EP56:奈良県の物型霊
西へと向かっていったセルキは奈良県へと着いた。「奈良か…家族で一回しか行ってねえからな…まあ、ちっせえときだったから、写真を見るまで思い出せなかったけどな。」とセルキが言うと、アビスは気まずすぎて黙ってしまった。
「大丈夫だ、アビス。もう吹っ切れたからな。あのジジイも地獄に行ったと思うし、ネルミとも和解できたしな。」とセルキが言うと、「ああ、そっか。…ならいいけどな。」とアビスは言った。
「で、今回はどっちだ?」とセルキが聞くと、「ああ、おそらくだが、向こうから来てくれると思うぞ。…気ぃ引き締めとけよ。かなりの大物だからな。神々しすぎて例の外国人二人も感心して拝んだだけで特有のネーミングセンスで付けた名前もない。」とアビスは言った。
「神々しいってよ、それってまさか…あれだよな?」とセルキが言うと、セルキたちに向かってドシン、ドシンと音を立てて何かが向かってきていた。「ああ、あれだ。『奈良の大仏』だ。」とアビスは言った。
セルキは近づいてきた『奈良の大仏』を見上げたら、「お前さんが、セルキ・マッカントリー…いや、アビス・マエストリーだな。」と『奈良の大仏』が言うと、「ああそうですよ、大仏さん。あと、呼び名はどっちかって言ったらセルキで頼んます。」と言った。
「まあ、セルキ・マッカントリー。お前さんに警告しに来たのだ。お前さんがしようとしていることはお前さんの中にいるアビス・ホーパーと同じことだ。またあの惨劇を繰り返すのか?」と『奈良の大仏』が言うと、「ああ、心配ねぇっすよ。この行動にゃ償いも含まれていますから。それともなんですか?罪を償おうとしている人間を大仏様は止めるんですか?」とセルキは言った。
「それでも、やっていいことといけないことくらいお前さんも分かってきたはずだろう?お前さんには向こうで待ってくれている人がいるはずだろう?なのに…」と『奈良の大仏』が言うと、「なら、他にどうしたら良かったんですか!この方法以外に思いつかなかったから俺はこうしているんすよ!?もし、大仏様の止めるんだったら…戦うだけだ。」とセルキは言いながら構え始めた。「…結局こうなるんですね。いいでしょう…力ずくでも、お前さんを止めます!」と『奈良の大仏』も構えた。
「『掌印:挟拳』!」と『奈良の大仏』は両手を上下にすると、大きい掌がセルキを押しつぶすようにセルキに向かってきた。
「ぐっ!さっすがは大仏様だな…拳とはいえ、これは重てえ!重てえけど…振り切れねえほどでもねえ!」とセルキは『掌印:挟拳』を抜け、『奈良の大仏』へまっすぐ向かいながら、『邪舞:黒炎邪剣』を出して突撃した。「くっ!これくらいならば抜け出すことはできるのか…ならば、『掌印:光明道』!」と『奈良の大仏』は言いながら消えた。
「なっ!どこに行ったんだ!」とセルキがあたりを探すと、「ここですよ、セルキ・マッカントリー。」と『奈良の大仏』は後ろから言ってきた。「くっ、くそっ!ならば…もっとはやく行くしかねえ!」とセルキがスピードを上げるも、『奈良の大仏』の『掌印:光明道』で軽々とかわされてしまう。
ーふっ、速度を早めたくらいでは私は見逃しませんよ、セルキ・マッカントリー。目は半開きでなかなか見えない代わりに私はその者や力・技の気を感じ取ることができるのです。いくら速度を上げても気を感じることさえできればどこから来るのかは分かりやすい…さあ、セルキ・マッカントリーこの私をどう倒す!と『奈良の大仏』は思っていると、突如セルキの気配が消えた。
ーなっ!?彼は一体どこに行ったというのですか!そう『奈良の大仏』が思っていると、後ろから『邪舞:黒炎邪剣』の気を感じ取った『奈良の大仏』が避けると、「…やっぱりここに来ちまいましたか。大仏様よ〜!」と前からセルキの声が聞こえてきた。「馬鹿な!確かに『黒炎邪剣』の気配は!」と『奈良の大仏』が言うと、「ああそうか、大仏様だから気を感じることが出来たのか!アビスが試しにやってみろって言ってたが、このことだったんだな!」とセルキは言った。
ーやはり気づいてはいなかった!だが、絶望神よ…あなたの入れ知恵ですか!厄介な…と『奈良の大仏』が思っていると、「じゃあこれで、やっと攻撃が当たりますなっと!『乱舞:鬼殺し』!」とセルキは『奈良の大仏』に攻撃を当てることが出来た。だが、
「…どういうことだ?」とセルキは不思議がっていた。「おい、どうしたセルキ?」とアビスが言うと、「感触がねえんだ。大仏様に攻撃があたったっていう感触がまるで、空気を斬っているようだった…」とセルキは言った。すると、「はっはっはっは。まさか、こんなにもはやく攻撃されるとは思いませんでしたよ。ですが、残念でしたね。この姿は私の魂だけの存在…身体などまったくない存在なのです。ああ、本体は冥界におりますゆえ。」と『奈良の大仏』は言った。
「なっ!?じゃあ、最初っからやらねなかったということなのか?」とセルキが言うと、「ええそうですよ。私はとある少女の言葉が真実かどうかを確かめに来ただけですから。それだけのために天から降りるわけにはいけませんから。」と『奈良の大仏』は言った。
