7.国立図書館
ちょっと長いです。
サフィニア王妃との茶会から、数日が過ぎた。
政務関係はシリウスに、軍事関係はプラシオや側近から教えてもらい、昨日からは王子の公務も始めた。まだ本宮の執務室ではなく、左宮の執務室で議会や地方の文官からの報告書を読んだり、王子の署名が必要な書類にサインしたりといった最低限の、だが。
貴族なら7歳〜10歳まで初等教育、11歳~12歳で中等教育、13歳~15歳で高等教育を受け、王宮や専門機関で11歳からは小姓として学びながら仕事を覚えていく。
13歳からは実際に仕える貴人の元で、見習いや候補生として働き、主から与えられる課題や試験に合格すれば、そのまま専任として仕える事になる。
領民の場合は初等教育を終えたら、11歳~15歳までは専門職に分かれて修行し、仕事に就く。
早ければ成人後すぐ婚姻する者もいるが、平均的には18歳以降、30歳までに婚姻する者が殆どらしい。
王族や上級貴族は婚姻が早く、20歳前後での婚姻が多い。
ブルーラピスにはまだ婚約者はいないが、姉のスピニア王女は来年ブルーラピスが成人してから、隣国のモントルー大公家の公子に嫁ぐ。
現モントルー大公は、父ラティス王の従兄で、25歳の公子はスピニアが嫁ぐと同時に、大公となる予定である。 結婚式と戴冠式には両親と、妹のフィニア王女が参列し、王太子となるブルーラピスは留守番の予定で婚姻の準備を進めている。
教育の進捗状況を鑑み、近々本宮で貴族たちとの会議の参加をグイードから出席するよう、今朝通達され、今はその資料を集めたりと忙しい日々を送っている。
ただ、一人になると、先日の王妃の言葉を思い出して、ボーっとしてしまう。
『初代王の妹姫』の離宮の『鍵』は、地球で桜姫の持っていた『蒼色と桜シャンパンサファイアの指輪』と同じだったのだ。
たまたま石が同じなのかとも思ったが、フリーズした後に、形状を王妃に確認したが、同じだった。
父に貰った指輪は、蒼色のサファイアと、少し小さめの桜色のシャンパンカラーが並んでいて、金の指輪は石の周りに蔦と花の細工が施されている。
何で?どうして?と、会えない父に心の中で問い掛ける。
何故父は7歳の桜姫に指輪を贈ったのか…
『大人になったら左手に』、というのはノルディアの婚姻したら『左の薬指』という習慣の事だったのか…
父はイギリス人。もしかしたら地球にも似た風習があるのかも知れないが、今となっては調べる事も出来ない。
左の薬指に指輪をはめるだけなら、この世界も一緒なんだな、で済む話なのに…
それに何故、私はブルーラピスになっているのだろうか…
元の世界にはもう戻れないのか…
こういった転生する物語では元の世界に戻れないのがテンプレである。
一部元の世界に戻ったり出来るものもあったが少数派である。
そんな事を考えていても、今はブルーラピスとしての役割をこなしていくしかなく、ふとした瞬間に、また思考の海に潜るという事を繰り返している。
「ブルーノ? おい、聞いてるか?」
目の前で手をひらひらと振るエヴァンの声にハッとする。
「ごめん!エヴァン…もう一回言って」
「お前大丈夫か?」
「大丈夫だよ。あ、この予算申請書、書き方合ってる?」
エヴァンの心配そうな目から逃れるために、手元の書類に目を逸らす。
「…合ってる。資料も大方揃ったし、記憶失ってから休む暇なかったろ? ちょっと休憩しようぜ」
「え、でも…」
「気分転換に“いい所”に連れてってやるから、な?」
ニヤリと笑うエヴァンに、肩に入っていた力を抜く。
「わかったよ。で、何処に行くって?」
「それは行ってからのお楽しみ。準備してくるからちょっと待ってろ。あ、グイードには内緒だからな?」
「はいはい」
バタバタと出て行ったエヴァンを見送り、机の上を片付ける。
紙にエヴァンと休憩してくる、とメモを一応置いておく。
10分程で戻って来たエヴァンは、マックスを伴っていた。
「プラシオ兄上が手を離せないから、マックスを連れて行けって。子どもじゃあるまいし…」
