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王太子は頑張れない!  作者: tsuyu
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5.ジオラピス・ノル・サフィア

異母兄弟との食事会と、王宮について。

昼食の時間までガッツリ勉強して、戻って来たグイードとシリウス、そして近衛騎士であるプラシオ、レスターの四人を連れ王城の左宮から右宮へ移動する。


ノルディア王国の王城には国事を行う本宮、国王の住まう後宮、第一王妃に与えられる蒼妃宮(そうひきゅう)、第二王妃に与えられる白金宮(はくごんきゅう)、7歳を過ぎた王子が住まう左宮、右宮、今は使用されていない複数の離宮がある。


ちなみに王妃が二人しかいないため、後宮は現在閉鎖されており、国王は本宮の自室か、第一王妃の蒼妃宮、もしくは第二王妃の白金宮で過ごしている。


王子と王女は7歳の誕生日まで、母王妃の住まう宮で過ごし、王子はその後、左宮と右宮に移り本格的に帝王学を学ぶ事になる。

王女は降嫁もしくは他国に嫁ぐまで、母王妃の住まう宮で学び過ごす。

用があれば同母の王子は母宮に訪れる事は出来るが、王以外は男子禁制のため、連れて入れるのは自身の侍女と女性騎士のみ。


ブルーラピスも7歳までは蒼妃宮で育ち、それ以降は左宮で生活をしている。時々王妃の個人的な茶会に呼ばれたり、姉のスピニア王女や妹のフィニア王女と過ごすときは、侍女のスピカを伴い蒼妃宮へ訪れる。


第一王子のジオラピスは右宮で過ごしており、普段は各自の宮で学び、時折、本宮で一緒に学ぶ事もあるそうだ。


左右の宮は、本宮を挟んで対称に建造されている。白い壁に蒼や金で至る所に装飾が施されており、ノルディア城は別名「蒼金宮(そうごんきゅう)」と呼ばれ、近隣諸国からの評判も高く、芸術的にも優れ、見た者が溜め息を吐くほどである。


