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パーティー本番のようです 夜の部

パーティーもついに後半になり、無事に空腹を満たすことができたアイリス。

すると彼女のもとに贈り物が届いて…

日が傾き始めたころ、パーティーは夜の準備に向けて一時お開きとなった。


招待客たちはそれぞれ用意された部屋で、夜のダンスパーティー用の服に着替えるのだ。


アイリスもマルタに呼ばれて部屋へと戻ることにした。


「お嬢様…もしかしてあの後もずっと食べてらしたのですか?」


廊下を進みながら、マルタはそう言ってアイリスを見た。


ギクッと目をそらすアイリス。


「そ、そんなことないわよ!たまたまマルタに会った時に食べていただけで…」


「私、ずっと見てたんですからね。」


「う…」


ルビーと別れた後、アイリスはあまりの空腹に、パーティーに出された料理を片っ端から食べていった。


「だって、立食用の料理は小さくてお腹がいっぱいにならないんだもの…」


「それで草むらに隠れて食べていたと?」


「え、それも見てたの…?」


マルタは大きくため息をつくと、


「よりによって草むらに隠れて食べるなんて!他の方に見られたらどうするのです!!」


とまくしたてた。


(ひいい~怖!)


「ごめんなさいごめんなさい!もうしないからー!」


鬼の形相で怒るマルタに、実はクレーヴェルに料理を持ってこさせてたことは黙っていようと、アイリスは思った。






「ふう~疲れたー。」


部屋に戻るなり、ベッドに倒れこむアイリス。


「ほらお嬢様!起きてください!ドレスを変えないと!」


アンナは困ったように言うと、アイリスを抱え起こした。


「だってえ~疲れたんだものー。」


うーんと伸びをするアイリスに、


「お嬢様はただ食べていただけじゃないですか。」


と冷たく言い放つマルタ。


「まあまあ。お嬢様、次こそは遅れないようにしないと!」


アンナが張り切ったように言うと、


「お次はどのドレスにしますか?」


と、アイリスに満面の笑みを向けた。


(えー。やっぱり私が決めるのー?)


