3.蒼井桜姫(あおい さき)
主人公の説明回です。
全21話の予定ですが、閑話や、ある程度説明回が終わったら登場人物一覧など間に投稿するかも。
水の中で漂うような心地に、ゆっくりと目蓋を開ける。
青空と木々が眩しく目に飛び込んでくる。
木の揺れる音、水の流れる音、木々の木漏れ日から差す光。
白い石の遺跡が水の中に浸かっている。
『ここ何処?』
起き上がり立つと、水は腰の高さまであった。
白いワンピースがが張り付いているのに不快感はなく、
吹き抜けていく風が気持ち良く涼しい。
周りには誰もいない。
『えーっと?』
私何してたんだっけ?
私は、蒼井桜姫、31歳、書店員。
父がイギリス人で母が日本人のハーフのせいで、 髪は大きくウェーブした黒、目が碧眼。
父は金髪癖毛、母は黒髪ストレート。 どうせなら金髪ストレートなら良かったのに。
顔は純日本人なのに目が碧眼だから、いつも驚かれ、 高校からは眼鏡で少しでも隠れるようにしていた。
父は大学の研究室で働いていて、母がイギリス留学した際に出会った。
母が帰国した後、私を妊娠した事が判明し、 父は日本の研究所に勤務する事が決まり婿養子になった。
祖父が溺愛している一人娘の母を、遠い異国に嫁がせたくなかったから、らしい。
7歳下の弟は大学で経済学を学び、祖父の営む宝石店の跡取りとして働いている。
私は父の影響で地質学、鉱物の研究室にいたが、祖父の会社に入る気はなく、 好きな本に囲まれた生活がしたくて、大手チェーンの書店で気ままに働いている。
昨日は勤め先のコミック・ラノベ担当者会議で、本店や他店の担当者と食事会を済ませ、実家には寄らず勤務先の近くに借りたアパートに帰ったはず?
『あれ?私、家に帰った…?』
電車に乗って同僚と別れた後の記憶が思い出せない。
それに、この遺跡?どこかで見たことあるような?
水の中で何か光っている事に気が付き、水面に触れようとして、 右手の薬指に金色の指輪をはめている事に気付く。
濃い蒼色と桜色のサファイヤが並んでいる。 父が7歳の私の誕生日に贈ってくれた指輪。
子どもの小さい指には輪が大きくて、ネックレスのチェーンに通して、「大人になったら右手にするんだよ」と。
『何で、これが…』
仕事上、本を傷めるかもしれないから、ネックレスに通したままにしていたのに。
水の中の白い光が、蒼い光に変わり水柱が立つ。
『えっ?』
その中に、白縹色の長い髪の少年がいた。
目を閉じているので瞳の色はわからないが、私と同じようなワンピースを着ているのに、少年とわかるほどアイドルグループの男の子のように格好いい顔立ち。
『あれ?』
水柱に近づき、そこに映った自分の外見に吃驚する。
瞳の色は父親譲りの碧眼…のはずが、それよりも濃い瑠璃色。
髪は黒髪ウェーブから、桜色シャンパンピンクになっていて、顔立ちは水柱の中の男の子とどこか似ている?
『どういう事?』
水柱に手を伸ばし触れた瞬間、蒼い光と桜色の光の洪水で目を開けていられなくなり、ぎゅっと目を閉じる。
目を閉じる直前、水柱の中の少年が目を開けた気がした。
次は「4.ノルディア王国」の紹介です。