表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/90

第五のフラグがやってきたようです②

ルビーに練習の様子を見せてもらうよう頼むアイリス。

快く受け入れてくれるルビーだったが、戦う相手は強そうな男性で…

「それでは両者構えて―」


ルビーが片足を引いて戦闘態勢になる。


「ルビー危ない!」


「始め!!」


アイリスが叫ぶと同時に、公爵が合図を出した。


剣を構え、突進していく小隊長。


(本物の剣でやられたらひとたまりもない!)


ルビーに向かって小隊長が剣を振り下ろすが、ルビーは動こうとしない。


(ルビー!!)


すると突然、ふっとルビーの姿が消えた。


「え!?」


混乱するアイリス。


標的がいなくなり、小隊長の剣が空を切る。


「くっ!!」


小隊長はすぐに身をひるがえし、剣を横に振ろうとした。


しかし、振り向く間もなく、その喉元には剣先が突き付けられていた。


「やめ!」


アイリスはルビーのあまりの速さに唖然とした。


(いつの間に後ろに回り込んで…!)


ルビーは静かに剣を下げると、小隊長に向かって丁寧に礼をした。


「勝者、ルビー!」


公爵がそう言うと、騎士たちは互いに頷きあいながら拍手を送った。


どうやら、ルビーの勝利は驚くことでもないらしい。


「アイリス様!」


歓声に包まれながら、ルビーが嬉しそうにアイリスのもとへ走ってきた。


あんなに素早い動きをしたにもかかわらず、ルビーは髪一つ乱れていなかった。


「いかがでしたでしょうか?この屋敷の方以外に訓練を見ていただいたことがないので、緊張してしまいましたわ。」


息も乱れた様子もなく平然と言うルビーを、アイリスは呆然と見つめた。


「あの…アイリス様?」


不安そうにアイリスを見るルビーに、アイリスはハッと意識が戻った。


「ん?あ、ああ。ごめんなさい。あまりにもすごくてつい…。」


「あ、やっぱり変ですよね…貴族令嬢がこんなことしてるなんて…。」


ルビーはアイリスの反応に落ち込んで言うと、手に持った剣を後ろに回した。


「違う違う!」


アイリスはぶんぶんと手を振って言い、ルビーの肩をガシっと掴んだ。


「あまりにも強いからびっくりしちゃったの。男の人相手に圧勝しちゃうなんて!」


(だからみんなあんな嫌がってたのね。)


目をキラキラさせるアイリスに、ルビーは面食らった顔をしたが、


「ありがとうございます!」


とすぐにうれしそうな表情になった。


「本当にすごいわ…。どうやったらあんなに強くなれるの?」


「特別なことは何も…。ただ訓練しているだけですので…。」


(いやそれがもう特別だよ。)


しかし、ルビーの何倍も戦いを経験してきた騎士を、一瞬で追い込んでしまう強さ。

やはりマルス家が戦いに優れているというのは本当らしい。


「ほんとかっこよかったわ!今度また見せてちょうだい!」


「もちろんですわ!」


アイリス達のやり取りに、一気に青ざめる騎士たち。


「アイリス様が喜んでくださって嬉しいです。みんなあまり訓練の様子を外の方に見せたがらないので…。」


それを聞いて、アイリスは「ああ」と納得した。


(やっぱり、マルス家への偏見のせいよね…。)



貴族令嬢として生まれた者が、周りからの評価を最も大切にすることは、この体に転生してから身をもって感じていた。


ましてやアイリスやルビーのように公爵家の娘ともなると、マナーや教養だけでなく、貴族の頂点に立つ者として「完璧な令嬢」を求められる。


そして、貴族たちにとっての「完璧な令嬢」には、戦闘ができる令嬢は含まれていない。


だからこそ、マルス家の人々は「野蛮人」だと揶揄されているのだろう。


(自分の価値観に合わないからって、バカにするなんて。)


パーティーで貴族の子供たちにいじめられていたルビーを思い出し、ふつふつと怒りがわいてくる。


(公爵も、大変だったんだろうな…)


あの大柄な公爵に、面と向かって挑もうとする人はいなかったとは思うが。


「お母様もそのせいで苦労したと言ってましたし…。」


「え、夫人が!?公爵じゃなくて!?」


アイリスは、思わず聞き返した。


「ええ。母はマルス家出身ですから。」


(そう言えば、屋敷内の秘密の部屋を作ったのは夫人だった…)


