この日が来たようです②
この世界が乙女ゲームの世界だということは、転生してすぐに気が付いた。
そして自分が、悪役令嬢だということも。
しかし、これがどのゲームなのか、どんなシナリオなのか知らない。
一番の問題は、乙女ゲームに対する知識がほとんど皆無ということだ。
前世の友人のしーちゃんとの会話の中で得た、微々たる知識しかない。
それでも、これだけは知っている。
魔法学園。それはゲームの舞台。
そして入学式は、主人公が攻略対象と会う日なのだ。
(私は悪役令嬢。いつかは断罪されてしまう身…。でも、もしも、シナリオを変えることができたら。断罪されない結末があるとしたら…。)
アイリスはキッと前を見据えた。
(そのためには、主人公がだれか知るのは不可欠。仲良くなれれば、誰も傷つかない結末を、見つけることができるかもしれない!)
「おはようございます!」
階段を降り、ダイニングに着いたアイリスは、元気よく挨拶をした。
「おはよう、お寝坊さん…ああ!!」
そう言って読んでいた新聞を放り出してこちらに近づいてきたのは、アイリスの父、メルキュール公爵だ。
「やはり似合っているな!なんとかわいい…いや、美しいというべきか…。」
相変わらずの親バカぶりだ。
「ありがとうございます。お父様。」
アイリスは苦笑いしながら席に着いた。
8年も一緒にいれば、もう慣れたものだ。
「おはよう、姉さん。とても似合ってるよ。」
目の前に座っているのは、アイリスの弟、クレーヴェルだ。
「ありがとう。クレーヴェルも似合ってるわ。」
クレーヴェルも、アイリス同様新しい服を身に着けている。
8年前、まだ8歳のころはあどけなさが残っていたが、今では、誰もがハッと見とれるほど、美しい顔立ちをしている。
(耐性が付いていると思ったけれど…)
アイリスはちらりとクレーヴェルの顔を盗み見た。
「?」
首をかしげながらも、こちらに微笑みかけてくるクレーヴェル。
(うわああぁ目がやられるわ…)
直視しないように視線を逸らす。
「ご朝食のご用意ができました。」
マルタが言うと、おいしそうな香りと共に朝食が運ばれてきた。
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