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1話 悩める王様

一話一話が短編のようなお話になればなと思いながら書いていきます。

見切り発車の何でもありな感じで書けたらなーと思ってます。

でも魔法は使いません。難しいので!

ありえない国のありえない常識で話を進めていきますのでお付き合いしていただければ幸いです。

昔々パティスリー国という、とても商業の盛んな国がありました。

その国の王様はとても知性にあふれ、国をとても愛しておられました。

やがて王様のもとに、四人の王子が生まれます。

一番初めに生まれた王子はブリュレと名付けられ、この国を率いる新たな王として厳しく育てられました。

やがて大きくなった王子のもとには、多くの結婚の申し出が訪れます。

しかしおかしなことに、城に入った娘たちはたちまち涙で目を腫らしながら帰っていくのです。

聞くと、どうにも性格の悪い王子様の仕打ちに、ほとほと疲れ果てたとおっしゃいます。

お国の後継者ともあろう王子の性格の悪さに、嫁いでくれるような心の広いお姫様もおらず王様は日々頭を抱えておりました。






「おまえは、全くいつもいつも!!私がこれほど選んで選んで選び抜いた娘に!何たる無礼を働いたと申すのか!!」

王座に膝を抱えるようにして縮こまった王には、もはや威厳たるものが見えない。

そうな彼を見ようともせずに王子ことブリュレは、片膝を地につけた形ばかりの姿勢で俯き欠伸を漏らす。

話を聞くつもりはないと、全身が語っているその様子に王様は唇を震わせて怒鳴る。

「おまえは27歳にもなって何を考えておる!!国を継ぐため世継のために、さっさと結婚するべきなのに!!」

「好みじゃなかったもので」

しかしあっさりと答えを返すブリュレに王は呆れた目を向ける。

「何を言うか!代々我が王族を支えてきてくれた貴族の娘。見目麗しく心やさしい、一国を率いるための支えになる教養もしっかり身についておる。文句のつけどころのない娘であったろうが!!」

事実、完璧なまでに洗練された動きといい、なかなかいないほど完璧だったのだ。

それでも目の前にいる王子はどうにも首を縦には振ろうとしなかった。

「いったい何度見合いを破棄すれば気が済むのだ。何が気に食わない」

「気づいておられなかったのですか?それとも本当にそろそろ目がお腐りになったか」

「どういうことだ!!」

目が据わっているとはこういうことを言うのかと、王子は肩を竦めながら王様の顔を見やる。

「この国の常識はいつ頃から変わってしまわれたのでしょうね。化粧を施した声の野太い女装癖のある男すら、女性らしく取り繕っていれば女性と認められるようになってしまった。嘆かわしいことこの上ない…」