アイリスは面倒くさそうに顔をしかめた。


「ご心配には及びませんよ、お嬢様。ドレスは用意済みです。」


それを見たマルタは、アイリスに言った。


「え?」


「こちらへ。」


マルタが侍女に指示すると、奥から一着のドレスが運ばれてきた。


それは肩が開いたイブニングドレスで、フレアが何層にも重なっていてとても可愛らしい。

また、胸元から裾にかけて徐々にスカイブルーから桜色に色が変わっている様子は、凛としていてもどこか少女らしい雰囲気を醸し出している。


「すごい可愛い…マルタが用意したの?」


美しいグラデーションに目を奪われながら、アイリスは聞いた。


「いいえ。昨日王宮の方から頂いたのです。」


「そうなの?」


アイリスは近くによってまじまじとそのドレスを見つめた。


腰から裾にかけて、大小さまざまな花の飾りがあしらわれている様は、澄んだ空のもとで咲き乱れる花園のようだった。


「今にも花の香りがしてきそうですね。」


アンナがうっとりとして言った。


後ろに回ると、腰の部分にはリボンの代わりに一輪の花が添えられていた。


「ふふ、きれいなヌーヴェル・マリエね。」


アイリスが花にそっと触れると、花と一緒にカードが添えられているのを見つけた。


「カード…?」


中を開くと、そこには丁寧な字で、〈リボンはお嫌いかと思いまして〉と書かれていた。


「…エドワード様らしいわ。」


アイリスは嬉しそうにそう呟くと、


「このドレスで決定ね。」


と言って振り向いた。


「承知いたしました。」


「異議なしです。」


マルタとアンナも口をそろえた。


「このドレスに似合うアクセサリーはあるかしら?」


アイリスが訪ねると、


「これなどいかがです?」


と言って、アンナが明るい水色のネックレスを差し出した。


可憐な花の形に縁取られたアクアマリンの宝石が艶やかな輝きを放っている。

アイリスはそのネックレスを見た途端、


「これはエドワード様の瞳の色…」


と呟いた。

アンナはそれに頷くと、


「エドワード様のお気持ちを受け取ったと伝えるんです!」


と力強く言った。


「…そうね。これだけ素敵なパーティーを作ったんだもの!お礼ぐらい受け取らなくちゃね!」


アイリスが意気込んで言うと、アンナたちはぽかんとして固まってしまった。


「何?みんななんでこっち見てるの?」


「お嬢様…」


マルタはやれやれと首を振って眉間を抑えた。


「え、何?」


周りを見回すと、どの侍女も不憫そうにアイリスを見つめている。


「え、どうしたのよ!」


状況がつかめずおろおろするアイリスに、


「こういう事には気が付かないのですね…」


と、アンナは信じられないというように一人呟いた。






「―お集まりの皆様。エドワード第二王子殿下と、レオン第三王子殿下です!」


薄暗いダンスホールに声が響くと、会場中に一斉に明かりが灯った。

ほのかな黄金色に輝く光は、中央のシャンデリアのクリスタルに煌めき、今日の主役二人を明るく映し出した。


大きな拍手と歓声に迎えられた二人の王子は、ゆっくりと階段から降りると、招待客の前でお辞儀をした。


「続いて、国王陛下、皇后様のおなりです!」


二人が頭を上げると、ティエラ王国の国王と皇后が姿を見せた。


その瞬間会場は静まり、全員が国の統一者に頭を下げた。


「―八年前の今日、この国の希望と未来が誕生した。今日はめでたいこの日を祝おう。我が息子たちに、多くの幸あらんことを!」


国王がそう言い、手に持っていたワイングラスを掲げた。


「王子殿下に、祝福がありますように!」


来場者は一斉にそう言うと、各々手にしたワイングラスを掲げ、今日と言う素晴らしい日を盛大に祝った。


国王はそれを見届けると、皇后の腕を取って王座へと向かった。


その間も、会場は多くの歓声と拍手に包まれていた。


最前列にいたアイリスは、その様子に圧倒されていた。


(すごい…)


 エドワード王子とレオン王子の、王族としての風格も中々のものだったが、それをさらにしのぐほど、国王の威厳はすごいものだった。


(あれがこの国を支えるティエラ国の王…)


 初めて会った時は息子を心配する父親の顔をしていたのに、今夜の姿はまさに、一つの大国を統治する一国の王たる者の姿だった。


アイリスはその堂々とした佇まいに目を離せないでいた。


国王たちを見つめていると、玉座に座った皇后が、アイリスに向かってニコリと微笑んだ。


アイリスは慌ててお辞儀をするも、顔を上げた時には皇后は国王と何か話していた。


(私に、笑いかけてくれたの…かな?)


皇后はパーティーや社交の場にはあまり顔を出さないことで有名で、こうして出席するのはとても珍しいことだという。


(それでも、家族の誕生日には必ず参加するのよね。)


それだけで、彼女がどれほど家族を大事に思っているのかが伝わってくる。

先程アイリスに微笑みかけた表情も、その温かい気持ちが伝わってくるものだった。


(きっと、とても優しいお母さんなんだろうな…)


アイリスがそう考えていると、誰かが肩をとんとんと叩いた。


振り向くと、エドワード王子がアイリスの後ろに立っていた。


「アイリス、私と一曲踊っていただけませんか?」


王子はそう言うと、アイリスに手を差し出した。


(そうだった。一番最初は婚約者とダンスするのが習わしよね。)


アイリスはそう思いだすと、


「喜んで。」


と言って手を重ねた。


 

曲が始まると、周りで多くの人が見守る中、アイリスとエドワード王子はダンスを踊った。


「あの、エドワード様。」


アイリスは周りに聞こえないように小さな声で話しかけた。


「なんですか?」


「ドレスを送っていただきありがとうございました。本来なら私が送る立場でしたのに。」


「いえ。私の婚約者には特別なものをプレゼントしたかったのです。…この会場には、青いドレスが多すぎる。」


だからピンクと青のドレスを送ったのか。


(ピンク色はこの中では目立つものね。青が入っていれば、時代遅れだと言われることもないし。)


アイリスは王子の心遣いに感謝した。


「それに私は、あなたからとても大きなプレゼントを頂きましたしね。」


王子はアイリスの首飾りを見て言った。


(プレゼント…?何のことかしら?)


アイリスはしばらく考え込んだ後、


(ああ、パーティーの準備のことね。)


と思いつき、


「会場のデザインのことでしたら私も楽しかったですので、誘っていただきうれしかったです。」


と言った。


王子はその言葉に苦笑すると、


「まあ、今はそういう事にしておきましょう。」


と言ってほほ笑んだ。


 

ダンスが終わり、アイリスは一旦クレーヴェルを探しに王子と別れることにした。


人々の間を縫って会場の壁際によると、レオン王子が他の令嬢たちに囲まれているのが見えた。


「レオン様、次のダンスは私と踊ってくださいませんか?」


「いえ、私と踊ってください!」


(さすが攻略キャラ。女の子たちにモテモテね。)


アイリスは柱の陰からその様子を見つめていた。


しかし、本人は多くの令嬢たちに詰め寄られ、とても困ったような表情を浮かべている。


(うーん。助けに行くべきかどうか。)


 エドワード王子から、このパーティーはレオン王子の婚約者探しの場になると言われた手前、下手にアイリスが出ていけば、レオン王子の出会いの機会を奪ってしまいかねない。


(どうするべきかな…)


アイリスが迷っている間にも、レオン王子を狙って沢山の令嬢たちが集まってくる。


(まあ、誕生日の主役なのにあんなに困っているのはかわいそうよね。)