アイリスは、てっきり大柄な公爵がマルス家出身だと思い込んでしまっていた。


「じゃあ、夫人も戦えるの?」


「はい。お母様はお父様に一度も負けたことがなかったそうですわ。」


優雅な雰囲気を漂わせるあの夫人が戦っている所など、到底想像できない。


(しかも公爵に一度も負けたことがないなんて…)


アイリスはあの夫人は怒らせないでおこうと固く心に誓った。




「もう少しで訓練も終わります。剣を片付けてすぐに着替えますね。」


腰に差した剣を持ってルビーが言った。


「わかったわ。」


今日はルビーと王都を回る約束をしてある。


王都であまり知られていない裏名所を回るのだ。


(これで、アンナに負けないくらい女子力が上がるわ!)


「そうですわ。行きだけトリスタンをご一緒させてもいいですか?」


(トリスタン?ああ、あの矢の子ね。)


「ええ。」


あの少年も王都に用事があるのだろうか。


「ありがとうございます。」


ルビーはそう言って嬉しそうに走っていった。


アイリスも荷物を片付けるため、部屋に戻ることにした。






「お待たせいたしました!」


玄関で待っていると、着替えたルビーがトリスタンと共にやってきた。


「大丈夫よ。」


ウキウキした様子のルビーと反対に、トリスタンはびくびくしていて、顔を上げようとしない。


「あ、あの、メルキュール令嬢…さ、先ほどは誠に申し訳ありませんでした…」


聞き取れないほどの小さな声で言うと、トリスタンは頭を下げた。


「気にしないで。わざとじゃなかったのだし。」


あまりにおびえるトリスタンに、アイリスは励ますように言ったが、トリスタンはなおも顔を上げようとしなかった。


(なんかチワワみたい…)


アイリスは元気づけようと口を開きかけたが、馬車がやってきてそのまま王都に向かうことになった。






 馬車の中でルビーと話しながら、アイリスはトリスタンを観察した。


さっきは気付かなかったが、こうして見ると身なりはきちんとしているし、着ている服も素朴だが質の良いものだった。


(どこかの貴族なのかしら…)


トリスタンは屋敷にいた時と同様、おびえた様子で下を向くばかりだった。


(なんだか、先輩にカツアゲされている小学生みたいだわ…。)


今は真っ青な顔をしているが、きっと笑ったらかわいいんだろうなあと思いながら、アイリスはルビーとの話に戻った。




おしゃべりに夢中になっていると、馬車は王都近くの森に停車した。


(森?)


ただ木が広がるだけの場所に、アイリスが不思議に思っていると、


「お、送っていただきありがとうございました。で、では僕はこれで…。」


と言って、トリスタンは立ち上がると一礼して馬車から降りていった。


「…彼、森の妖精か何かなの?」


今朝のことを引きずっているのか、トボトボと森の中へ歩いて行くトリスタンを見送りながら、アイリスは聞いた。


「まさか。ここはクロノス家の敷地です。」


「え、クロノス公爵家の敷地!?」


ころころと笑いながらそういうルビーに、アイリスはもう一度窓の外を見た。


よく目を凝らすと、奥に門らしきものがあるが、それも他の屋敷よりもだいぶ質素なものに見えた。


「という事は、トリスタンは公爵家の…?」


「はい。クロノス家のご子息です。」


「えええ!?」


クロノス家と言えば、その建築や土木に優れた才能で、この国のほぼすべての町の礎を築いたことで有名だ。


(その公爵家が、こんな森の辺地にあるの!?)


うっそうと茂る木々を見て、アイリスは今だここが公爵家の敷地だと信じられずにいた。


「トリスタンは私の幼馴染で、今日のように屋敷に来て一緒に稽古をするんです。」


ルビーはにこやかにそう言った。


(うわー。あのルビーと一緒に稽古かー…。)


大の大人をも瞬殺した今朝のルビーを思い出し、アイリスは少しばかりトリスタンに同情した。


(私と同じ公爵家の子供ってことは、これから接点が増えていきそうね。)


そこまで考えたアイリスは、思わず叫びそうになって口を押えた。


公爵家の息子、さらにあの愛くるしい顔…


(これはまさか…)


アイリスはすでに小さくなったトリスタンの後ろ姿を凝視した。


(それってつまり、トリスタンも攻略キャラ候補に入るってことじゃない!?)


挿絵(By みてみん)



お読みいただきありがとうございます。

また、ブックマーク登録もありがとうございます。励みになります。

登録者100にんを目指して、励んでまいります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