「エヴァン、お前はまだ未成年だろ。騎士見習いだけで殿下を外に連れ出すなんて、許されるはずがないだろ」
呆れたという顔でマックスが笑う。
「ふん!来月には俺だって成人だし!」
「外…?」
「ああ、だからこれに着替えて」
エヴァンから手渡されたのは近衛騎士の白い制服と、水色のマントだった。
「これなら近衛騎士が、見習いを連れて巡回しているように見えるだろ。ほら早く!」
執務室横の仮眠室に追いやられ、エヴァンが扉を閉める。 手際の良さに呆れつつ、エヴァンの好意に微笑む。
今日の服はシンプルな白のシャツに、ブルーグレーのジャケットと同色のジレ(ベスト)。ジャケットとジレには同色の糸で刺繍が施されている。執務中はジャケットは脱いで掛けていたので、ベストだけ脱ぎ、広げた騎士服に袖を通す。
下は黒いキュロットはだったので、騎士のズボンに履き替える。
「これ…ピッタリなんだけど…」
誂えたかのようのピッタリなのだ。
もしかして以前から度々この服を着て、王城を抜け出したりしていたのだろうか。
着ていた服は畳んでこの部屋に置いておく。
「エヴァン、これでいいの?」
マントを持って、仮眠室を出て声を掛ける。
「ん?あ、そっか。靴は確かこっちに…」
エヴァンが執務机の後ろのキャビネットの下の扉を開け、奥をガサガサと漁ってブーツを出す。
「そんな所に…」
私が呆れているとマックスも知らなかったのか、溜め息を吐いている。
「道理で探しても、全然見つからない訳だ」
「え?」
「時々、フラッと殿下が執務室から消える事があったんですよ。彼方此方探して、暫くして戻ってみるといらっしゃって。エヴァン、お前の仕業か」
ジロっとマックスがエヴァンを睨む。
「俺じゃねーよ!言っとくけど、ブルーノが主犯だからな!」
「とめないお前も同罪だろ」
二人の言い合いを聞きながら、ブーツに履き替えると、エヴァンがマントを羽織らせ固定してくれる。
手慣れた手つきに、苦笑する。
「ほら、行こうぜ」
「待て、その前に。殿下、指輪に触れながら《ペンディゴル(変異)》と唱えてください」
「《ペンディゴル》!!」
マックスのいう通りに指輪に触れ、唱えると、蒼い光がキラキラと漂う。
ブルーラピスの身体の中に光が収まると、指輪の色が銀色で石がサファイアと水晶になっていた。
「大丈夫ですね。これで髪色と瞳の色も変わっています。変異解除する時は《ヴィデアフタバル(再構築)》と唱えてください」
頷き、部屋の鏡を見ると、白縹色の髪は縹色に。瑠璃色の瞳は水色に変化していた。
「ここから外に出たら、殿下の事はブルーとお呼び致しますので」
「わかった」
マックスについて執務室を出る。エヴァンは私の右を歩き、小声で呟く。
「いつも騎士を連れて御忍びの視察や、城下の見回りの時はこの《変異術》で姿を変えてるんだ」
「マックスが変異術を知っているってことは、近衛騎士は皆知っているって事だよね?」
「ブルーの側近はな。第二の奴らは団長と副団長、あとは分隊長のキリル・クイート子爵」
「クイート子爵?」
「そう。うちの分家筋にあたるんだけど、先代が昨年亡くなって当主になったんだよ。確か28歳じゃなかったかな」
マックスは騎士の出入りする門を使用するようで、南東の門に向かいつつ、エヴァンの話も聞いている。
「キリル殿は大学院(国の最高学府)を主席で卒業した文官でもあるんですよ。卒業後に政務官にはならず、騎士団に入隊されて当時は大変だったみたいです」
「何でそんな人が騎士団に?」
「キリル殿は大学院で、小規模な魔力で大規模な魔法を行使する研究をされていたんですよ。魔法騎士としての才能も凄い方で、騎士団の魔力開発や育成に興味があったから、と以前仰ってました」
「文武両道なんですね」
「近々、騎士団との合同演習が決まったので、会えますよ」
「それは楽しみだ」
「えー、ついこの前やったばかりじゃん」
マックスの言葉にエヴァンが嫌がる。
