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第五のフラグがやってきたようです

ルビーの屋敷でお泊り会中のアイリス。

どうやらルビーは朝稽古の最中らしいが…

「すご…」


中庭に出ると、障害物を突破したり、互いに剣を交えたりと、たくさんの騎士たちが各々訓練に励んでいた。


そして司令台のような所に座ったマルス公爵が、たまに騎士たちに指示を与えながらその様子を見ていた。


アイリスは騎士たちの雰囲気に圧倒され、その場に立ち尽くしていた。



「あっ!!」


不意に大きな声が響き、一本の矢が自分の方に飛んでくるのが見えた。


(!!)


避けなければという意識が一瞬のうちに頭をかすめるが、足が全く動かない。


(嫌っ)




カキイィン!




恐怖で顔を覆った瞬間、アイリスの前に誰かが立ちふさがった。


(…え?)


恐る恐る顔を上げると、視界いっぱいに夕日色が広がった。


「アイリス様!大丈夫ですか!?」


「…ルビー…!」


血の気が失せたような表情をしたルビーが、アイリスの顔を覗き込んだ。


(ルビーが助けてくれたの?)


地面を見ると、アイリスに向かって飛んできた矢が、無残に折れて転がっていた。


「何事だ?」


騒ぎを聞きつけた公爵が、アイリスたちに駆け寄った。


「アイリス様に、矢が当たりそうになったのです。」


ルビーはそう言うと、地面に落ちた矢を指さした。


「これか…」


公爵は矢を拾うと、訓練中の騎士たちを振り返り、


「この矢を放った者は、すぐに名乗り出よ!」


と呼びかけた。


すると騎士たちの中から、一人の少年がおずおずと前に進み出てきた。


「ぼ、僕です…。」


周りの男性たちとは比べ物にならないほど細く、幼い顔をした少年は、アイリスよりかなり年下に見えた。


「も、申し訳ありませんでした…。」


少年は泣きそうになりながら頭を下げると、蚊の鳴くような声でそう言った。


「トリスタン、またお前か。」


公爵は深くため息をつくと、トリスタンと呼ばれた少年の方に歩み寄った。


びくっと肩を震わせるトリスタン。


「お前に矢は早いと何度も言っただろう。そのせいで大切なお客様がけがをするところだったのだぞ。」


公爵は厳しくそう言うと、アイリスの方を向いて頭を下げた。


「アイリス嬢、申し訳ねえです。」


「いえ、私は大丈夫ですので…」


アイリスがそう言うと、公爵は騎士たちに向かって


「訓練に戻れ!」


と指示し、


「お前は、今日訓練に出なくていい。」


と言ってトリスタンの抱えていた弓を没収した。


「っ!」


弓矢を取られたトリスタンは、泣きそうになりながら中庭から出て言った。


「アイリス様、大丈夫ですか?」


気付けば、アイリスはルビーの手をしっかり握りしめていた。


「あ、ごめん!」


アイリスは慌てて手を離すと、目の前のルビーの姿にハッとした。


先程まで気付かなかったが、ルビーは訓練用の服を身に着け、いつも降ろしている髪は一つに結びあげていた。


それに加えて剣を手に持つ姿は、伝説の女騎士の様に凛々しかった。


「ルビー、かっこいいわね…。」


アイリスはその姿に思わず感嘆の声を漏らした。


「え、やだ私ったら。こんな姿でお恥ずかしいです…!」


(あ、やっぱりいつものルビーだ。)


ルビーは一瞬顔を赤らめたが、すぐに姿勢を正すと、


「危険な目に合わせてしまい本当に申し訳ございません。どのような罰でも何なりと。」


とアイリスに跪いた。


「え、そんな気にしなくていいわよ!守ってもらったのは私なのに。」


突然そんなことをされたアイリスは驚いてそう言うと、跪いたままのルビーの手を取り、急いで立たせた。


「それに勝手に来ちゃったのは私だもの。あなたが謝る必要はないわ。」


「しかし…。」


ルビーはなんとなく納得していない様子だ。

このままではまた「罰を受ける」と言い出しそうで、アイリスは慌てて話題を変えることにした。


「えーっと、ルビーのその格好はいつもと感じが違ってて素敵よね。その服もあなたが作ったの?」


ふわりと膨らんだハーフパンツや所々に入っている刺繍には、訓練用の服とはいっても女の子らしさが出ていた。


「ありがとうございます。これは特注で作ってもらったものなのですが、お気に入りなんです。」


ルビーはそう言うと、嬉しそうに笑った。


「それに、ドレスと違ってとても動きやすいんですよ。」


「確かに。運動にはぴったりの服ね。」


そう言いながら、アイリスは先程のルビーの動きを思い出した。


一瞬でアイリスの前に立ち塞がり、腰に差した剣で飛んで来た矢を薙ぎ払った、あの身のこなし。


(うん。この服を着ててもあれは無理だわ。)


アイリスは再びルビーの顔を見た。


「?」


コテンと首をかしげる目の前の少女には、とてもあの驚異的な身体能力が備わっているとは思えないが…。


「ルビー、もしよかったらでいいんだけど、訓練の様子とか見せてくれないかしら?」


同じ公爵令嬢の友達に、あんな能力が備わっていたと信じられないアイリスは、真実を確かめるべくルビーに尋ねた。


「ええ!喜んで。」


ルビーは朗らかにそう言うと、騎士たちの方に歩いて行った。


「誰か、私と手合わせしてくれませんか?」


ルビーがそう尋ねると、騎士たちは一瞬にして動きを止めた。


気のせいだろうか、皆なんとなくルビーから目を逸らしているように見える。


誰も名乗り出ないこと数十秒。


しびれを切らしたルビーは、剣を持つ一人の男性に声をかけた。


「小隊長。お手合わせ願えますか?」


小隊長はギギギギと音が鳴りそうなほどぎこちなく首を回すと、


「も、もちろんですよ。お嬢様…。」


と冷や汗を垂らしながら笑顔で言った。


「私のことは、他の方々と同じように呼び捨てで呼んでくださいませ!」


ルビーはそれにぷくりと頬を膨らませると、すたすたと歩いて間合いを取った。


「では審判は俺がやるとしよう。」


マルス公爵はウキウキしたように言うと、離れて立つ二人の間に立った。


辺りは緊迫した空気が流れ、騎士たちはそれぞれ手を止めてその様子を見守った。


(え、もしかして本物の剣で勝負するの!?)


アイリスは剣を握るルビーを見て慌てて立ち上がった。


「それでは両者構えて―」


ルビーが片足を引いて戦闘態勢になる。


「ルビー危ない!」


「始め!!」

お読みいただきありがとうございます。

また、ブックマーク登録もありがとうございます。

長くなってしまったので、続きは五時ごろに投稿します。

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