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4話 はじめましての瞬間

「お初御目にかかります。プラリネ国第四王女シャルロットと申します」

目の前の足元でたどたどしい言葉使いながらもしっかりとした姿勢で深々と床に手をつき頭を下げた姫を見て、ブリュレは眩暈を覚えた。

「嘘ですよね」

ずきずきと痛み始める頭を押さえながらブリュレは後ろを振り返る。

そこには人の悪い笑みを浮かべながら王座にどっしりと座っているパティスリー国王の姿がある。

その表情からはふざけたものしか感じ取れないが、王座の隣に控えている大臣やこの謁見の間の入り口から玉座までを左右に分かれてずらりと並ぶ騎士からも嘘はみじんも感じられなかった。

大臣は同情を込めた眼で見つめてくる。

彼は代々一族でこの国を支えてくれる重役の一人だ。

国王よりもいくつか歳が上の彼は国王がまだ幼い頃から教育係も務めている。

殆ど国王と共に生きてきた彼は幼馴染のような、親友のような国王の一番の理解者である。

その彼が無言で諦めろと伝えてくる。

これにはかなりのダメージがある。

いつもは国王のブレーキの役割をしている彼が、アクセル全開の国王を止めてくれない。

ざわざわと騎士たちが囁き始める。

「まさかこの方がご婚約者となるのか」「いや、これはまたずいぶんと」「冗談ではないのか?」わいわいがやがや。

騎士たちは特に何も知らされていなかったらしい。

彼らの驚きはきっと、ブリュレの頭痛と理由は同じだ。


目の前の姫は白いフリルと薄い桃色のドレスは姫という称号にはふさわしいだろうが肩口で切られている髪の毛はくせ毛なのだろう、ふわふわと巻かれてさらに短くなっている。

長い髪は女の憧れであり、その髪を手入れすることが楽しみなのよ!と、昔遊んだ女が言っていた。

仕事の邪魔になるなどで切ってしまう民はいるが、ブリュレの知っている各国の姫君や貴族たちは髪を伸ばしている。

手入れに手間のかかる長い髪は上流階級者の特権らしい。

それがこの姫の髪は短く、赤茶色の髪は大地を思わせるために余計に幼く見えてしまう。

そう、幼く。

周りのざわつき方に若干の焦りを感じ始めたのだろう少女はずっと伏せたままだった頭を恐る恐る上げ始めた。

顔をあげた少女と彼女の眼の前に立っていたブリュレの視線がパチリと合う。

彼女は一度目があったことに驚き首を引いたが戸惑っているのだろう、はにかむように微笑んだ。

その微笑も仕草も全てがブリュレの目にはどうしても結婚適齢期には見えなかった。

「失礼ですが姫。御歳を聞いても?」

ブリュレは声が震えないように精一杯努める。

もしかしたら、見た目だけであって実際はもう少し上かもしれない。

「今年12になりました!」

「お…お若いですね」

しばらく無音だった空間で焦りを見せ始めていた彼女は、声を掛けられたことに安心したのか笑顔でこたえる。

ともすれば挙手でもしそうな勢いなので若干ブリュレが勢いに押される。

だがしかし、この国は結婚が認められるのは15歳からである。

「もうろくしたかジジイ」

勝ち誇ったようにふんぞり返っている国王を態度悪く仰ぎ見る。

「よりにもよって、こんな」

ガキ、とは少女の手前なので言わなかったが目線で訴える。

「可愛かろう?」

嫌な笑顔を振りまきながら国王は立ち上がる。

つかつかとブリュレに歩み寄りながら彼は捲し立てるように続けた。

「おまえがあんまりにも首を縦に振らない。しかしお前はもう27だ。人間の一生は短い。そして国の一生もまたお前の短い人生にかかっているのだ」

ブリュレが何か言い始める前に国王はブリュレを通り過ぎ、まだ幼き姫の前に立った。

座り込んだままの体勢の少女に手を差し伸べる。

少女がおずおずと伸ばされた手に小さな手を重ねると、一息に引っ張り上げた。

ふらりと体勢を崩した少女の肩をがっしりと掴み国王はブリュレの方へ向き直る。

「もう見合いなんぞ悠長なことは言わん。これは国王命令だ」

命令、という言葉にブリュレは顔を顰めた。

国王はブリュレの知らぬ間に相当我慢を重ねたのかもしれない。

とうとう最終手段に出た。

パティスリー国王に命令といわれて断れる者はこの国の住人にはいない。

その言葉にそむけば国に背いたも同然だからだ。

それは王子であるブリュレも変わらない。


「プラリネ国第四王女シャルロット・ポワールを本日、パティスリー王国第一王子ブリュレ・クレームの婚約者とする!」


拒否権はなかった。



「あー言ってやった!言ってやったぞ!」

ウキウキといった表現がよく合う。

スキップでも始まりそうな彼の後ろを大臣は追いかける。

どきどきしたーなどと口走る国王に対してため息が尽きなかった。


「本当によろしかったんですか?」

聞いてはみたが大臣の言葉は確認というよりただの質問である。

悔しそうな王子の顔、戸惑った幼い姫の顔を順に思い浮かべる。

大臣にとっては友の息子は自分の息子のように可愛がっていたし、ブリュレが代わるがわる現れる女性に飽き飽きしていること知っていた。

だからと言って連れてきたのはまだ世間どころか常識すら知っているかどうかすら危うい少女で、こちらは彼女が世を知らぬうちに数あった未来の一部を断ってしまったようなものだ。

どちらも可哀想でしょうがない。

「ブリュレ王子はともかくとして、あのような幼い少女には少し酷かと思われますが」

同情と憐れみを一心に込めて吐き出す。

「まあ確かに若いし、可哀想だからねっ。彼女が本気でブリュレを嫌がるならまた考えるさ」

歩を止めずに言い放つ国王の声は明るい。

それもそうだろう。

姫が本気で婚約を破棄しようものなら彼女の故郷はこの世界の地図から消えるのだから。

心配ないさなどと言っているが、それは可哀想と思っている人間の台詞ではなかった。

「な、大臣。今夜は御馳走を用意させるんだ。久々に気合を入れて豪華な食事会にしよう。

幼い姫君に気に入ってもらうには甘いものがいいな」

フエテ様も、兄上を囮にして今頃伸び伸びと自由を満喫していることだろう、などと主犯である第二王子のことを思い浮かべながら大臣は今夜の食事を考えながら意気揚々と歩く国王の背を見つめた。



この国王に仕えている以上、彼にも拒否権はない。



待ってくれてる人はいないだろうけどお待たせいたしました!!

本当にお久しぶりすぎて何と言ったらよいのやら。何年?

しばらく書いてなかったので設定やらぶっ飛んでるしもおおおおお…。


誤字脱字あればお気軽にご報告していただけると嬉しいです。

てめー間違えてんじゃねーよとお知らせください。

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