「先日の一件の情報共有の為でもある。まあ、見習いはいつも通り対抗戦だから頑張れよ」
声を更に落として呟くマックスに、エヴァンが顔をしかめた。
ニヤリと笑うマックスとの対比に、クスっと笑ってしまう。
「他人事だと思って!」 と、エヴァンが拗ねる。
「ごめん。でもそんなに嫌なの?対抗戦」
不思議そうに聞くと、エヴァンは口を尖らせたまま明後日の方向を睨む。
「ブルー、エヴァンはいつも罠に引っかかるんですよ」
クスクスと笑うマックスに、フン、と黙殺する。
「罠?」
「王城の北の森で攻守にわかれ、前半と後半で罠をしかけて、それを避けながら攻撃をしたりするんです」
「実戦向きの訓練って事か」
「そうです」
軍事演習には持って来いなんだろうな、と納得する。
「あれ?それってうちだけがやってるの?」
「第一は西の森で、第三と第四は南の森、第五~第九は王都の城壁の外の泉の森で、不定期で行っていますよ」
どこの部隊でも行っているという事は、先日の襲撃事件で遅れをとったのは、益々可笑しいと感じる。
「さあ、行きますよ」
南東の門の衛兵にマックスは、見習い二人を連れて、城下の屯所を見廻る旨伝える。
門の出入には衛兵がチェックし、制服とマント、徽章が身分証明となる。
成人した近衛騎士には、各自が仕える王族の石が埋め込まれ、階級が彫刻されたピンを任命式で授与される。
小姓は制服とタイの色、見習いは制服とマントで判別され、場合によっては家石の指輪をチェックされる。
今回は家石はチェックされず通れた。
「エヴァン、西ルートでいいですか?」
「ああ、そのつもりだけど?」
「ブルー、お腹は空いていませんか?」
「ちょっと甘い物は食べたいかな…」
「わかりました。市場に寄りましょう」
ニッコリと微笑むマックスが、お勧めの甘味処を教えてくれるらしい。
城壁を抜けると、視界が開け青空と白い壁、青い屋根が飛び込んでくる。
ブルーラピスの部屋からは小さくてあまり見えなかったが、一つ一つの建物は中心街に向かって高さが増して行き、中央には時計台が建っている。
「綺麗…」
「はい。王都は我らノルディア国民の誇りです」
「ほら、はぐれるなよ」
キョロキョロと観ながら歩く私の手を、エヴァンが仕方ない、と握ってはぐれないようにする。
「小さい子じゃないのに」
「市場はこの時間、人が多いのでそのまま繋いでいてください」
マックスの言葉にうんうんとエヴァンが頷く。
エヴァンより少し小柄なブルーラピスは、傍目から見れば新人の親戚の子を、引率されている様に見えるかも知れない。
初めての場所ではぐれて迷子になっても困るので、仕方なくそのまま歩く。
2ブロック程進むと、人の行き来が多くなって来る。
色とりどりの屋台が並ぶマーケットは、人で溢れ賑やかで、活気づいている。
「こっちです」
何度か曲がった所で、着いた屋台では、台湾風のカキ氷のような物が売られている。
「カキ氷?」
「ええ。氷飴と言う甘味です。細かく削った氷に、果物とゼリーや細かい飴やクリーム、シロップがかかっています」
「どれがいい?(俺が一緒に食べる)」
エヴァンが耳元で囁く。毒味という事だろう。
「マックスのお勧めは?」
「そうですね、甘過ぎない方がいいなら、これにトロの実とレジの実をのせた物ですかね」
「美味しそうだね。じゃ、それでいい?」
エヴァンに聞くと、おう!と嬉しそうに頷く。 エヴァンが注文してくれ、作っている工程を横で見る。
薄く細かく削られていくふわふわな氷に、果物とクリームを間に挟み、また氷と透明のシロップ、クリーム、果物、最後にキラキラとした細かな飴の粉が振りかけられる。
「美味しそう!キラキラして綺麗だね!」
「なんだ、坊主初めてか?うちのは氷をこだわっているから余所とは味が全然違うぞ!」
興奮気味に言うと、店主が自慢げに言う。
「ほら」
差し出された氷飴を受け取り、匙でエヴァンがは二口程食べ、匙に乗せてエヴァンが差し出す。
これは人前であ~んしろと?!
