マーヴィンside(2)
けれどマーヴィンには婚約者が居る。
ハンナの手を取りたくてもマーヴィンには‥。
(クソ‥アイツさえ居なければ)
そんな時、ベアトリスが高熱を出して寝込んだと連絡があった。
父であるセレクト公爵にも「ベアトリスのお見舞いに行け」と言われ、ベアトリスの兄であるブランドにも「お見舞いに来てくれ」と言われたマーヴィンは何かと理由をつけて頑なに拒否していた。
しかしハンナに「マーヴィン様、問題から目を背けて逃げてばかりいてはいけません」と諭されたマーヴィンは仕方なくシセーラ侯爵家へと向かった。
「世界で一番お前が嫌いだ」
「‥‥マーヴィン、様?」
ベアトリスは熱に浮かされながらも目を見開いていた。
ベアトリスが意識があると思わずに、マーヴィンは驚いた。
しかしマーヴィンの脳内にはハンナの笑顔‥気持ちは溢れ出ていく。
「このまま目が覚めなければいいのに‥」
(そうすれば、ハンナと‥)
もし熱が下がってベアトリスに何か言われても、マーヴィンが"婚約破棄してくれ"と言えば、ベアトリスは黙るしかないのだ。
明らかにマーヴィンが不利な婚約も、この一言でベアトリスは何でも言う事を聞くようになる。
(馬鹿な女だ‥)
ベアトリスの返事を待つ事なく、マーヴィンはベアトリスの部屋を出た。
その扉の外で待ち構えていたのは‥
「ブランド・シセーラ‥」
「‥‥帰るのだろう?案内しよう」
ブランドの表情を窺う事は出来ないが圧迫感を感じていた。
ブランドから感じる鋭い視線‥しかしマーヴィンは特に気にする事は無かった。
(気味の悪い男だな)
一応、ベアトリスの為にマーヴィンは侯爵家に足を運んだ。
(それだけで十分、婚約者の役割を果たしたじゃないか)
マーヴィンはシセーラ侯爵の屋敷を出て、すぐにハンナの元へ向かった。
ハンナは「よく頑張りましたね」とマーヴィンを褒めてくれたのだ。
その瞬間、マーヴィンは酷く満たされた。
(ああ‥俺はハンナが居なければ)
ハンナはマーヴィンの心の支えになっていった。
*
ベアトリスの件から暫く経った後、セレクト公爵家で会いましょう、とマーヴィンに連絡があった。
(‥‥あの時の事か?まさかコイツに限ってそんな事あるわけない)
マーヴィンは最悪な気分だったが、父であるセレクト公爵の目がある為、仕方なくベアトリスをエスコートしながら中庭へと向かった。
ベアトリスはマーヴィンを見ても嬉しそうな顔をせず、静かに歩いていた。
(‥‥なんだ?やはりあの時の事を怒っているのか?)
ベアトリスを睨みつけても、ベアトリスは何の反応も返さない。
「この間は、お見舞いに来て下さりありがとうございました」
「お兄様が無理を申し上げたようで申し訳ございません」
突然、礼儀正しく対応するベアトリスにマーヴィンは目を見開いた。
「今回は、ある確認をしに参りましたの」
「なんだ突然‥‥気持ち悪い」
ベアトリスは意味のわからない発言にマーヴィンは首を傾げた。
「マーヴィン様はわたくしを"嫌い"だと仰っていましたでしょう?」
(お前なんて嫌いだ‥消えてしまえばいいのに)
ハンナの笑顔が思い浮かぶ。
「その気持ちに間違いはないですわよね?」
(ずっと俺はそう言っていただろうが‥)
「では、わたくしとの婚約を継続したいですか?」
「お前など死ぬほど嫌いだ‥今すぐ婚約破棄したい」
質問に答えさせられたマーヴィンには次第に苛々が募ってくる。
感情のままにベアトリスを罵倒する。
煩わしくなったマーヴィンはいつものように"婚約破棄したい"と言った。
(そうすれば静かになるだろう‥また泣いて縋ってくるに決まっている)
早くこの時間が終われと思っていたマーヴィンはベアトリスの言葉に驚愕する事になる。
「なら、お望み通り今すぐに婚約破棄致しましょう?」




