雪の女王のようです
フーピテル家本邸に戻ってきたアイリス一行。
しかしなんだか屋敷中が寒くて…
「今日は素晴らしいお庭をありがとう。とても楽しかったわ。」
屋敷に戻ってきたアイリスたちは、そろそろお暇しようとしているところだった。
「それはよかったです。」
ラナはアイリスたちを見送ろうと立ち上がった。
「あ、あの…それで…」
アイリスはちらりと後ろを見た。
先ほどから、扉の向こうから冷気が流れてきている。
「なんだか寒いのだけれど…。」
ぶるっと身震いすると、ラナはにこやかにほほ笑んだ。
「ああ、私の母ですね。ちょうどあの女の子から事情を聴いているのではないでしょうか。」
平然と言うラナだが、どうしても三人には事情聴取(尋問)としか聞こえなかった。
「へ、へぇ~…。そ、それで、あの子はどうなるの?」
「そうですねぇ…」
ラナが頬に手を当てると同時に、部屋の扉がガチャリと開き、一人の女性が入ってきた。
細身で背が高く、長い髪を緩く結んで肩に垂らしてシルクのようなゆったりとしたドレスを身にまとっているその女性は、優しそうに微笑みをたたえているが、体中から冷気があふれていた。
(ラナのお母様だ。)
瞬時にそう分かった三人は、何とも言えない緊張感を感じてすっと背を伸ばした。
「あら、お母様。」
ラナだけは部屋中に満ちる冷気を意に介せずと言った風にのんびりと言った。
「ごきげんよう皆さん。」
フーピテル侯爵婦人は、想像していたよりも低めの、落ち着いた声をしていた。
「本日はお越しいただきありがとう。ラナの母のシュナフタ・フーピテルと申します。」
そういって物腰柔らかくお辞儀する様子はラナにそっくりで、やはり親子なのだなと思わせる。
顔を上げてにこりとほほ笑む顔がラナにそっくりだ。
しばらく見とれていたアイリスだが、クレーヴェルにつつかれて慌ててお辞儀をする。
「こんにちは。メルキュール家長女、アイリスと申します。本日はお招きいただきありがとうございます。」
「同じくメルキュール家、長男のクレーヴェルです。」
「マルス家長女のルビーです。」
挨拶が終わり顔を上げたアイリスたちに、夫人は優しく微笑みかけた。
「ご挨拶が遅れてしまってごめんなさいね。少し忙しかったものですから。」
「い、いえお構いなく…。」
(「忙しかった尋問」だ…。)
(「忙しかった尋問」ね…。)
「今回の件はうちの警備が甘かったことが問題です。皆さんを危険な目に合わせてしまって本当に申し訳ありません。」
再び頭を下げる夫人。
「いいえ。これは僕が招いたことです。フーピテル様には多大なるご迷惑をおかけしました。申し訳ございません。」
真摯な態度で謝るクレーヴェルに、アイリスは心の中で感動した。
(すごい…この夫人の前で謝れるなんて…)
ちなみに、夫人が部屋に入ってきてから今までずっと部屋の温度は下がったままだ。
「あの少女がどこのご令嬢なのかはわかりました。もうすぐご両親が迎えに来ますわ。」
「は、はい。」
「なぜあんなことをしてしまったかも、すべて教えてもらいました。この度は災難でしたね。」
そう言ってクレーヴェルに優しくほほ笑むと、廊下の向こうからドタドタと走る音が聞こえてきた。
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