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東の森のようです

ついに東の森へと向かうことになったアイリス一行。

しかし森へ行くのは容易ではなく…

「ここで止まりな。」


馬車が湖の目の前を通りかかると、中から老婆の声が聞こえた。


アランは言われた通りに馬車を止め、自分に寄りかかって眠るアイリスを起こした。


「アイリス様。」


「うん…?」


アイリスは眠い目をこすると、自分がどのような状態になっていたかに気づいて飛び起きた。


「す、すみません!」


恥ずかしさで眠気も吹き飛んだアイリスは、それを隠すように御者席から降りると、キョロキョロとあたりを見回した。


「あら、まだ森ではありませんね。」


すると馬車の戸が開き、クレーヴェルと、彼にリードされた老婆が下りてきた。


「礼儀正しい子だね。ありがとうよ。」


老婆は微笑んで言うと、アイリスたちを手招きした。


「これを持っていなさい。えーと、あんたはこれ、それであんたは…これだ。」


そう言って手渡されたのは、溶けていびつな形に変形した、拳大の鉄の塊だった。


「これは…?」


ちらりとアランのほうを見ると、アランはルビーの指輪を手渡されていた。


(なんか差がありすぎじゃない!?)


「そうさね…これは、一種のお守りみたいなもんさ。」


老婆は毛糸のようなもので作られたネックレスを首にかけると、湖の方へと向かって行った。


「あの、僕は…?」


何も渡されていないクレーヴェルが少し残念そうに言うと、


「ああ、あんたはいいの。」


と老婆はそのまま湖の中へ足を踏み入れた。


「え!そっちは…!」


アイリスが慌てて止めようとすると、老婆は振り返ってニッと笑った。


「大丈夫。ここが入り口さ。」


困惑するアイリスだったが、アランは老婆に続いて迷わず湖へと入っていった。


「来ないのですか、アイリス様?」


湖に腰までつかったアランがアイリスの方を振り返る。


(本当にあっているのかしら…?)


「服が濡れるのが嫌でしたら、馬車に戻っても構わないのですよ?」


躊躇するアイリスに、アランは無表情のまま言った。


「はい?服が濡れることくらい、どうってことありません!」


アイリスはツンと澄まして言うと、つかつかと湖へ足を踏み入れた。


(うまく乗せられちゃってるよ、姉さん…。)


アイリスの後を追いながら、苦い顔をするクレーヴェル。


「あんた水の魔法使えるんだろう?濡れないように魔法使っておきな。」


体を水の膜で覆う老婆にならい、アイリスたちも体の周りに薄い水の膜を張る。


「さあ、行こうかね。ああ、そのお守り、絶対に放すんじゃないよ。」


老婆は布で巻かれた見えないはずの目で何かを探すように首を振ると、ある地点でそのまま水の中へ潜ってしまった。


それに続いて、アランも躊躇なく潜る。


「え、ちょっと待って…!」


「あ、姉さん!」


後を追うように駆け出したアイリスは、そのまま穴に落ちるように湖の中へ沈んでいった。


「んん!」


沈んだ拍子につぶった目を開くと、アイリスは真っ暗な底なし穴に引きずり込まれていくところだった。


水の魔力が使えるからか息は苦しくなく、水の中にもかかわらず、ものすごいスピードで上に進んでいく景色も、自分の名を呼ぶクレーヴェルの声もはっきりと知覚できる。


(もう水面があんなに遠いわ。)


上を見上げたアイリスは、すっかり水の陰に輝きを失った月光を見つめた。


ずっと続く暗闇の中、老婆に放さないようにと言われた「お守り」を、ギュッと握りしめる。


まさか自分はこのまま永遠に落ち続けていくのではないかと思ったその時、アイリスは一瞬変な浮遊感を覚えた。


(え?)


その瞬間、自分の体が急上昇する感覚に襲われたかと思うと、真っ暗だった視界が急に明るくなった。




「プハ!!」


水の流れに押されるように、アイリスは勢いよく水面から顔を出した。


「あら?」


周りを見て見ると、そこは先程とは違う湖だった。


「わ!」


アイリスのすぐ横で、少し遅れてクレーヴェルも顔を出した。


「クレーヴェル!大丈夫?」


「あ、姉さん。平気だよ。…ここは?」


「もう森ん中さ。」


声のした方を振り向くと、老婆とアランが湖から上がっているところだった。


「早くおいで。ちんたらしてる暇はないよ。」


アイリスたちが急いで水辺に上がると、老婆は腰かけていた岩からよいしょと立ち上がった。


「いいかい、ここはとても危険な場所なんだ。離れないように、しっかりついてくるんだよ。」


「はい。」


老婆は厳しくそう言うと、ゆっくりとした足取りで、鬱蒼と生い茂る木々の間へ歩を進めた。



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