確かに見た目は女らしいうえ上品だったために、ブリュレも一瞬我が目を疑ったものだ。

しかしよろしくと差し出された腕は、女にしてはやたらと筋肉質で骨ばっていた。

疲れているのだろうかそんな間違えまでとうとうやらかってしまったことに、王様は顔を青ざめる。

「誰かー!誰かおらぬか!!先ほど泣きながら帰って行った娘…?の素性を調べてくれー!!」

慌てた様子で立ち上がった王様を、側にいた兵士たちが慌ててなだめる。

もう嫌!などと騒ぐ王様をよそに、王子は立ち上がった。

「気が済んだのでしたら私はこれで失礼します」

「あ、ちょっと待たんか!」

我に返った王様が声をかけると、王子は部屋の扉に手をかけて振り向いた。

「何を言われようと、私は王位を継ぐつもりなどありません。結婚などをして姫の我儘などに付き合うつもりもない。面倒なんですよそういうの。失礼します」

矢継ぎ早に言われた言葉には棘が含まれている。

吐き捨てるような台詞と共に、今度こそ扉を開けて出て行ってしまった王子を、王様は言葉もなく見つめた。

「……これでも一応、息子の未来を心配しておるのにあの態度。私は間違っているのか?」

呟くように漏れた言葉に、大臣や兵士たちは躊躇いながら囁き合う。

王族たるもの政略結婚や見合いなどは付き物であるし、見目を選ぶのは当然だ。

しかしこの国の第一王子はどんなに素晴らしい貴族の娘も大国の姫も、首を縦に振ったことがない。

実は王子が女性嫌いなのではないだろうかという噂が出たことがあったが、そう言われてみると遊び歩いているという噂も絶えない。

ただ単に身を固めたくないのか、国を継ぎたくないだけか。

果たしてどういった理由なのだろうかと、一同は首を傾げるばかりだった。





「ったく、毎度毎度ウザいことこの上ないな!!」

部屋を後にしたブリュレは歩調を速めながら自室への長い道のりを歩く。

途中ですれ違う使用人たちは、皆一様に王子の機嫌の悪さを察し触らぬ神に何とやらと言わんばかりに離れていく。

それを冷たい目で一瞥し、さらに機嫌は急降下していく。

今年に入って三度目になる見合い話を、今回も蹴った。

まだ春先であるというのに次から次へと見つけてくる王にもそろそろ殺意すら湧いてきた。


まれに繰り出す街の中にも見目だけで寄ってくる女が後を絶たない。

若しき頃の王によく似ているといわれる。

鏡を見るたびに殺気立つ程度に自分では憎いこの顔が、周りから見ると羨ましいほど美しいらしいのである。

目が腐っているのだ、全員。

さらに金色の長めの髪を一つに束ね、青い目を持っているという定型。

歩きながら稀にガラスに映る自分の姿を見て、数か所抉ってしまいたいとも思う。

所詮見た目が大事なんだろう、と思う。

もしくは金か権力か。

第一王子と言うだけあって、周りはやはり王位を期待してくる者ばかりだ。

自分というものを見てほしい、などと馬鹿らしいことを言うつもりはないが、そういう周りに縛られた結婚というものはしたくはない。

自由がいいのだ。

嫁の言うことに頭を抱えることなどせず、自分の考えたことに従いたいのだ。

后など持たなくても政治はできる。

国のことを考えるのなら女などに頭を抱えている場合ではない、必要ないのだ。

周りに文句言われようが何しようが、自分の選んだことをしたい。

結婚なんてふざけるな、結婚しないと継げないのなら王位なんて糞くらえだ。

「ああああ腹が立つ!死んでしまえ老いぼれ爺が!!」

自室の扉を文字通り蹴破った。

金具が曲がったり、多少ひしゃげた感があるが気にしない。

苛立ち紛れにベットに突っ込むと、開け放ったままだった入口から笑い声が聞こえた。

聞き覚えのある声の主は、見なくても分かる。

「フエテか。聞いてたのか、っていうか付いて来てたのか」

「駄目だなぁ兄さんは。そんな大きな声で父上の悪口言ったら大変だよ?」

問いかけに答える声は、楽しそうに聞こえる。

咎めに来たわけではないと一瞬にして分かるために、ブリュレの言葉も自然と軽口になる。

「何が「大変だよ?」だ。お前だって似たようなこと言うだろ」

「ばれない程度に隠れてるじゃないか。第一僕は兄さんのように死んでくれ、なんてこれっぽっちも思ってないよ」

「そうだな、ただちょーっとばかしブッ飛ばすぞコノヤロウ、くらいに思ってるだけだもんな」

「そうそう。あ、でも殺すんであれば協力するよ?正し一応は暗殺じゃないとだめだけど」

軽口を叩き合いながらも物騒な内容に、二人で笑い合う。

フエテはブリュレの弟で、この国の第二王子にあたる。

