幕間 現代版のようです②
ブックマーク登録100人達成いたしました!
皆様応援ありがとうございます。
50人記念に引き続き、今回は現代版を上げさせていただきます。
「おはよー。」
「おはよ~。」
学校につくと、生徒たちの声で賑わっていた。
「みんな今日も元気だねえ~。」
しーちゃんがしみじみと目を細める。
「ちょっと、なにおばあちゃんみたいなこと言ってるのよ。」
「ふぉっふぉっふぉ。それもただのおばあさんじゃないよ。私は悪ーい魔女なんじゃ。」
しーちゃんは怪しげに笑うと、アイリスに魔法をかけるふりをした。
「えーっとねー、そうだ!今からお前は最初に見たやつに恋するんじゃ。」
にやにやしながら、人ごみに押されて前に出れないクレーヴェルを見やる。
クレーヴェルは悔しそうにしーちゃんを睨んだ。
「え、それじゃあしーちゃんに恋するってこと?」
アイリスの素朴な疑問に、ガクッとしーちゃんとクレーヴェルは肩を落とした。
「私以外で!」
むくれて言うしーちゃんの言葉に、アイリスはあたりを見回し、ぱあっと顔を輝かせた。
「あ、ルビー!」
名前を呼ばれて驚いたように肩を震わすルビーに向かって、アイリスは走って行ってしまった。
「…今回はルビーちゃんに負けたわね。」
「はい…。」
しーちゃんは、しおれるクレーヴェルの肩をポンポンと叩いた。
「ルビー、おはよう!」
「おはようございます、アイリスさん。」
嬉しそうに挨拶をするルビーは、いつもきっちりと赤い髪をまとめ上げている生徒で、アイリスのクラスメイトだ。
「今日も美会委員の仕事?」
アイリスは「美化」と書かれた腕章に目を向けた。
「はい。この学校を美しくするのが、私たちの役目ですから。」
「ルビーは真面目ねえ。」
そんなことを話していると、しーちゃんが二人のもとへやってきた。
「ルビーちゃんおはよー。」
「おはようございます。」
「この間の新聞見たよ!すごいよね、全国優勝しちゃうなんて!」
しーちゃんが目を輝かせながら言うと、ルビーは顔を赤らめた。
「そんな…全然です…。」
「そんなことないわよ!ルビーはすごいわ!」
「そうだよ!」
アイリスが手を握りながら言うと、しーちゃんもそれに賛同した。
ルビーは照れるようなしぐさを見せ、
「ありがとうございます。」
と嬉しそうにほほ笑んだ。
「あれ、そういえばクレーヴェルは?さっきまで一緒にいなかったっけ?」
アイリスはあたりをきょろきょろと見まわした。
「ああ、弟君ならあそこにいるよ。ほら。」
しーちゃんが指さした場所を見ると、大勢の女子に囲まれたクレーヴェルが困ったように対応していた。
「アイリスの弟は人気者だねえ。」
ニヤニヤ笑いながら言うしーちゃんの横で、アイリスも相槌を打った。
「そうなのよ。早く彼女作ればいいのに。かたくなに嫌がるのよね。なんでかしら。」
心底不思議そうに言うアイリスに、しーちゃんはブフッとふき出した。
「え、何よ?」
困惑するアイリスに、余計おかしくなるしーちゃん。
助けを求めるようにルビーを見るが、ルビーも肩を震わせている。
「もー、なんなのよー。」
「ごめんごめん、でもさ、弟君もかわいそうだよね。」
「え、何が?」
「何でもないよ。ね、ルビーちゃん。」
「そうですね。」
意味深な笑みを浮かべる二人に、訳を聞こうと口を開きかけたアイリスだったが、不意に後ろからトントンと誰かに肩をたたかれた。
振り返ると、さわやかな笑顔とともに、一人の男子生徒が立っていた。
「あら、おはようエドワード君。」
「おはよう。」
エドワードは、にこりとほほ笑んだ。
「今日も麗しいことで。」
ぼそりとつぶやくしーちゃんの言葉に、うんうんと頷くルビー。
エドワードはこの学校の生徒会長で、金髪碧眼の、いわゆる王子様のような生徒だ。
その美しい見た目もさることながら、成績優秀で穏やかな性格から、学校中の生徒のあこがれの的となっている。
「ごめんね。話の邪魔をしてしまったかな?」
申し訳なさそうに言うエドワードに、アイリスは首を振った。
「いいえ、大丈夫よ。どうしたの?」
「それが、レオンが見つからなくてね。」
困ったようにエドワードは言うと、
「朝は一緒に来たはずなんだけれど。」
と付け足した。
「レオン君?どうかしら…しーちゃん見かけた?」
「ううん。いなかったよ。それにレオン君なら探さなくても見つかるし。」
しーちゃんの言葉にうなずくアイリスとルビー。
「困ったなあ…。」
エドワードがそう言うと、校舎中に、
「兄貴ーーー!!」
と誰かが叫ぶ声が響いた。
見上げると、校舎の二階から身を乗り出す一人の男子生徒がいた。
「レオン!またそんなところに!」
エドワードが慌てて駆け寄ろうとすると、レオンは二階からジャンプして見事な着地を見せると、満面の笑みでこちらに走ってきた。
パチパチパチと、見ていた生徒から拍手が上がる。
「兄貴!やっと見つけた!」
嬉しそうに言うレオンと対照的に、エドワードは
「まったく。なんでお前はいつもそう危ないことが好きなんだ。」
と厳しい顔を向けた。
叱られたせいで、さっきまでの笑みがみるみるしぼんでいくレオン。
「まあまあエドワード君。レオン君もエドワード君を見つけてうれしかったんだろうし、許してあげましょうよ。」
まるで叱られた子犬のようだと思いながらアイリスは言った。
「まあ、アイリスがそう言うなら…。」
エドワードは渋々ながらもすぐに叱るのをやめる。
「アイリスの言うことは聞くんだ。」
ぼそっと言うしーちゃんと、頷くルビー。
「それで、兄貴何の用?」
目をキラキラ輝かせながらレオンは聞いた。
「ああ、そうだった。」
エドワードは思い出したように言うと、レオンの手をガシッと掴んだ。
「先生方がお前を探してたよ。早く課題を出してほしいそうだ。」
その瞬間、ピシッと表情の固まるレオン。
「さあ、行こうか。またね、アイリス。」
そう言って、エドワードはすっかり力の抜けたレオンの手を引いて行ってしまった。
「うわあ~かわいそう…。」
「まるで飼い主に騙されて、予防接種に行く子犬のようだったわね。」
ずるずると引きずられていくレオンを、アイリスたちが気の毒そうに見つめていると、
キーンコーンカーンコーン…
予冷のチャイムが鳴った。
「ヤバッ」
「あ、じゃあまたね、ルビー!」
「はい。また。」
二人は生徒たちで込み合う廊下を抜け、教室へと走った。
お読みいただきありがとうございました。
改めまして、ブックマーク登録をしてくださった皆様、ありがとうございます。
いつも励みになっております。
これからも、アイリスたちの日々を見守っていただければと存じます。
皆様に楽しんでいただけますよう、頑張ってまいります。