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「‥‥そんなのは、お前が可愛いからに決まっているだろう?」
「どんなところが好きですか?」
「全てだ」
ベアトリスのマーヴィンへの過剰な愛情の原因は、元々のベアトリスの性格や取り巻く環境もあるだろうが、一番はブランドなのかもしれない。
ブランドはベアトリスを当たり前のようにストーカーしている。
そしてベアトリスの全てを当然のように把握している。
だが、ベアトリスは特に気にしていない。
毎日毎日、飽きることなく「可愛い」「天使」「世界一だ」とベアトリスを全力で褒め称える。
それも先程のように真顔でよく分からない事を当然のように言いながら‥。
ベアトリスの父と母も一人娘であるベアトリスを溺愛している為、ブランドを咎める事も止める事も無かった。
ベアトリスは当たり前のようにブランドの異常ともいえる愛を受け入れていたが、マーヴィンはベアトリスの常軌を逸する愛情にドン引きした。
ベアトリスの当たり前が、当たり前では無かったのだ。
だからベアトリスはマーヴィンが何故嫌がっているのか、何故自分の愛情を受け入れてくれないのかが理解できなかったのかもしれない。
「お兄様、わたくし‥」
「なんだ?ベアトリス‥そんなに改まって」
「わたくし、マーヴィン様との婚約を破棄したいのです」
「―――ッ!!?」
「‥‥」
「‥‥」
「あの、お兄様‥?」
「‥‥」
「おーにぃーさまー!!」
ブランドがベアトリスを抱いたまま立ち止まる。
そのまま思考停止‥‥固まってしまった。
ベアトリスが何度呼んでも動かない為、ブランドが起きるのを暫く待っていると‥
「―――ッ!!?もしかしてあのクソ野郎がお前に何かしたのかッ!?また他の令嬢と浮気か!?」
「‥‥それはいつもの事ですわ」
「そうか‥まぁ、そうだな」
どうやらブランドの中で結論が出たようだが、それはマーヴィンの通常通りの行動である。
勿論、言うまでもないがブランドは不誠実なマーヴィンの行動をよく思っていない。
心の底から憎んでいる。
しかしベアトリスに、マーヴィンとの事だけは「絶対に邪魔するな」と言われている。
そして両親にも言わないように口止めを「お願い」されているので、必死に我慢しているのだ。
「こんなに可愛いベアトリスが、婚約者なのに‥!クソが!!ああ、なんて羨ましいんだッ!」
「‥‥お兄様」
「やはり一度、ピーーしてピーーーーするしかないッ!!」
「お兄様ってば!!」
「ベアトリスが一言"ヤレ"と言えば‥!俺は‥っ」
(‥‥‥ブランド、危ないわ)
「さぁ言うんだ、ベアトリス!!!」
「お兄様、ピーーは致しません」
「なら、ピーーーーはどうだ!?」
「はぁ‥‥ピーーーーもダメですわ。お兄様が処刑されます」
「何故だッ!何故なのだ!!ベアトリスゥ‥!!なら、どうしろというんだ!?」
「‥‥他の方法を探して下さい」
とても魅力的な提案だが、シセーラ侯爵家のためにもブランドにそんな事はさせられない。
「それにベアトリスは、あんなにマーヴィンを愛していたじゃないかっ!」
「わたくし、やっと目が覚めたのです!」
「ベアトリス‥」
「このままマーヴィン様を追いかけていると、わたくしは破滅の道を辿るのです!!」
「は、破滅‥?」
「はい」
「‥‥ベアトリスが、破滅だと!!?」
「はい!」
「そんなの許せる訳ないだろう‥?」
「その通りですわ!!」
ガタガタと震えるブランドに、ベアトリスは力強く言い放つ。
「わたくし決めたのです‥!!」
(あんなクソ野郎とは、さっさと婚約破棄よ!!)
「――ッ!?」
「その事をお父様に相談しに行くのですわ」
「そ、それは喜ばしい事だが‥でもそんな事をしてしまったら‥!」
「だからお兄様、お父様の所に連れて行ってください!!」
ブランドの手からプルプルという振動が伝わってくる。
「‥‥だ、ダメだ」
「え‥?」
「ベアトリスが幸せになれないなんて‥!」
ブランドの顔がどんどんと硬くなっていく。




