14
「これと先程マーヴィン様が破り捨てた書類を公爵様に提出して、本日中には婚約破棄する所存です」
「‥‥!!」
そうすれば原因はマーヴィンにあるからと、婚約破棄も容易く出来ると考えたのだ。
それに慰謝料は貰えないだろうが、簡単にサインは貰えそうである。
「俺、は‥どうすれば」
「‥‥王女殿下に救ってもらうのは如何でしょう?」
「なっ、何故それを‥!?」
「わたくしは不貞行為を繰り返す男なんて御免ですけれど」
「っ、ハンナはお前と違って聖母のような女性だ!!」
「王女殿下をハンナですって‥‥フフッ、随分と親密なのですね」
「!!」
もうハンナによるマーヴィン攻略は半分程まで進んでいる筈だ。
ベアトリスが高熱を出してお見舞いに来たのも1つのイベントである。
あの後、マーヴィンはハンナに励ましてもらった事だろう。
順調に攻略されているようで何よりである。
(さっさと王女の元へと行けばいいのよ‥‥行ければの話だけどね)
マーヴィンは王女であるハンナの存在を思い出したからか、緊張で強張っていた表情が柔らかくなる。
きっと、ハンナが助けてくれるとでも思っているのだろう。
「けれど、よく考えて下さいまし?」
「‥‥何だ」
「わたくしと婚約しながら、王女殿下に手を出したなんて知られれば‥‥ねぇ?」
そんな希望の光であるハンナとの未来を、ベアトリスは容赦なく塞いでいく。
「お、まえ‥!」
「そんな女性関係にダラシない男との婚約を、国王陛下がお許しになるとは思えませんけど」
「‥‥っ!!」
ベアトリスがシナリオから退場する事で、これからハンナとマーヴィンがどうなるかは分からない。
けれど、それは2人で仲良く決めればいい。
「もうそれも、わたくしには関係無いことですわね‥‥ではマーヴィン様、お元気で」
ベアトリスが立ち上がり、マーヴィンに背を向けて去ろうとした時だった。
「―――クソッ!お前さえ、お前さえいなければッ!!」
「きゃ‥!」
マーヴィンにいきなり体を押されて、体勢を崩したベアトリスは尻餅をつく。
マーヴィンが覆い被さるようにして、ベアトリスを押さえつける。
「書類を全て寄越せッ!!」
「絶対に嫌!!離してっ‥!」
「――お前は黙って俺の言う事を聞いていればいいんだよっ!!」
「最低ッ!このクソ野郎ッ!!」
マーヴィンに負けてたまるかと、ベアトリスも全力で抵抗する。
そしてマーヴィンが手を振り上げたのを見て、ベアトリスは固く目を瞑った。
「―――やめろッ!!」
そんな声が耳に届いた後、いつまでも痛みがない事を不思議に思ったベアトリスは薄く目を開けた。
「うちの可愛いベアトリスにっ!!貴様ッ!!」
「ブランドお兄様‥!!」
「離せっ、ブランド‥邪魔をするなあぁ!!」
「っ、お前だけは絶対に許さんッ!」
ブランドはベアトリスからマーヴィンを引き剥がすと、ベアトリスを庇うように前に出る。
ブランドは一瞬の隙をついてマーヴィンの腕を掴んでから、あっという間に地面に叩きつけてしまった。
ブランドに捩じ伏せられたマーヴィンは苦痛に顔を歪める。
「額を地面に擦り付けて詫びるがいいッ!!マーヴィン・セレクト‥」
「お兄様‥!」
「ベアトリスの‥っ!ベアトリスの尻を傷付けた罪は万死に値するッ!!!」
「‥‥‥」
因みにブランドはベアトリスの為に護身術、剣術、体術‥全て習得済みである。
ブランドにボコボコにされるマーヴィンの姿を見ているのもいいが、このままではマーヴィンの命が危ないと思ったベアトリスは、ブランドを止めるべくブランドの服を引く。
「はっ‥ベアトリス!!尻は無事か!」
「‥‥お陰様で。尻は無事ですわ」
「そうか!!はぁ‥良かった」
「はい」
「お前がなかなか帰ってこないから心配で‥!」
「‥‥ありがとうございます、お兄様」
「っ!?」
安心感からか、ベアトリスは御礼を言いながらブランドに抱きついた。
ブランドはベアトリスが抱きついてくれた事が余程嬉しいのか、顔面がデレデレに崩壊している。