アイリスは意を決してレオン王子に近づいた。


「レオン様、」


アイリスがそう声をかけると、周りの令嬢たちが一斉にアイリスに顔を向けた。


「エドワード様が呼んでらっしゃいますよ。」


その言葉に、レオン王子は助かったというようにぱっと顔を上げた。


「そうか。わかった。」


そう言って、アイリスのもとへ行こうとするが、レオン王子を取り巻く令嬢たちは彼を逃がすまいと一歩も動かない。


(すごい執念だわ…)


アイリスは関心しながらも、令嬢たちに向かって


「殿下にはご用事があるのですよ。道をお開けください。」


と言った。

しかしそれでもなお令嬢たちはどこうとしない。そればかりか、あからさまな敵意を向ける子までいた。


さすがにアイリスもこれには驚いたが、年上の風格を見せるべく、


「聞こえなかったのですか?殿下に道をお開けくださいと言っているのです。」


とにこやかに続けた。


食い下がるアイリスに彼女たちはしぶしぶ道を開けたが、何人かはまだアイリスを睨み続けていた。


「行きましょう、殿下。」


アイリスはくるりと背を向けると、レオン王子に向かってそう言った。


「あ、ああ。」


王子は慌てて後を付いて行った。


「なに、あれ?」


「公爵家だからって、偉そうに。」


後ろから令嬢たちが悪口を言っているのが聞こえてくる。


(まったく。女の子はいつの時代も怖いわねー。ああでも、婚約者のいる私が言ったから、出しゃばりな女だと思われたわね…)


そう思いながら、ぼんやりと歩いていると、アイリスたちはいつの間にか会場を抜けていた。


「あら、ここどこかしら?」


どうやら、会場の外の廊下に出てしまっていたようだ。


「どこって…お前が連れてきたんだろう。」


レオン王子が呆れて言った。


「来い。」


王子は先へ進むと、テラスの扉を開けた。


「ここならあまり人が来ない。」


「戻らなくてよろしいんですの?」


テラスに出ながらアイリスは聞いた。


「せっかく遠くから来られてるご令嬢もいらっしゃいますのに。」


すると王子はきょとんとした顔をして、


「それがどうかしたのか?」


と聞いた。


(いや、みんなあなたに会いたくて来てるんですけど!?)


アイリスは女心の分からないレオン王子に内心イラっとしたが、王子がパーティーから抜け出すのを手伝った手前、何も言い返すことができない。


「いえ…ただ殿下は、パーティーに戻られたいかと思って…」


なんとなく言葉を濁すと、王子は不機嫌そうに


「俺はパーティーは嫌いなんだ。」


と小さく言った。


「あら、意外ですね。」


初めて会った時の印象から、活発な王子はパーティーのような華やかな場所が好きだと思っていたが、そうではないようだ。


「失礼な奴だな。」


王子は頬を膨らませると、


「…パーティーに来る奴らなんて、ろくな奴がいない。」


と言って手すりにもたれかかった。


「あいつらは兄上にいつも媚を売ってたんだ。それがどうだ。兄上がお前と婚約してからは今度は俺に媚を売り始めた。」


王子はそう吐き捨てると、


「結局は権力が欲しいだけさ。」


と言ってアイリスの方を振り向いた。


「俺は、お前も兄上の地位が狙いだと思ってる。」


そう言う王子の目は真剣だった。


(本気でお兄さんを守ろうとしているのね。)


アイリスはそんな王子の優しさに感動した。


「殿下。」


アイリスは一歩、レオン王子に近づくと、


「私はエドワード様が望むなら、いつでも婚約破棄をするつもりです。(フラグを折るのに必死なので)私は地位も権力もいらないのです。」


と毅然として言った。


(死ぬかもしれないからそれどころじゃないのよ!)


「そうなのか…?」


王子は驚いたように目を丸くした。


恐らく、今までこのようなことを言ってくる者はいなかったのだろう。


「はい!」


アイリスは自信満々に言うと、


「ですから、あまり嫌わないでくださいね。」


と少し恥ずかしそうに笑った。


「べ、別に嫌っていたわけではない!警戒していただけだ!」


王子は顔を赤らめながらそう言うと、アイリスの方に向き合い、


「…今までの態度はすまなかった。謝る。」


と、突然頭を下げた。


「で、殿下!頭を上げてください!」


(素直なのは良いんだけど…王族の人に頭下げられると寿命が縮むからやめてー!)


アイリスが慌ててそう言うと、王子はまっすぐアイリスを見つめた。


改めてその目鼻立ちの整った顔を見ると、兄のように可憐ではないが、彼もとても美しい顔をしているのが分かる。


(いつもぶすっとしてなければ、かっこいい顔してるのに…)


少々残念に思うアイリスに、レオン王子は続けた。


「お前は…お前は俺の―」


言い淀む王子。

アイリスは息をのんで次の言葉を待った。


「お前は、俺の―!」

 

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