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パーティー本番のようです 昼の部②

赤毛のせいでいじめられていたルビーを助けたアイリス。

一方エドワード王子たちはアイリスのことを探していて…

「それにしても、姉さんはどこで油を売ってるんだ…」


クレーヴェルは王宮内を歩きながら呟いた。


「アイリスの行動を予測するのは、私でも不可能ですからねえ。」


王子がのんびりと言った。


「…あまり心配しているようには見えませんが?」


「気のせいでしょう?」


クレーヴェルはエドワード王子を睨んだ。

彼はどうにも、王子の態度が気に入らなかった。


(どうせ姉さんを、他の令嬢に婚約を迫られないための良い理由付けとしか考えていないんだろう。)


当の本人がどこかワクワクした顔をして歩いているのも気に食わない。


(こんな人に姉さんを渡せるもんか!)


クレーヴェルは歩く速度を速めた。


「おや、そんなに急いでいたら大切なものを見落としてしまいますよ。」


王子の茶化すような言葉に、クレーヴェルはかっとなって振り向いた。


「僕は姉さんを心配しているんです!あなたはパーティーを抜け出せてラッキーとしか思っていないでしょうが!」


「まあまあ。焦ればそれだけ見落としが出てくるものです。-ほら。」


王子が指す方を見ると、マルタが二人を探してキョロキョロとしていた。


「彼女はアイリスの侍女でしょう?彼女に聞けば何かわかるかもしれませんよ。」


「っ!」


王子に先手を取られ、苛立ちながらクレーヴェルはマルタの方へ向かった。


「ああ坊ちゃま、探しましたよ。」


マルタはクレーヴェルを見て駆け寄ると、後ろにいた王子を見て頭を下げた。


「本日はお祝い申し上げます。ティエラ王国のますますの繁栄と栄光がありますよう-」


「ありがとうございます。それより、アイリスを見かけませんでしたか?」


王子は返事をすると、マルタににこやかに聞いた。


「はい、お嬢様からはパーティーには遅れると伝えるように仰せつかっております。」


マルタはクレーヴェルに向き直って言うと、ため息をついた。


「なんでも、炎に会いに行くとか何とか…」


「炎?」


「はい。理由を聞く前に茂みの方には行ってしまわれて…」


「茂み…まったく姉さんは何をしてるんだ。」


クレーヴェルは頭を抱えた。


「炎、ですか…それを実際に見ましたか?」


「いいえ。私も何が何だかさっぱりで。」


マルタは困ったように言ったが、王子は思い当たることがあるらしく、


「会場に戻りましょう。」


と、踵を返してもと来た道を戻り始めた。


「ちょ、ちょっと。どこに行かれるんですか?」


クレーヴェルが慌てて追いかけると、王子は


「少し心当たりがありまして。」


と言って微笑んだ。






「ルビーはいつもどこで服を買っているの?」


会場に向かいながら、アイリスはルビーに聞いた。


「えっと、あまり有名ではないのですが…ユヌ・ケイプと言うお店です。」


「ユヌ・ケイプ?聞いたことがないお店ね。」


「大通りから少し外れたところにありますので…知っている人は少ないんです。」


「へえー。でも、とても素敵な服を売っているのね。」


ルビーは王都にあるおしゃれなお店や、どういった服の組み合わせが良いかなど、アイリスが知らない様々なことについて教えてくれた。


(アンナは有名なお店をたくさん知っていたけれど、ルビーは隠れた名店に詳しいのね。)


「普段目立たないようにこっそり行っているので、知らないうちに大通り以外のお店に行くことが多くなったんです。」


「でも、初めて会った時は大通りのカフェにいたわよね?」


あのカフェは、整理券をもらわないと入れないような超人気店だ。


ルビーは恥ずかしそうに、


「あそこのモンブランがおいしくて…あのお店だけ唯一大通りで行くお店なんです。」


と顔を赤らめて言った。


「モンブランが有名なのね。私はあそこはチーズケーキが有名だと聞いていたから食べてないわ。」


 アンナはこのお店はチーズケーキが一番人気と言っていた。

実際頼んだチーズケーキはまろやかでとてもおいしかったため、アイリスもそうなのかと納得していたが。


「チーズケーキはあそこの看板商品ですが、実は創業時からずっと作り続けられているのは、モンブランだけなんです。」


「へえ、ルビーはいろいろなことを知っているのね。」


ルビーは嬉しそうにはにかんだ。


「そんなことを言っていただけてうれしいです。」


「ルビーに会った人ならだれでもそう思うわよ。ご家族にそういうことに詳しい方がいらっしゃるの?」


アイリスが聞くと、ルビーの表情が暗くなった。


「…実は、このことは打ち明けられていないのです。」


「どうして?」


ルビーは悲しそうに目を伏せた。


「私の母はとても厳しいので、女の子の間で流行っているものとか買ってもらえなくて…」


「だからこっそり街に出かけているの?」


「はい。訓練のない日にだけですが…」


「訓練って?」


「…マルス家に生まれた子供は元から戦闘能力が高くて、それを国のために使えるように、ほぼ毎日戦い方を教わるんです。」


それを聞いてアイリスはとても驚いた。

目の前にいるこんなにもかわいらしい少女が戦っている姿など想像できなかった。


「ええ!じゃあルビーも戦えるの?」


「一応、小さい頃から訓練を受けてきたので…」


そう言って、ルビーは少し困ったように口をつぐんだ。


「そうなんだ。」


少し悲しそうなルビーの顔を見て、あまりこの話はしたくないのかなと思ったアイリスは、王都で流行りのミステリー小説について話すことにしたのだった。






「殿下!なぜ会場に戻られるのですか?姉さんを探さないんですか!」


黙って会場に向かうエドワード王子に向かって、クレーヴェルはイラついたように言った。


「会場に何かあるんですか?」


すると王子はぴたりと止まり、クレーヴェルを振り向いて言った。


「あの侍女はアイリスは炎を見たと言っていました。それはこの王宮内にいる人を勘違いしたのでしょう。しかし、今回のパーティーで赤い服を着ている者はいません。となると―」


