三人集まれば…のようです
ラナの屋敷に着いたアイリスたち。
今回はどのようなお茶会になるのでしょうか…
「アイリス様!お久しぶりでございます。」
案内された部屋は、前回と同じラナの「庭」だった。
部屋に入ると、ラナとルビーが待っていた。
「ごめんなさい。お待たせしてしまったかしら。」
「いえ。ルビー様とお話していましたから。」
(よかった…ルビーも楽しそう。)
和気あいあいとした様子の二人に、アイリスは内心ほっとし、すっと横に移動した。
「ラナ、ご紹介させていただくわ。弟のクレーヴェルよ。」
アイリスが言うと、クレーヴェルは優雅にお辞儀をした。
「クレーヴェルと申します。本日はご招待していただきありがとうございます。」
「ごきげんよう。クレーヴェル様。」
「こちらこそ来ていただき嬉しいですわ。」
二人はにこやかに言い、アイリスたちは席に着いた。
「ルビーたちは、何の話をしていたの?」
着席すると、アイリスは二人に聞いた。
「ルビー様のお店について伺いました。私もぜひ買いたいと、お願いしていたところなんです。」
ラナの言葉に、ルビーは嬉しそうに顔を赤らめた。
「アイリスのデザインしたドレスも、売っているのでしょう?」
「そうなの。」
ちょうどその時、執事たちが紅茶と茶菓子を運んできた。
(やったあお菓子!)
アイリスはぱっと顔を輝かせた。
フーピテル家で出される茶菓子や紅茶は、どれも香りがよく、アイリスは大好きだった。
「今日はなんの紅茶なの?」
「紅茶は洋ナシとキャラメルのフレーバーティーです。洋ナシは、秋ごろに裏庭で収穫いたしましたものを、じっくりとはちみつに漬けましたの。」
ポットからは、キャラメルの甘い香りと、洋ナシの香りがふわりと香った。
「まあ、とてもいい香りですね。」
ルビーが驚いたように言った。
「本当。甘くておいしそうだわ。」
「そうでございましょう。お砂糖がないほうがお楽しみいただけるやもしれませぬ。」
執事はそう言うと、テーブルにクッキーを置いた。
クッキーにはローズマリーの花がアイシングされている。
食べてみると、サクッと軽い歯ごたえがした。
(おいしい~!)
ローズマリーの少しスパイシーな香りが、紅茶の残り香とよくあっている。
「そういえば、クレーヴェル様はお部屋の飾りつけをしたい、とアイリスから伺ったのですが…。」
アイリスがクッキーを食べていると、ラナが口を開いた。
「どのようなお部屋にしたいなどありますか?」
クレーヴェルは一瞬言いよどんだが、
「特に決まったものはありませんが、姉からフーピテル様のお庭は素晴らしいと聞きましたので、ぜひ参考にしたいな…と。」
とすぐに笑顔になった。
「そうなのですね。…ではこの後ご覧になられますか?」
「ええぜひ。」
「フーピテル様のお庭を見られるなんて、夢のようですわ。とても美しいと噂はかねがねお聞きしていましたから。」
「楽しみです」とルビーもワクワクしているようだ。
「アイリス様はご覧になられたことがあるのですか?」
ルビーが目の前にいるアイリスに聞いた…が、アイリスは夢中でクッキーをほおばっていた。
「アイリス様…。」
「姉さん。」
クレーヴェルにつつかれ、アイリスはハッと意識を戻した。
「ん、な、なに?」
「もう…。」
呆れるクレーヴェル。
ルビーたちはクスクスと笑っている。
(え、何か言ってたのかしら…?)
「アイリス様は、ここのお庭はご覧になったことはありますか?」
笑いをこらえながら再びルビーが聞いた。
「このお部屋と、中庭に生かせてもらったわね。」
「そうですわね。今日は本庭にご案内いたしますわ。」
ラナはそう言うと、アイリスの紅茶を注いでいた執事に何やら用意するように頼んだ。
「かしこまりました。」
執事は承って、部屋を後にした。
「ラナ様のご家族は、皆さまお庭を持っていらっしゃるのですよね。」
ルビーが聞いた。
「ええ。本庭は父の魔法で管理されています。しかしあまりに広いので、私もすべて回ったことはないのです。」
「え、そうなの?」
アイリスは驚いて言った。
屋敷に住んでいる本人が言うのだから、相当広いに違いない。
「はい。父と一緒でないと迷子になってしまいます。」
ラナはそう言って笑った。
「なので、今日は一部だけです。」
「そうなのね。―それにしても、このお部屋も中庭もそうだけれど、フーピテル家はお屋敷中がお庭みたいね。」
アイリスの言葉に、ルビーもうなずいた。
「いつの間にか、おとぎの森に迷い込んでしまったのかと思ってしまいます。」
「ふふ、本当に。素敵よね。」
「ありがとうございます。」
アイリスとルビーの賞賛に、ラナは少し頬を赤らめた。
周りの木々も、ラナの気持ちに呼応するようにそよそよと葉を揺らした。
「そう言えば、アイリス様が来る少し前に外で大きな音がしましたが、なにかあったのですか?」
ふと思い出したようにルビーが聞いた。
「音なんてしていました?」
ラナが不思議そうに聞いた。
「ちょうど、並木道のところだと思うのですが。火の魔法を使った魔具も使用されていましたので少し気になって…」
アイリスとクレーヴェルはルビーの耳の良さに驚いた。
「はい。少しトラブルがありまして。」
クレーヴェルははアイリスをちらりと見た。
「そうなの。実は…。」
アイリスは、屋敷に着く前に起きた一部始終を話して聞かせた。
「まあ。そんなことがあったのですね。」
ルビーは少し驚いているようだった。
「社交界ではよくあることです。クレーヴェル様も、あまり気になさらないでください。」
貴族社会に詳しいラナは、そこまで驚いていないようだった。
「社交界って怖いのね…。」
アイリスは身震いした。
「ふふふ。でも、アイリスやクレーヴェル様がご無事で何よりです。」
「そうなの。木の根っこのおかげで助かったわ。」
「木の根…?」
「ええ。その子が運よく気の根っこに躓いてくれたのよ。」
アイリスの言葉に、ラナは少し考えるような素振りを見せたが、すぐに「そうなのですね」と言ってほほ笑んだ。
「準備が整いました。」
しばらくアイリスたちが話していると、執事が部屋に戻ってきた。
「ありがとう。では皆さん、行きましょうか。」
ラナは執事にお礼を言って立ち上がった。
「今日は私が案内しますわ。」
「楽しみね。」
アイリスたちも立ち上がると、執事にならって部屋を出た。
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