赤ちゃんではあれだし、何歳から始めたいとかある?」
「え?そういう形も可能なんですね。でしたら…20歳からお願いします」
「分かったわ。じゃあ、準備も出来たので行ってらっしゃい。あ、もう一つおまけしておくね」
「おまけ?」
「ユニークスキルって特殊能力。読み取る力、リーディングスキルよ」
「読み取る力…何から何までありがとうございます!では、行ってきます!」
僕は2人の女神様に深々とお辞儀をした。そして、光に包まれて気付くと町のような場所に居た。