恥ずかしいが、美味しそうな氷が溶けそうになっていくので、勢いで齧り付く。
「美味しい!」
「だろ?」
「はい!」
どうやら普通氷ではなく、果実水を氷にして削っているようで爽やかでほんのり甘い。トロの実は苺、レジの実はオレンジの味がする。
細かい飴の粉は口の中に入れると、ほんのり甘く、サッと氷と一緒に溶けていく。
クリームも思っていたより甘くなく、あっさりとしていて、シロップは見た目はみぞれのようだったが、味は食べた事があるような無いような、不思議な味がした。
「このシロップも美味しいです!」
「おっ!わかってるじゃないか!それはうちの秘伝のシロップだ!美味いだろ!」
「はい!甘味と酸味が絶妙ですね!」
そうだろう、そうだろう、と、店主は上機嫌で頷く。
「マックスのはまた違う種類なんですね」
「ええ、こちらも食べてみますか?」
「良いんですか?」
「ええ、どうぞ」
こちらも差し出された、あ~んと口にいれると、全く違う味に吃驚する。
「え?!紅茶?」
黄色に近い黄緑色の氷に、シロップ無しで、クリームとナッツ、レモンの果肉、飴の粉のようだが。
黄緑色の色に騙された気分だった。
「これはハーブティーの氷なんですよ。疲労回復に効果のあるハーブがブレンドされてて、夏の暑さには持って来いです」
「騎士様は二日に一回は来て下さるうちのお得意様なんですよ」
果物の盛り付けをしていた店主の隣りの、奥さんらしき人が笑顔で、いつもありがとうございますと声を掛けている。
「本当は毎日頂きたいぐらいなんですけどね」と、マックスが笑う。
確かにこれは騎士には嬉しい食べ物だと思う。糖分とビタミン、ハーブの効果を考えると、熱中症予防になりそうだ。
「良いですね。わたしも夏場は毎日頂きたいです」
「嬉しい事言ってくれるねぇ。次に来て下さる時はサービスするよ!」
「ありがとうございます」
笑顔で答えるが、次に来れるのはいつかなぁ~と心の中で呟く。そんな頻繁に城下に来れないだろうなと、残念に思う。
じゃあまた、と食べ終わった器と匙を返却する。この屋台は使い捨てではないようだ。
他の屋台では物によって使い捨ての串や、皿代わりの物があるみたい。
また違う店も覗いてみたいけど、どうやら今日は目当ての場所があるようで、日陰を進み中央を目指す。
時計台に近づくにつれ、高くなっていく建物の外観は、ロココ様式に似ている。
海外の街を歩いているようで、至る所に地球にはない物を見つけ、異世界なのだと実感する。
「さあ、着きましたよ」
時計台の下には大きな建物があり、大きな門には衛兵が控える屯所もある。
重要な建物の所には必ずあると聞いていたが…
「ブルー、ここは王立図書館だ」
「時計台の下に図書館があるの?」
「ええ。国中で発行されている本が、全て所蔵されています」
「凄いね!」
日本で言う国立国会図書館なのだろう。 一気にテンションが上がる!