華美過ぎずシンプルな美しさに、少ししか観て回れていない私は、ここにカメラがあれば!!と、何度思ったことか。

桜姫は建物や寺社仏閣、風景の写真を撮ったり、御朱印を集めたりすることを趣味にしていた。

建築物の造形美、装飾、デザイン性。手作りのアクセサリーを作ったりする時のアイディア集めはライフワークと言っても過言ではない。


塔の上階から見た外観は、19世紀に建造されたドイツのノイシュバンシュタイン城と似ていた。




「殿下?」

キョロキョロとし過ぎたのか、後ろにいたシリウスに声を掛けられ自重する。

「すまない、装飾が綺麗でつい…」

「ブルーノ様が蒼妃宮から左宮に移られた時も、そうやって目をキラキラさせていらっしゃったの思い出しました」


ふふっとシリウスが微笑む。

「記憶は無くともやはり殿下は殿下ですね」

どうやら、ブルーラピスも芸術を好んでいたようだ。趣味が合いそうで、話せないのが残念だ。

話し方も、不自然にならないよう、グイード達に確認してもらっている。


と言うのも、ブルーラピスとして目覚めたあの時、襲撃があり連れ去られ、エヴァン達に見つけた時は、初代国王の妹王女の離宮があった湖に浮かんでいたらしい。


幸い、湖とは言っても、半壊している離宮が浸かっている人工池(湖から水を引いている)の岸にいたのを、エヴァンに引き上げられた、らしいのだが。



今回の襲撃事件は一部の関係者以外、情報が伏せられている。

知っているのは国王・第一王妃・ブルーラピスの側近・近衛騎士団と第二騎士団の上層部のみである。


記憶喪失の事を知っているのは更に少ない。両親には報告されているようだが、不振に思われぬよう、未だ顔を合わせていない。


王都近くの直轄地の視察の帰り、離宮近くの森林公園で休憩している時に襲われたらしい。

護衛に就いていたブルーラピスの成人した近衛騎士、近衛騎士候補、そして視察や戦場を指揮する際に第二王子の直轄となる第二騎士団の一部。


30名ほどいたにも関わらず、急に目の前に現れた襲撃犯に遅れをとった。 ブルーラピス本人も剣技も魔法攻撃や防御に優れているはずなのに。


同行した古代魔法に詳しい騎士が後日襲撃のあった場所を調査したところ、古代精霊魔法の禁術が使われた可能性があり、精霊の力が使われた残滓が僅かに残っていたそうだ。


捕らえた襲撃者たちはその場で自害してしまい、逃げた者を追跡した者たちは、目の前で忽然と姿を消し追撃に失敗。


国の精鋭である魔法騎士たちが…


ありえないこの事態に、近衛騎士団長と第二騎士団長が中心となり、調査にあたっているが難航している。



「さぁ、ジオが待っているだろうから行こうか」




白と金の装飾が綺麗な扉の両脇に、薄黄蘗色(うすきはだいろ)のマントの第一王子の近衛騎士が立っている。


近衛騎士のマントは、仕える主の髪色に近い色を羽織る。

ブルーラピスの髪色は白縹色だが再現が難しいため、水色なのだが。


近衛騎士は白の制服、騎士団は黒の制服、国王の直属の禁軍は蒼の制服だ。 式典では一斉に騎士が並び、色鮮やかだそうだ。



「ジオラピス様、第二王子殿下がいらっしゃいました」

「どうぞ、入って」


部屋の中から変声期の済んだ、柔らかで少し低い声が響く。



王子や王女の呼び方にも細かい決まり事がある。

初めて会って挨拶する時は、名前は呼ばず「第一王子殿下」「第二王女殿下」という呼び方をする。


また、本人の許可が無い限り、名前や愛称を呼ぶ事は許されない。自分の仕える貴人に対しても同様である。

扉の前の護衛騎士は、近衛騎士以外に騎士団からも場合にはよってはローテーションで配属される。

そのため、全員が王子の名前を直接呼べる訳ではないが、どうやらこの第一騎士団に所属する彼は許されているらしい。


ちなみにブルーラピスの近衛騎士達は全員、愛称呼びが許可されており、第二騎士団は全員、名前呼びが許可されている。

まあ、幼馴染であるエヴァンに至っては、周りが身内だけだったりすると敬称もつけない。公の場ではちゃんとしているので問題はない。



「ジオ、お招きありがとう」

「やあ、ブルーノいらっしゃい」


中に入ると、薄黄蘗色の長い髪を腰の辺りまで三つ編にし、白の髪飾りで留め、ブルーラピスより濃い瑠璃紺の瞳をした第一王子、ジオラピス・ノル・サフィアがソファーから立ち上がり出迎える。


「今日はゆっくりできるのかい?」

「午後の3の鐘までなら問題ないよ」

「そう?じゃあゆっくりできるね。こっちに清風テラスを作ったんだ。今日はこっちで食べよう!」


演技ではない笑顔なのがわかり、心の中でホッとする。

人の顔色を窺う事に慣れ、敏感に人の感情を読み取れるようになってしまった副産物が、こんな所で役に立つとは…



案内されたのは、居間から続くテラス。温室のようにガラス張りになった部屋だった。普通の温室と違い、光は入って来るが暑くはない。


「涼しいでしょう?特殊強化ガラスに風と水の属性を付与してあるから、風が通るし、上部には光属性を付与してあるから光量を調節出来るようにしてみたのだけど、どう?」

「いいね。わたしも欲しいくらいだ」


柱には蔦植物が巻き付き自然の影ができ、風に揺れている。

ここで昼寝したら最高だろうなと、素直な感想が出てしまう。魔法って便利過ぎる。


「清風テラスはまだ実験段階だから、完成したらね」

「楽しみにしているよ」



グイードが引いた席に着くと、料理が運ばれて来る。

この世界の料理は地球の料理を似た物もあれば、見たこともない食材や、味の物もある。

西洋寄りではあるが、今のところ和食には出会えていない。


お米が食べたい。

パスタも見掛けないし、主食はパン、肉が多い。野菜は温野菜でスープは味が辛い物が多い。


それでも、食にありつけるだけ良しとするべきだろうが。その内、食事革命は絶対してやる!と心の中で決意する。



「ブルーノ、寝込んでいたみたいだけど、もう平気かい?」

「ああ、視察に出て疲れが出ただけだよ」

「そう…。 今回の視察はどうだった?」


全ての情報を遮断はせず、風邪をひいていた事だけは王宮医や騎士から不自然にならないように流してある。視察に関しては、話題に上がるだろうと、朝の勉強時に打合せ済みだ。


「今年は早咲きのクレマチスが咲いていて、加工を早めるようだよ」

「へぇ、夏の社交に間に合ったら御婦人方は喜ぶだろうね」


この世界ではクレマチスの香りが好まれているらしく、品種によってかなり香りが異なるそうだ。薔薇は甘過ぎて嫌われていると聞き吃驚したが。


「そうだね。ジオの方は?」

「…清風テラスの実験と、母上から頼まれて珍しい茶葉を探したり、あとはいつも通りだったよ」


右手の指輪を一瞬触り握り絞めて微笑むジオラピスに違和感を感じたが、そうか、と他の話題を振り、食後のデザートを楽しんだ。

次は「6.王妃の茶会」です。更新は8/7の予定です。

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