「ある少女?一体誰だ?」とセルキが言うと、「まあ、そこはそこまで深く掘らなくとも構いませんので。セルキ・マッカントリー、あなたは自分の行ってきたことに対してどうお思いでしょうか?」と『奈良の大仏』がセルキに聞くと、「俺のやってきたことは…今考えればやりすぎたな。だから、普っ通にアウトなこと罪だってことだ。今まで『極裁』でやってきたことも、冥世でやらかしたこともな。」とセルキは答えた。
「ええ、たしかにあなたのやったことは人間基準だと罪です。ですが、あなたがやってきたその罪というものは、あなたがするまで耐えるしかなかった被害者からしたら優なのです。いきすぎた善や優は悪や罪になってしまいます。どんなことにも表と裏というものがあるのです。ある人が見れば罪なことも別の人が見たら優になることもあります。あなたが現世でやってきていたことは被害者からしたら優であり善です。なので、そんなに自分を責めないでください。」と『奈良の大仏』が言うと、「…どんだけ言葉を並べたって結局捕まっちまったんだからそりゃ罪だ。仮に、現世でやってきたことが罪にならんとしても、俺が冥世でやらかしちまったもんはどうなんだ?どんな人が見ても善や優なんてありゃしねえ。悪と罪だけなんすよ。」とセルキは言った。
「だから、歴史の再現をしていると?」と『奈良の大仏』が聞くと、「そうっすよ。これが俺が冥世でやらかしたもんの償いなんすよ。」とセルキは言った。
「…分かった。そこまで覚悟が決まっているのならば私は止めぬぞ。お前さんがあの少女の言う通り優しきものだと分かったからな。だから…お前さんが言っていた罪を私がもらっていくとしよう。」と『奈良の大仏』はセルキの身体の中に手を突っ込んだ。「罪を探してんだろ?持ってけよ。セルキは頑固で責任感がなさそうに見えて結構後悔してんだよ。遠慮せずに罪を浄化してやってくれ。」とアビスが言うと、「そういうお主は、セルキ・マッカントリーに隠し事をしているだろう?」と『奈良の大仏』は最後にアビスにそう言ってセルキの身体から離れた後、セルキの身体から出てきた罪を持って冥界へと去っていった。
「…優しいやつか。だからといって罪を持っていったといえ、過去は変わんねえのによ。…まあでも、感謝しやす大仏様。」とセルキは言いながら合掌した。「…やっぱ大仏さんにゃ気づかれちまうか。セルキにバレてねえのはありがてえがな…」とアビスは小さく言っていると、「おい、アビス!次はどこへ行きゃいいんだ?」とセルキが言ってきたので、「ああ、このまま西だ!」とアビスは言った。
そんなやり取りが少し前にあり、ゴーキンたちも奈良県へと到着した。「大川!」とゴーキンが言うと、「また西だよ!」と大川が言ったので、ゴーキンたちも西へと向かっていった。
「で、次はなんだ?」とセルキが聞くと、「ああ、次は和歌山だ。」とアビスは答えた。
「戻ってきましたよ。」と冥界に魂が戻ってきた『奈良の大仏』は例の少女の元へと行っていた。「で、どうでした大仏様!私の『友達』はいい人だったでしょう?」とその少女が言うと、「ええ、とても。ただ、少し頑固で正義感が強すぎるのは玉に瑕ではありますがね。」と『奈良の大仏』は笑いながら言った。
「しかし、驚きましたよ。もともと物型霊がなかった奈良県に私を物型霊として置き、セルキ・マッカントリーと戦ってほしいと言われるとは…まあ、あの子の覚悟についても知りたかったですし、あの子の行く末を見届けるとしましょうか、『琵琶子』さん。」と『奈良の大仏』は滋賀県の物型霊『琵琶子』に向かって言った。
「えへへっ、でも…セルキ君どうするんだろ。現世での幸せな暮らしが待っているのに…セルキ君がずっと望んでいる未来が待ってるのに…」と『琵琶子』が言うと、「それについては心配いりません。彼の中にいる絶望神がなにやら秘策を持っている可能性があります。かれはセルキ・マッカントリーに対して隠し事をしているようですしね。」と『奈良の大仏』は優しい声で言った。
「そっか、それなら安心だね!」と『琵琶子』が言うと、「さあ、行きましょうか。彼の罪を浄化しなければなりませんからね。」と『奈良の大仏』が言うと、『琵琶子』は頷きながら冥界の奥の方へと一旦姿を消していった。
奈良の大仏の特性:奈良県の物型霊と判定された奈良の大仏は魂だけの存在であり、体は冥界の方にある。だが、たま良いだけの存在とはいえ、力はありますし、掌印を使って技を出すことも出来ます。(技は、冥界にいる本体の掌が直接攻撃しています)また、目は半開きであまり見えていないので、相手から発する気の流れを感じて誰かを判別したり戦ったり会話したりしています。
掌印:挟拳 手を合わせた後、右手の指先を下に向けることで発動。巨大な本体の両拳が対象の上下に出現し、押しつぶす。
掌印:光明道 両手で三角を作り、その間から見える景色のところまで瞬間移動する。
おまけ
『琵琶子』に関してですが、なぜあのようにほとんど対等に『奈良の大仏』と接しているのかというと、彼女は琵琶湖の守り神という存在になってしまい、神様の一人としてカウントされたからです。




