初恋は実らないものだと言ったのは誰が最初なんだろう
『喜楽直人さんには「僕らはいつも背中合わせの関係だった」で始まり、「君の隣が息苦しい」がどこかに入って、「この道を信じている」で終わる物語を書いて欲しいです。』
と、診断メーカーに出たので書いてみました。
※アルファポリス様でも公開しております。
幼馴染だといっても、僕らはいつも背中合わせの関係だった。
僕の好きな物を、君はきらい。
君が得意とするものに、僕は興味が湧かない。
食べ物もそう。
「うはっ。『タピオカしるこ』だって! 買・わ・な・きゃ☆」
「おぅ。『あったか~い』にスポドリが入ってる! しかもレモン味」
「伊予柑コーヒーかぁ。やっぱこの酒屋の自販機、攻めすぎ」
言葉は文句付けているようにしか聞こえないけれど、嬉々として自販機に並ぶアヤシゲな新製品のドリンクを買う君から、僕はいつだって嫌そうな顔を隠すことなく半歩離れる。
反対に、僕の父が出張から帰ってくる度に買ってくる干し海鞘や貝ヒモ燻製を齧っているのを見つかる度に、「よくそんなの喜んで口に入れるね」だの「うぇっ。信じらんない。そんなの食べた人間には傍にいて欲しくない」だのと、いつだって君は言ってくる。
なら近寄ってくんな。齧っている内に口に広がる磯の香りの良さがわからん奴には1本たりとも、やらんと喧嘩になるのも、いつものことだ。
君は運動が得意だったから、本ばかり読んでいる僕のことをよく揶揄していたし、体育祭でリレーだの障害物走だのとたくさん掛け持ちして出場する君は、人数合わせで大玉転がしのチームに入れられた僕が、皆の後ろからただ歩いて回るの姿に癇癪を起してた。
ちなみに大玉転がしは3位だった。可もなく不可もなく怪我人もなく終わった。
テストの時は逆に僕が「ふぅ、こんな問題も解けないんですか」と炬燵に広げた教科書や副教材の問題集を前に、唸るばかりの君を揶揄できるチャンスタイムだ。
でも、君が「教えてください!」と頭を下げつつ提示してくる御礼はいつだって僕には罰ゲームでしかなくて。
「角のパン屋で買ってきた幻の揚げ饅頭ぱん献上するから!」とか言って差し出されてもさぁ。
甘くて油っぽくて、手の平の上に乗っかるサイズしかないのに、これ半分で夕飯が食べられなくなる勢いで胃が受け付けない食べ物なんか、君が横で食べているのすら正直キツいんだが?
「わかった。ならバスケのシュートを一度も決めたことのないお前を次の体育の授業でヒーローにするべくシュートを伝授してやろう!」とか言われた時は、思わず部屋から出ていってやろうと思った。
「彼女できちゃうかもしんないぞ?」とか。本当に余計なお世話だと思う。
でも最近、君の隣が息苦しい。
中二の二学期。進路相談が始まって、クラスメイトとの話題が「高校どこにする?」って事ばっかりになってきた。
もしくは、「小学校の頃から通っていた学習塾から受験用の予備校に変えようと思ってるんだけど、どこにしよう」とかね。
ウチは正直金持ちどころか貧乏よりの家なので、公立で、できるだけ偏差値の高いところか、私立で特待生制度がある高校じゃないといけないらしい。
ついでに交通費も自転車通学できる場所でって指示が昨夜出た。
そんなの、選択肢狭すぎというか一択しかない。
普通科と体育科があって、それぞれに特待生度がある私立。
一般生徒の偏差値と、特待生における偏差値の差がもんのすごい事になっているので有名な学校だ。
一般でなら余裕だろうけど、特待生になりたかったら到底自力じゃ無理な高校である。
それなのに、予備校には「特待生になれるなら行ってもいいよ」とか親に言われてげんなりしてる。ここでも『特待生』だって。
近所の予備校にはテキスト代だけで通わせてくれる制度がある所が隣の駅の前に一か所だけある。自転車なら30分ってとこだ。
中学生相手の塾なのに入学試験がある予備校。なんと高飛車な。
特待生制度を使っているクラスメイトがいるけどそいつよりは成績いい筈なんで、試験には通ると思うけど、ここに通うのは正直身体がキツイ。
車での送迎が基本なんだもん。身体だけじゃなくて心もキツイかも。
親に顧みられてないことには小学校に通ってる間には気が付いていたし、ある程度それを受け入れてきたけど。
でもさ、金も時間も何もかも、お前には最低限しか使うつもりはないと突きつけられるのはやっぱり承知はできても、理解しきれないというか。