母親似の薄茶色の髪に、緑の瞳はブリュレにとって羨ましく焦がれるものだ。

「いいなあ、おまえは」

「何が?この見た目が?色以外は兄さんと同じでしょ」

「たとえ同じ顔でも、どう考えてもお前の方が平凡な色してるだろ」

「平凡…ね。僕としては典型的な兄さんみたいな色も、目立っていいと思うんだけど」

目立つって言ってんじゃねーか、と返す兄に笑いを向けてフエテはベットに腰をかけた。

「父上も、ああやって押しつけがましくしなければいいんだけど。そうも言ってられないんだろうね」

「確かに、俺も歳がな」

わかってはいるのだ。

この国では15から結婚も考えなくてはならない。

それを10も過ぎているブリュレに、王が頭を抱えるのは当たり前なのである。

「挙句の果てに第一王子だもん。父上も面目丸潰れなんだよ」

「知らん。お前はどうなんだ。何で自由を謳歌してんだ」

ブリュレの年齢を案じているのならフエテも20歳だ。

ついこの間まではフエテもお見合いラッシュだったにもかかわらず、ここ最近になって王の攻撃が自分にしか当たってこないことをブリュレは気にしていた。

問いかけに対して、フエテはさわやかな笑みを向ける。

「当てがあるもので。なかなか手が掛かってるけど」

「あっそう…」

つまりは残っているのは自分だけだということか。

ほんのり寂しく感じながらそれを顔には出さず、ブリュレは盛大な溜息をついた。

「もう、おれは一生独りでいいんです!!こうなりゃ意地だ!」

「またまたそんなこと言ってー。兄さんはいつもそうやって投げるんだから」

だめだよ、という声は優しく諭すようだった。

つい最近まで一緒になって逃げ回っていたのに、相手を見つけるとこうも余裕にもなるのだろうか。

置いて行かれてしまったような気がする。

「お兄ちゃんはさみしいよ、フエテ」

「気持ち悪いなぁ。ま、兄さんもその内考えが変わるって」

あっさりと言われた言葉に多少心を抉られながら、ブリュレを寝そべったまま窓を見上げた。

「変えるほど何か衝撃的なことが起これば、な…」

ぽつりと漏らした言葉にフエテがほくそ笑んでいたことを、ブリュレはまだ気づいていなかった。






「ということなんだそうで、父上。何か衝撃的なことが欲しいですね」

玉座の前に膝をつき、フエテは王に対して笑みを向ける。

「とはいえ、おかまにだって驚かんかったぞ」

あれ、計ってやったんですか?という問いかけに王は苦い顔を向ける。

そんな訳ないだろうという答えに、破棄はなかった。

「冗談ですよ。……ところで僕に考えがあるのですが」

不敵な笑みともいえる顔に、悪寒を覚えながらも王は頷く。

「言ってみろ」

「はい。プラリネ国のことですが、そろそろ、和解してもいいころかと思いまして」

「ええー」

プラリネ国というのはパティスリーの東隣に位置し、田畑が盛んな農家の国だ。

商業が基本のパティスリーにしてみれば田舎なのだがお酒の生産量が大陸一なので、隣というだけあって昔から王が気にしていた国だった。

基本が布や糸、海が近いので海産物が基本のパティスリーには農作物などが極端に少ない。

土の関係もあって農作物などにも向いていないこの国には、そのような国との交流があればもっと開ける。

「でも、なんだか怖がられてるんだよなぁ。あの国の王はみんな保身的で」

「先代たちが散々脅していたそうですからね」

大きな戦争はしていないが隣同士だ、昔からいざこざが絶えなかったらしく今ではめっきり交流が無くなってしまっている。

「私じゃないぞう。私は仲良くしたいと思っているんだ」

拗ねるような素振りを見せる王にため息を漏らし、フエテは言葉を続ける。

「まあ怖がられているならそれでもいいです。いっそ一思いに脅してやりましょう」

フエテの物騒な物言いに、一瞬王が苦い顔をする。

「そうしてこうも一癖も二癖もあるんだお前たちは…」

「そんなこと、あなたの息子だからに決まっております」

にっこり笑うフエテに、怯えるように視線を反らした王が思いついたように言う。

「あれ?あの国の姫ってもう皆嫁に行ってしまっているだろう」

「いいえ」

一人だけ残っていますと続いた言葉に、王はとうとう明後日の方向を向いた。

「変な噂が立ったらどうしてくれる」

「ですが成功すれば調子に乗った兄さんが王位すら継いでくれるかもしれませんよ」

楽しいじゃないですか。

そう呟いた声は風に乗って、ブリュレのくしゃみに変わったとかなんとか。

誤字脱字ありましたら叱ってやってください。

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