お茶会のようです④
美しい庭に囲まれて会話を楽しむアイリスたち。
そろそろお茶会が終わる時間のようです…
「本日はお招きいただき本当にありがとうございました。」
「こちらこそ、来ていただけて嬉しかったです。」
夕日の中、参加者たちは一人一人ラナンキュラスに別れの挨拶を述べて、それぞれの馬車に乗り込んでいた。
あの後二人は少しの間談笑し、そして部屋に戻ったときにはすでに解散の時間となっていた。
「皆様をお待たせしてしまいました。」
そう申し訳なさそうに言うアイリスに、ラナンキュラスは
「開催者の私が不在だったのですもの。気になさることはありませんわ。」
といたずらっぽく笑っていた。
幸い、参加者は会話をしたり、植物を珍しそうに観察していたりと各々楽しんでいる様子だったため、アイリスはあまり気を遣わずにいることができた。
アイリスは挨拶を交わす参加者たちの後ろの方で、夕日に照らされて柑子色に染まる庭をうっとりと眺めていた。
「お嬢様。」
マルタの声にハッと我に返ると、もうほとんどの招待客が馬車に乗り込んでいるようだった。
(いけない、私も挨拶をしなくちゃ。)
しゃんと背を伸ばすアイリスの前では、ラナンキュラスと招待者の一人だった、ネットゥーノ家の少年がラナンキュラスとあいさつを交わしていた。
「今日は来てくれてありがとう。」
「…うん。」
「また今度会いましょうね。」
「うん。」
…あまり会話が盛り上がっているようには見えないが、くだけた口調に話しているあたり、二人は気さくに話ができる仲なのだろう。
(えーっと、あの子の名前は確か…。)
アイリスは自己紹介されたときのことを思い出そうと、少年のことをじっと見つめた。
「じゃあまたね、イーハ。」
「…また。」
そう言うと、イーハ・ネットゥーノはむすっとした表情で馬車へと乗り込んで行ってしまった。
(そうだ、イーハだったわ。でも、あまり口数の多い子ではなさそう。)
イーハの乗った馬車を見つめながら、アイリスはラナンキュラスへと近寄った。
「本日はお招きいただきありがとうございました。とても楽しい時間でしたわ。」
アイリスはラナンキュラスの方に顔を向け、お辞儀をした。
「こちらこそ、お話ができてよかったです。」
ラナンキュラスはゆったりと頭を下げると、先ほどまでアイリスが見つめていた方向に顔を向けた。
「イーハは私いとこなのです。よくお茶会に来てくれるのですよ。」
「そうなのですね。」
「ええ。直接血はつながっていませんが、弟のように思っていますの。」
そう話すラナンキュラスの表情からは、イーハに対する優しい気持ちが感じられた。
「私にも弟がいますから、その気持ちはよくわかりますわ。」
アイリスが言うと、ラナンキュラスは
「クレーヴェル様ですね。前に一度パーティーでお見掛けしました。」
と言って頷き、クスリと笑った。
「?どうしたんですの?」
「いえ…、ごめんなさい。ただとても…弟様はとても人気のようでしたから。」
意味深にほほ笑むラナンキュラスに、アイリスは首をかしげた。
「?」
その後ろで、マルタも何かに納得したようにうなずいていた。
(え、どういうことかしら?…まあ、それは後でマルタに聞きましょう。)
「では、私はそろそろお暇しますわ。改めて、本日はありがとうございました。」
「こちらこそ。もっとお話ししたかったのですが…。」
「私もです。時間がこんなに早く経ってしまうなんて…。」
「私、またお手紙をお書きしますわ。」
「ではまた会えるのですね!楽しみにしています。」
そういって、アイリスは馬車へと向かった。乗り込む前にもう一度振り向くと、ラナンキュラスがこちらに向かって静かにお辞儀をした。
アイリスも「ありがとうございました。」とお辞儀を返し、馬車へと乗り込んだ。
馬車が見えなくなるまで見送ってくれたラナンキュラスに、アイリスは再び手を振ったのだった。
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(余談ですが、実は登場人物たちの名前や家名にはすべて意味が込められています。多角度から物語を楽しめるかもしれませんので、気になった方はぜひ調べてみてください。)