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出発するようです

公爵が東の森へ行くと聞き、取り乱すアイリス。

今すぐ自分も向かおうとするが…。

「公爵様の目的地が「東の森」ということです。」


アイリスはそれを聞いてゾワリと寒気が走った。

この国にいたら、知らないほうが難しいほど名の知られた森。

今まで何人もの騎士や魔法使いが犠牲になり、行方不明者を含む犠牲者は数えきれないほどいる。


「そんな…。」


公爵が必死に隠そうとして来た理由がやっとわかった。

東の森に行くということは、自ら命を絶ちに行くようなものだからだ。


「そんなところに行くなんて!そ、そうだっ、今から行けば間に合うんじゃ…!」


がたりと椅子から立ち上がったアイリスを、アランは無表情な瞳で見上げた。


「落ち着いてください。公爵はずいぶん前にご出発されました。今から行っても到底追いつけません。」


「なっ…!」


アイリスは思わずアランの襟をつかんだ。


「だったらなぜもっと早く教えてくれなかったの!?あなたのお父様だって一緒なんでしょう!?」


声を荒げるアイリスに、アランは驚いたように目を見開いた。


「こんなことしている場合じゃないわ…早く行かないと!」


部屋を後にしようと身をひるがえしたアイリスの腕を、アランが掴んだ。


「ここからどれだけかかると思っているのですか?そんなの、現実的じゃありません。」


そう言うアランは、振り返ったアイリスの顔を戸惑ったように見つめた。


「現実的かどうかなんて関係ない!家族が危ないのに助けに行かないわけないでしょ!?」


目に涙を浮かべながらアイリスは言うと、アランの手を振り払って部屋を飛び出した。


「……現実的じゃない。」


アイリスの部屋で一人、アランはぽつりと呟いた。






「アンナ!マルタ!!」


アイリスはアンナの名を呼びながら玄関に向かって走った。


「お嬢様!一体どうされたのですか!?」


マルタが驚いた様子で駆け寄ってきた。


「そんな慌てたご様子で…!ドレスもぐちゃぐちゃではありませんか。」


「そんなことどうだっていい!お願い!早く馬車を出してちょうだい。」


「落ち着いてくださいませ。こんな遅い時間から外出なんて危険ですわ。何か緊急の用事なのですか?」


顔面蒼白で頼み込むアイリスを落ち着かせるように、マルタは言った。


「っ…!」


アイリスは言い淀んだ。

東の森に行こうなどと言えば、反対されるのは目に見えている。


(今ここで本当のことを言えば、闇の呪いのことが噂になってしまう!)


「…やっぱり、何でもないわ。」


「お、お嬢様!どこへ行かれるのですか!」


アイリスは踵を返すと、もと来た道へと再び走った。


バン!


肩で息をしながら、アイリスは馬小屋の戸を勢いよく開けた。


馬たちは、急な訪問者に何事かと顔を上げた。


藁と土の匂いの中を進み、アイリスはいつも馬車を引いてもらう馬の戸に手をかけた。


「―乗ったことあるんですか?」


後ろから不意に声をかけられた。

振り向くと、馬小屋の入り口にアランが立っていた。


「落ちたら骨折では済みませんよ。」


そう言いながらこちらに向かって歩いてくるアランを、アイリスはキッと睨みつけた。


「だったらなんです?今更止めに来たの?」


強気に言ってはいるものの、アイリスにはまったく乗馬経験がない。

そんな状況で助けに行こうなど、あまりにも無謀だとはわかっている。

しかし、何もせずにいるなんてできなかった。


「手伝いましょうか。」


思いもよらない言葉に、アイリスはポカンとアランを見つめた。


「…はい?」


突然のことでとっさに返す言葉が浮かばないアイリスを、アランは馬小屋の外へ連れ出した。


「ちょ、何ですか!離してください!」


入り口を出ると、そこには一台の馬車が置かれていた。


「え、馬車…?」


「チェルシー家の馬車です。」


混乱するアイリスに、アランはそう言って馬車の扉を開けた。


「姉さーん。」


「ク、クレーヴェル!」


馬車の中から、クレーヴェルがひらひらと手を振っていた。


「なんであなたがいるの!」


アイリスは馬車に駆け寄ると、クレーヴェルの頬をつねった。


「またあなたは勝手なことして!」


「イタタタタ…」


「アイリス様も人のこと言えないと思いますけどね。」


アイリスはアランに顔を向けると、


「アラン様もアラン様です!弟を連れて来るなんて!」


と責め立てた。


「あんなに大声で叫ばれて、気付かないほうが難しいのでは?」


アランは涼しい顔でそう言い、


「行くのですか?行かないのですか?」


と手を差し出した。


「…。」


返す言葉がないアイリスは、黙ってアランの手を取って馬車に乗り込んだ。


「では行きますね。」


「アラン様は乗らないんですの?」


自分は乗らずに扉を閉めようとするアランに、アイリスは不思議に思って聞いた。


「…ではアイリス様が御者になってくれるのですか?」


(こ、こいつ~!)


アランの憎まれ口にアイリスはカチンときたが、クレーヴェルの手前、怒るわけにもいかずに


「た、ただ聞いてみただけですっ!」


と言ってそっぽを向いた。


アランはアイリスの様子に一瞬笑った…様に見えたが扉が閉まってよく見えなかった。


(やっぱり婚約破棄しておいてよかったわ…。)


無口な堅物だと思えば、さっきの様な憎まれ口も叩く。

アラン・チェルシーはよくわからない人物だ。


(なんで協力してくれるのかしら…。)


そうこう考えているうちに、馬車は静かに発車した。

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