懐かしいようです
魔石の暴走を止めたアイリス。
どうやら夢を見ているようで…
一切音のしない中で、アイリスは意識を取り戻した。
いつの間にか、全身の痛みと疲労が消えている。
(私…どうしたのかしら?)
ゆっくりと目を開くと、見知った天井が映っていた。
(…お屋敷の天井だわ。)
アイリスは、そこが現実の世界でないことをすぐに理解した。
(そうだわ、魔石にたどりついて、それで…。)
今までの出来事を思い出し、慌てて起き上がろうとするが、体が動かない。
(え、なぜ!?)
鉛のように重くなった体は、力を入れることができずにただバタバタと手足を動かすことしかできない。
パニックになった目には見る見るうちに涙が溢れ、喉から嗚咽が漏れる。
「う、うええ~ん!」
アイリスは自分でその声を聴いて驚いた。まるで赤ん坊のような高い泣き声だ。
(私、どうしてこんな声で泣いてるの?)
疑問に思えば思うほど、涙はとめどなく流れ、声も激しさを増していく。
(どうしよう!誰か助けて!)
ぎゅっと目をつむりそう願うと、
「あらあら、起きちゃったのね~。」
優しい声とともに、誰かがふわりと頬に触れた。
(だ、誰!?)
びっくりして見開いたアイリスの目には、屋敷で見た、あの肖像画の女性が映っていた。
(……お母さま…。)
その瞬間、先ほどまでの不安が一気に消え去り、涙が止まった。
「いい子ね~。」
そういうと、メルキュール夫人はアイリスを抱きかかえた。
「あら、また重くなったかしら?」
いとも簡単に持ち上げられたことに驚くアイリスだったが、鏡に映った自分を見てさらに驚いた。
(え、私!?)
そこには、メルキュール夫人に抱かれた、赤ん坊の自分が映っていた。
緩くウェーブした金髪に、黄緑色の瞳。
鏡に映った二人はそっくりの親子だった。
「あら、鏡が気になるの?」
そう言って、メルキュール夫人はアイリスを抱えて鏡に近づいた。
近くまで来ると、上質なお包みに包まれた短い手足に、ほんのりピンクに色づいてふっくらとした頬がよく見える。
(本当に赤ちゃんに戻ってる…。)
興味津々に鏡に見入るアイリスを、夫人は微笑ましそうに見つめた。
鏡越しでも、その愛おしそうな視線に心が満たされる。
「ふふ。それじゃあ、またお昼寝に戻りましょうね。」
夫人はそう言うと、アイリスを寝かしつけようと向きを変えた。
(いや、待って!いかないで!)
母親ともっと一緒にいたいアイリスは、再び泣き出してしまった。
「あらあら、寂しいの?じゃあ寝るまでお歌を歌ってあげましょう。」
そう言って、夫人はアイリスを抱きかかえたまま近くの椅子に座った。
夫人は美しく繊細な声で歌い始めた。
子守歌だろうか。今まで聞いたことのない歌だ。
優しい歌声とともに、温かい香りに包まれるアイリス。
(なんだろう…?バラの香り…?)
やがてそのバラの香りと柔らかな歌声に、うとうとと瞼が落ちてきた。
(待って…まだ、もっと一緒に…)
「おやすみなさい。私のかわいいアイリス。」
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