でも、高校受験で浪人とかしたくない。ないわぁ。
共働きしてるのに、なんでそんなに金がないんだかとは思うけど、しゃーない。
親が金のこととか僕のことで喧嘩するのを聞かされるよりマシだ。
できるだけ負担にならないように、気を付けていくしかないんだろう。自立するまで。
だから、
「あーあ。学校さぼってどっか遠いとこ行きたい。行っちゃわない?」
とか君が言い出した時、つい怒鳴ってしまったんだ。
「僕に、そんな時間も金も、ある訳ないだろ!」って。
僕の両親が離婚したがっていることなんか、君にはまったく関係ないのに。
僕が何をどう頑張ったって、これはきっと覆せない。
ドラマとか観てて『うわぁ。早く離婚しちゃえばいいのに』って思ってた。
リアルに自分がその子供の役どころになった今も、僕の意見は変わらない。
だって、ふたりして他に好きな人がいるなら、一緒にいるなんて無駄でしかないからだ。
馬鹿らしい。
なんで僕なんて産んだんだ。産まなきゃ良かったんだ。
そうしたら喧嘩の理由だって減ったし、離婚するのだってもっとずっと簡単だったのに。
突然、怒鳴り出した僕に、君が目を白黒させている。
なんて間抜け顔だ。
両親とは月に一度はどこかへ遊びに行くほど仲良し家族の君に、ヤツ当たりしたって仕方がないのに。
君が悪い訳じゃない。
多分、僕だって、僕自身が悪い訳じゃない。と思う。
でもやっぱり、僕と君は、どんなに傍にいる時間が長かろうとも、背中合わせの存在でしかないんだと、思い知る。
「ごめん。なんか、ちょっと……進路のこととか決まんなくて、苛ついてた」
ごめんな、と笑って。
気にしなくていいよ、こっちも空気読めなくてごめんって、君が笑ってくれて。
でも、僕はもう、君の傍には居られないんだ。
だから、いやがらせしてやろうと選んだ早めの誕生日のプレゼントに、君が目を輝かせて喜んだ、この、最後にした会話なんかも、忘れないといけない。
『えー? 誕生日プレゼントって言われても、来月なんだけど。間違えるなんて酷いな』
唇を尖らせながら文句を言われたけど、それでも受け取って貰えたから。
ぐしゃぐしゃになってた紙袋から、最近急に大人っぽい表情をするようになった君に似合わなさすぎる、子供っぽいピンクの豚のマンガみたいな絵が描かれているシュシュを、君は取り出して検分して。
ひとしきり笑って、あんまり長くない髪を束ねて着けた。
君が、笑う。
『ありがとう。大切にする』
シュシュから飛び出した、撥ねた髪が夕日を受けて眩しかった。
明日引っ越すんだって伝えそこなったけど。
笑ってバイバイできたから。いいんだ。
大丈夫。
「ねぇ、もう詰め忘れた物はないんでしょうね? もう取りに来る訳にはいかないんだからね」
そうだね。明後日には、父さんの新しい奥さんが引っ越してくるって言ってたもんね。
初婚なのに前妻とその息子が住んでたそのままの家で、そのままの家具や布団を使って暮らすのってどうかと思うけど、僕の養育費とか学費とか、一括で払ったからお金ないんだもんね。
大変だよね。
僕は大丈夫だよ、おかあさん。
進学先も決まったみたいなもんだし。
母方祖父の家から歩いて通えるところにある高校なら、塾にも通わず入れそう。
ネットで調べた。
県立で授業料も安いみたいだし、会ったことのない従兄がそこの卒業生なんでしょ? 制服も貰えるかもしれないんだってさ。ツイてるよね。
あと1年あるし、祖父母の分まで家事しなくちゃいけない約束だけど。
家事はこれまでもやってたし。
大丈夫。
やっていけると思う。
中学二年の冬の、今だから決められたんだと思う。
いろんなことを諦めたけど。
でも、きっと、父にも母にも、ふたりの新しい家族にも、僕にとってもいい選択ができたと思っている。
多分、きっと。君には、もう会えないけど。
大丈夫。
初恋は実らないものだって。
皆言ってる。本にも書いてあった。
だから、大丈夫。
僕は、僕が選んだこの道を信じている。
ハピエンが好きな方には
僕「そうして、冬休みに入ってすぐに『勝手に引っ越すな』って殴りに来たのがお前のおかあさんだ」
という妄想文を追加しておいてください(お約束
ついでに、2/19分の活動報告にてネタバレ(その後について)があります。
ラストの一文が指定されているのでどうしてもハピエンにできず、
不満で仕方がなかったものでw
そちらはハピエンルートでございます。
ご興味のある方はお立ち寄り下さいませv