お茶会のようです
すっかり忘れていたお茶会へ参加することになったアイリス。
庭の美しさで有名なフーピテル家での開催に胸を躍らせるが…
「お嬢様、お支度はできましたか?」
部屋の扉越しに、マルタの声が聞こえてきた。
「もうちょっと待ってー。すぐ行くわ。」
「お急ぎくださいませ。もう少しでお時間です。」
今日はフーピテル家でのお茶会の日だ。
アイリスには以前招待状が届いていたのだが、色々と忙しかったこともあってすっかり忘れていた。
そのため、東の森から帰ってきた日にマルタから三日後、つまり今日がお茶会の日だと言われたときはとてもびっくりした。
「よし。準備完了。」
支度を整えたアイリスは、鏡の前で満足そうにうなずいた。
「お待たせ。準備できたわ。」
扉を開けたアイリスの姿を見ると、マルタは驚いたような顔をした。
「お、お嬢様…?その格好で行かれるのですか?」
「え、何かおかしいかしら?」
アイリスは不思議そうに自分の着ている服を見た。
ホワイトのブラウスに濃い朱色のガウチョパンツを履き、首には同じ色のチョーカーを巻いている。
「おかしいというより…それはドレス…なのですか?」
「あら、気付いてくれたの?どうかしら、私がデザインしたのよ。裾が広いからスカートのように見えるけれど、本当はズボンなの。今度ルビーのお店に出そうと思っていたから、試してみるちょうどいい機会だと思って。」
「ちょうどいい機会って…お嬢様。今日の開催者は格下の侯爵家とはいえ、この国での有力貴族のフーピテル家なのでございますよ?とてもよくお似合いでございますが…お茶会の正装とは言えませんわ。」
「ええ…そんなぁ。」
アイリスはシュンと肩を落とした。
「私はお嬢様のことを心配しているのです。お茶会では一切気を抜くことは許されないのですよ?お嬢様が傷つくようなことがあるのは…。」
「まあまあ、いいじゃないかマルタ。」
マルタが小言を言っていると、歩いてきた公爵がそれをいさめた。
「子供のうちに色々と学ぶのもいいだろう。それに、私のアイリスは強いからね。」
「そうよ、マルタ!子供の戯言の一つや二つ、私はへっちゃらだわ!」
「参加者はアイリスと同年代だけどね。」
「しかし、旦那様…。」
マルタはまだ心配そうだ。
「大丈夫さ。…それに、私のかわいい娘を批判など、させないからね。」
公爵は自信満々に不敵な笑みを浮かべた。
「…わかりました。旦那様がそこまでおっしゃるのでしたら。」
マルタはため息をついて言うと、脇へ下がった。
「…アイリス、疲れているだろうに、本当にまだ休んでいなくていいのかい?」
公爵はアイリスの方へと歩くと、かがんで目線を合わせた。
「ええ、大丈夫ですわ。お父様。」
「そうか。お前は強い子だな。だが、無理はしないように。」
「はい。…あの、お父様こそお体は大丈夫なのですか?」
公爵は一度大量の魔力を魔石に吸い取られている。
体への負担は相当大きいはずだが、こんなふうに歩いても大丈夫なのだろうか。
「私はいたって元気さ!ほら、このとおりね。」
公爵は立ち上がって胸をドンと叩いた。
「だから、お前はお茶会を楽しんできなさい。ただ、マルタの言っているように、気を付けるんだよ。」
「わかりました。」
「いい子だ。」
公爵はアイリスの頭にポンと手を置くと、にこりとほほ笑んでそのまま去っていった。
「ではお嬢様、まいりましょう。」
「そうね。」
マルタの言葉に、アイリスは気を引き締めて頷いた。
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