インスピレーションのようです
お茶会も後半に差し掛かった。
クレーヴェルはインスピレーションを受けることができるのか…
「さあ、つきましたわ。」
生垣の迷路を抜けると、目の前には川が流れていて、岸には天蓋のついたボートが止めてあった。
「まあ、船だわ!」
アイリスは嬉しそうに目を輝かせた。
「今日は船に乗って回っていただきますわ。」
「とてもロマンチックね~。」
(まさに貴族って感じ。)
「これは…魔法で動くのですか?」
御者がいないのを見て、クレーヴェルが聞いた。
「ええ。先代のクロノス公爵様が下さったのですわ。」
「トリスタンのおじい様が?」
驚いたように言うルビーに、ラナは頷いた。
「はい。私の祖父と、前公爵様は魔法学校での級友でしたので、とても懇意にしていただいたようです。この船は、我が家とクロノス家の友好の印にといただいたのです。」
「違う家系がいろいろなところで助け合っているなんて、素敵だわ。」
クレーヴェルの手を取って船に乗り込みながら、アイリスは言った。
「そうですわね。では、行きましょうか。」
ラナが船べりをポンポンと叩くと、ボートはすっと岸を離れた。
わあっとアイリスたちから歓声が上がる。
ボートは静かに川を走った。
アイリスは涼しい風に目を細めながら、過ぎ行く景色を眺めた。
「風が気持ちいい。」
クレーヴェルは真剣に船の外を見ている。
この景色から、何かインスピレーションを得ようとしているようだ。
(クレーヴェルが好きなデザインを見つけられるといいけれど…。)
そう思いながらその顔を見ていると、ふっと、あたりが暗くなった。
(?)
驚いて顔を上げたアイリスは、思わず目を見開いた。
「なにこれ…すごい…。」
いつの間にか、船は草木のトンネルの中に入っていた。
ボートは、船体が岸に着くかつかないかくらいの細い川を進んだ。
岸から川に向かってアーチの様に生えた草花は手を伸ばせば届きそうなほど近く、緑の爽やかな香りがアイリスたちを包み込んだ。
「きれいですね…」
ルビーもうっとりとして言った。
「ええ。本当に。」
目を凝らしてみると、トンネルの鮮やかな緑色の奥に、小鳥たちの羽ばたいているのが見える。
そしてそのさらに奥には、木々の深緑色が垣間見えていた。
「落ち着く空間ね。初めて来た場所なのになんだかおかしいけれど。」
アイリスたちが静かに鳥たちの声に耳を傾ける中、ボートは静かに、水の上を進んでいった。
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