お茶会へ行くようです③
お茶会へ行く途中、いきなり知らない少女に襲われたアイリスだが…
「っ!姉さん!」
「死ねえええぇぇ!!」
大声で叫びながら、少女はカッと目を見開きこちらに向かって突進してきた。
(まずいっ!魔法を…!)
身を守ろうと手を前に掲げるが、間に合わない。
(―!)
死を覚悟したアイリスは固く目をつぶった。
―しかし、
いつまでたっても、想像していた感覚が来ない。
(あれ?)
不思議に思い薄く目を開けてみると、少女の姿が消えていた。
「え、消えた…?」
ゆっくりと目を開き、恐る恐る足を踏み出すと、ふにゃっと変な感触があった。
「うわっ」
驚いて後ろに退くと、アイリスの手前、目と鼻の先の地面に、さっきの少女がへばりついていた。
「え、なに?どうしたの?」
訳が分からず、クレーヴェルの手を引いて後ろに下がる。
「姉さん、見てみて。」
クレーヴェルが少女の足元を指さした。
「これは…根っこ?」
地面に伸びている少女の足には、木の根っこのようなものが絡みついていた。
彼女はこれに足を取られて躓いたらしい。
「なんにせよ…ラッキーだった…てことでいいのかしら。」
「…そうだね。」
アイリスとクレーヴェルは、少女から目を離さずに後退し、道のわきで倒れている御者のもとへと向かった。
「大丈夫ですか?」
少し肩をゆすると、御者はすぐに目を覚ました。
「はっお嬢様方!ご無事でしたか!?」
「ええ大丈夫よ。あなたは平気?」
「ええ俺は…馬たちは?」
「馬たちはあそこにいます。」
クレーヴェルは、端のほうで身を寄せ合っている馬たちを指さした。
御者は安心したようにほっと溜息をつくと、
「そうですか…よかった…。」
と言って立ち上がった。
「何があったのか分かりませんが、馬車も無事なことですし、行きましょう。」
「そうね。行きましょうか。」
御者は馬車を元に戻すと、馬たちを引っ張て来て馬車につないだ。
「さ、フーピテル家までもう少しです。」
御者は馬車のドアを開けて、アイリスたちをエスコートした。
「あ、お嬢様…あの方はいかがしたので?」
アイリスが馬車に上がるとき、御者が地面に伸びたままの少女を見た。
「あぁ…あの子…。どうしようかしら。放っておくわけにいかないだろうし…。」
アイリスがちらりとクレーヴェルを見ると、クレーヴェルも「しかたないよ」と小さく頷いた。
「本当に平気?」
念を押すと、クレーヴェルは
「うん…。まあ仕方ないよ。社交界ではよくあることらしいし。」
と言って、あきらめたように笑った。
「へ、へえ…」
(よくあることなの…。)
貴族社会に一抹の恐怖を覚えつつ、アイリスは御者に馬車に運び込むように言った。
「フーピテル家にお邪魔している間に、この子のお家まで届けてあげてくれる?徒歩で来たはずだから、きっとここから遠くないわ。」
「かしこまりました。」
御者は特に深い理由を聞かずにそう言うと、気を失ったままの少女を抱え運んできた。
頭を思いっきりぶつけたせいで、少女のおでこには大きなこぶができていた。
(うわ…痛そ。)
跡が残りそうだと不憫に思うアイリス。
少女を馬車の荷物入れに収納した後、馬車は何事もなかったかのように走り出した。
アイリスとクレーヴェルは、落ちた衝撃で乱れた格好を直していた。
「まったく…とんだ災難にあっちゃったわね。」
「そうだね。でも、姉さんの魔法のおかげで助かったよー」
クレーヴェルは、少しよれただけのジャケットを直しながら言った。
「ありがとう。」
「お役に立ててよかったわ。」
アイリスは二カッと笑うと、スカートのほこりを払った。
「着きましたよ。」
カタンと軽い振動がして、馬車が止まった。
ドアが開き、御者の手を取って馬車から降りる。
玄関先には、茶会の時と同じ執事が迎えに来ていた。
「メルキュール様。ようこそお越しくださいました。」
「ごきげんよう。」
「我が主人は中でお待ちでございます。では、こちらへ。」
執事はそう言うと、屋敷の扉を開けた。
「ありがとう。」
アイリスはちらりと馬車の方を振り返ると、執事について屋敷の中へと入った。
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