桜姫は読書も趣味であり、毎日何かしら読んでいた。書店員なのも趣味が高じて、である。
あー、あのシリーズの新刊楽しみにしてたのに…
考えないようにしていたのに、テンションのアップダウンが激しすぎてちょっと辛い。
「ブルー、こちらに」
門の出入管理に指輪が必要らしい。だけど、案内されたのは個室だった。
「殿下、ここでは変化解除願います」
部屋に入る直前マックスに小声で告げられる。
「失礼致します」
中に入ると応接室で白髪の神官のような格好をした紳士がいた。
「館長、個室のご用意ありがとうございます」
「いえいえ。第二王子殿下は読書家でいらっしゃいますから、何時でも歓迎致します」
事前に連絡を入れてくれていたらしく、わざわざ館長が出迎えてくれたらしい。
衝立があり、その奥をご利用下さい、と言われ奥に向かう。
「えーっと、何だったけ?」
「《ヴィデアフタバル(再構築)》だよ。他の奴に聞こえないようにしろよ?」
小声でエヴァンが教えてくれる。
「ん?わかった。ありがとう。《ヴィデアフタバル(再構築)》」
詠唱すると今度はブルーラピスの身体から蒼い光が出てきて、指輪の中にその光が吸い込まれていった。
エヴァンの方を見ると、うん、と頷いているので、ちゃんと元に戻ったのだろう。
「お待たせしました」
「改めまして。第二王子殿下。わたくしは先月就任致しました、館長のメルディ・ストルにございます」
「ブルーラピス・ノル・サファイアです。出迎えありがとうございます。楽にしてください」
「ありがとう存じます。前任のコーエン・ストルより第二王子殿下の事はよく窺っております。いつでもお越しください」
「そう?わたしの悪戯でも告げ口されているんじゃないかな?」
「滅相もございません。『善き神徒』と、コーエンが申しておりましたよ」
「そうだと良いのですが」
国立図書館の館長は、ストル教会の枢機卿が順に務める。名前の後ろに「ストル」とつくのは、十年以上枢機卿を務めた者に授けられる名で、それ以外の姓は教会に入った時点で名乗れなくなる。
ストル教会はノルディア国内だけではなく、大陸全土に布教浸透している神教である。
精霊王と契約した聖教者が、精霊と対話することの出来る力を与えられ起きたのがストル教会だ。
精霊なのに神教?と最初聞いたときこんがらがったが、精霊王を神と崇めているかららしい。
ブルーラピスが『善き神徒』と呼ばれるのは、魔力の強い者は精霊王の寵愛があるから、と言われており、精霊の学問とされている魔力を 理解し、古代の書物を読み解く見識者の事だ。
僅か9歳で古代の書物を読めるようになったブルーラピスは、教会からの評判がとても良い。
王族としての知識もあるが、書物からの知識もあるからだ。
「さあ、貴重な殿下のお時間を年寄りが長時間いただくわけにはゆきませぬ。心ゆくまで書物と対話していってください。御用命がございましたら司書に申し付けください」
「ありがとう、メルディ館長。お言葉に甘えます」
では、と立ち上がり、国立図書館内の王族専用通路から館内に入る。
「大丈夫でした?」
こそっとマックスに確認する。
「はい」
確認したのは、口調や対応が間違っていなかったかどうかだ。
「この調子なら会議も大丈夫ですよ」
「良かった」
通路を進み、中央棟の一階につくと、吹き抜けになっており、壁一面に本が所狭しと並んでいる。
一階から五階まで、全部を見て回るだけでも大変そうだ。
本棚の上部と足元に間接照明が設置され、本に直接光が当たらないように設計されている。
吹き抜けの中心にある電飾らしき物は魔術具で、本に当たっても紙が劣化しない特殊ライトで、光時計にもなっているそうだ。 この上にある時計台に繋がっている。
「凄い…」
光がキラキラと浮遊している様に見えるが、精霊王の眷属が飛んでいるとそう見えるらしい。だが、魔力の強い者にしか見えないようで、通常は魔術具が常時点灯しているように見えているらしい。
「今日そればっかだな」
図書館内なので静かに隣でエヴァンが呟く。
「仕方ないでしょ、本当に綺麗なんだもん」
「ま、元気になって良かったよ」
「エヴァン…ありがとう」
「ほら、時間がなくなるぞ。どこから見たい?」
照れ隠しなのか、急かすエヴァンにもう一度心の中でお礼を言う。
時間の許す限り、マックスとエヴァンに解説してもらい、その日は図書館を満喫した。
ブルーラピス(桜姫)の城下町&図書館満喫回でした。息抜きは大事です。皆様も熱中症にはご注意くださいませ。
次回は「8.騎士団と近衛」です。更新は8/13日の予定ですが、未定です。予定通り更新したい…