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教えてくれるようです②

アイリスに公爵の目的を教えるというアラン。

アイリスはなぜ教えてくれるのか怪しむが…。

「教えてあげますよ、あなたの父上が、何をしようとしているのか。」


アランは無表情な顔で、アイリスを見つめて言った。


「え…。」


アイリスは戸惑いを隠せずに立ちすくんだ。


まさかアランからそう切り出されるとは思わなかった。


「それは…お父様が、私に内緒で進めていることを教えてくださるという意味ですの?」


「そう言っているではないですか。」


アランは少し苛立ったように言った。


「…見返りはなんです?」


アイリスは警戒を強めて聞いた。


「ありません。」


「はい?」


きっぱりと言うアランに、アイリスは拍子抜けしたように聞き返した。


「では、アラン様は見返りもなしに、無償で私にお話をしてくださると?」


「ええ。」


アイリスは、無表情のままのアランを睨んだ。


(何が狙いなの?)


「それでは納得がいきませんわ。あなたがリスクを負うだけではありませんか。」


食い下がるアイリスに、アランはため息をついた。


「…わかりました。ですが、それは話の後で。」


「ええ。」


(何を企んでいるのか知らないけど、借りを作るのはごめんだもの。)


半ば強制的に契約を取り付けたアイリスは、普段あまり使わないソファに腰掛け、アランにも席を勧めた。


「それで?お父様は何をなさろうとしているんですの?」


背筋を伸ばして座ったアイリスは、向かいに座ったアランをまっすぐ見つめて聞いた。






「アイリス様は、僕の父が持ってきたあの魔石のことを覚えていますか?」


そう切り出したアランは、懐から小石を取り出した。


「それは…!」


独特な透明度を放つその石は、あの日伯爵が持ってきた魔石そのものだった。


「なぜそれを?」


「父上のを少し拝借したのです。」


(ええ…。)


何とでもないように言うアランに呆れながらも、アイリスは川の小石ほど小さいその石を見やった。


これは拝借したというより、無理やり削ったという方が正しいような気もするが。


「今朝、父上から弟君おとうとぎみに用事があると伺ったでしょう?それはこのためです。」


アランは石を掲げてみせた。石の中に、見覚えのある黒い霧がもやもやと渦巻いているのが見えた。


(闇の魔法だわ!)


「では、お父様たちはすでに魔力の移行を始められたのですか?」


アイリスの問いに、アランは首を振った。


「それではアイリス様に秘密にする理由がないでしょう。」


アイリスは確かに、と思った。

それに移行が始まったのなら、アイリスも呼ばれるはずだ。


(私たちに秘密にする理由…。)


アイリスは少しの間考えこむと、


「それには…違法取引がかかわっているのですね?」


と言った。


「ご存じでしたか。驚きです。」


少しも驚いていないように言っているあたり、アイリスがどこまで知っているかあらかた想像はついていたのだろう。


(一ミリも驚いてないくせに…。)


「そして、それには王都の商店が関係している―そうですわね?」


むっとしながらアイリスは言い、アランはそれに頷いた。


「はい。あそこは違法取引の仲介所ですが、悪いところではないんですよ。」


「どういう事です?」


「違法かどうかを決めるのは、国の勝手な判断です。他国には、自分たちの利益のためだけに簡単に入手できるものさえ、貴重種として、取引を禁止しているところもあるんですよ。」


「つまり本当は、貴重種でないものが違法取引の対象となっていると?」


アランは頷いて続けた。


「元々「貴重種」を売っていた人たちは、国の勝手な法律のせいで収入減を奪われてしまったのです。」


「それであの店を仲介役に、私達の国で商売をしているのですね。」


「はい。そのため魔法省もあの店を黙認しているのです。」


やはり魔法省も知っていたようだ。


(王都内の状況を、魔法省が知らないわけないわよね。)


「それは、あの店が魔法省にとって何か有利なものを持っているからですわね。」


「さすがですね。そうです。あの店は全ての取引先を記録しています。しかし、あんな小さな店にそんなことが可能だと思いますか?」


その言葉にアイリスはハッとした。


「では、魔法省に取引先を横流ししていると?」


「横流し、というよりは委任ですね。魔法省の専門部署が名簿を管理しているのです。魔法省にとって、国にとっての危険因子を見つけるために。」


「なるほど…。」


そこでアイリスは、首筋に冷たいものを当てられたように寒気が走った。


「では、お父様があの店に行ったことも魔法省に把握されているんじゃ…!」


しかしアランは落ち着いて首を振った。


「ご安心ください。父上は魔法省の人間ですから、店には秘密にするように言うでしょうし、省内の中でも何らかの対応をしているでしょう。」


「そうですか…。」


(うーん、何だか安心していいような悪いような…?)


ひとまず落ち着いたアイリスは、再びアランの方に向き直った。


「恐らく、魔石を売った人物はあの石の価値をよくわかってはいなかったのでしょう。あんなものを市場に出せば、違法取引どころの騒ぎじゃなくなりますから。」


「伯爵はそれを知ってて購入されたのですか…。」


「ええ。あんな貴重なものを手に入れられて、父上はラッキーです。」


「ラッキーって…。」


やはり親子は似るものだなと呆れながら、アイリスは話の続きを待った。


「…しかし、やはりあの大きさでは弟君の呪いに対応しきれないようですね。おかげで僕でも削ることができるほど脆くなりました。」


まるで目の前でその様子を見ていたような言い方だ。


「今朝伯爵がクレーヴェルを迎えに来たのって、あの子の呪いを魔石に込めるためでしたのね。」


「はい。」


「それでしたら、そう言ってくださればよかったのに。」


アイリスは口を尖らせた。


「恐らくあなたが来ると何かまずいことがあったのでしょう。聡いあなたなら気付くかもしれませんからね。」


(私が気付くかもしれないこと…。)


意味深な表情を浮かべて言うアランに、アイリスは公爵たちの不可解な行動とこれまでの話をつなげて考えてみた。


(呪いに対してあまりにも小さい魔石、再び店を訪れたお父様たち。それに今日突然仕事ができたってことは…。)


アイリスはハッとアランを見た。


「もしかして、直接魔石を手に入れようとしているのではないですよね?」


アランはじっと黙ったまま、アイリスを見つめた。


(「イエス」ってことね…。)


「しかし、それなら何も私やクレーヴェルに秘密にする必要はない。まだなにかあるのですね。」


アイリスの確信的な言葉にアランはこくりと頷いた。


「はい。僕の考えでは、これが公爵様が最も隠したかったことだと思います。」


「それはなんですの?」


アランはゆっくりと、重々しく口を開いた。


「公爵様の目的地が「東の森」ということです。」

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