王子は会場を指さした。


その先には、赤い髪の男女が二人、他の来場者と話している姿があった。


「あの方々は?」


「お二方はマルス家のご夫妻です。マルス家と言えば、あなたも思いつくものがありますよね?」


その言葉に、クレーヴェルはハッとして言った。


「あの「赤獅子」と呼ばれるマルス家ですか…?」


「赤獅子」

マルス家の別名だ。

血で染めたような真っ赤な髪を振り乱して戦場で戦うその姿が、まるで狩りを楽しむ獅子のように見えることから、しばしばそう呼ばれることがある。


しかしこれは彼らをあまりよく思っていない貴族たちが使う呼び名だ。

「野蛮な人食い獅子のよう」

そういった差別的な意味が含まれているからだ。


「私はあまりその呼び方は好きではありませんね…」


王子が苦笑して言った。


「僕もそう思います。彼らは国の英雄です。彼らなしではこの国は成り立ちませんから。」


クレーヴェルは力強く言うと、


「彼らを軽蔑する方たちの気が知れませんね。」


と批判した。


「…まさかあなたと気が合う日が来るとは思いませんでしたよ。」


王子は笑いながら言うと、マルス夫妻に向かって歩き始めた。


「アイリスが見た炎とは彼らの可能性があります。さあ、行きましょう。」


クレーヴェルは頷くと、王子に従った。






「こんにちは、マルス公爵、公爵夫人。本日はお越しいただき誠にありがとうございます。」


エドワード王子が二人に話しかけると、


「おお!殿下ではございませんか!お誕生日おめでとうございます。」


真っ赤な髪をした大柄な男が振り向いて言った。

普通の男性よりも頭二つ分抜き出るほど背が大きい。


「お招きいただき光栄ですわ。」


飾り気のない格式ばったドレスを着た、厳格そうな目の女性が隙のない動きでお辞儀をした。

夫人は平均的な女性の身長だが、こちらも見事な赤毛だ。


「初めまして。クレーヴェル・ロ・メルキュールでございます。お会いできてうれしい限りです。」


クレーヴェルが前に進み出て挨拶をすると、


「ジョンのとこの息子か!いやあ、初めまして。」


マルス公爵は豪快に笑った。


夫人は公爵をぴしゃりと持っていた扇子で叩くと、


「ここはお屋敷ではございませんのよ。メルキュール公爵でしょう。」


と厳しく注意した。


「わかってるよ…メルキュール公爵のところの子だろう?」


「はい。父からマルス様のお話はかねがね聞いております。国を支える素晴らしい英雄だと。」


「ははは。ジョ、じゃなくてメルキュール公爵は良いこと言ってくれるなあ。」


公爵は嬉しそうに笑った。


「それで、殿下。《《俺》》に―」


夫人がぴしゃっとマルス公爵を扇子で叩いた。


「でなくて、私に何か御用ですか?」


「ええ。実は人探しをしておりまして。アイリス嬢を見かけませんでしたか?」


エドワード王子がそう聞くと、


「いいえ。お見かけしておりませんわ。」


と夫人が答えた。


すると公爵は辺りをきょろきょろして、


「そういえば、ルビーの姿が見えないなあ。」


と言った。

それを聞いて、夫人は呆れたようにため息をついた。


「娘は気分が優れないと言って席を外しましたわ。あの子のことですから、どこか寄り道をしているのでしょう。」


「では二人ともご存じないと…?」


「ええ。申し訳ございませんが。」


エドワード王子は少し考えるように間を置き、


「そうですか。お時間をおかけしてしまい申し訳ございません。それでは失礼いたします。」


と言って二人から離れた。


「それで、結局なにが分かったのです?」


二人から十分に離れた後、クレーヴェルが聞いた。


「そうですね…ルビー様がいらっしゃらないとなると、アイリスと一緒にいる可能性が高いです。アイリスの行動を予測するのはほぼ不可能ですが、ルビー様が一緒におられるとなると…」


「そうか、ルビー様は一般の方だから僕達でも予想しやすいですね。」


「はい。普通なら会場に戻ってくるはずでしょう。」


「ではここで待っていれば、自然と姉さんにも会えるというわけですね。」


クレーヴェルはそう言うと、辺りを見回した。


 しばらくすると、前方からアイリスとルビーが楽しそうに話してながら歩いてくるのが見えた。


「あ、姉さん!」


クレーヴェルはそう言って二人に駆け寄ると、


「姉さん!いったいどこにいってたの?僕すごい探したんだよ!」


と口を尖らせた。


「ごめんなさい、ルビーと話していたの。ルビー、こちら私の弟のクレーヴェルよ。」


アイリスは申し訳なさそうに笑うと、ルビーにクレーヴェルを紹介した。


「初めまして。クレーヴェル・ロ・メルキュールでございます。」


「初めまして。ルビー・マルスと言います。」


ルビーは優雅な仕草でお辞儀をした。


「やはりここにいて正解でしたね。」


王子は歩きながらやってくると、アイリスに向かってそう言った。


「エドワード様。私がここに来るのをご存じでしたの?」


「正確にはアイリスが、と言うわけではありませんが。」


エドワード王子がそう言うと、クレーヴェルはプっと吹き出した。


「なあに?私のいない間に何かあったの?」


アイリスは首をかしげたが、


「いえ、何でもありませんよ。さあ、会場に戻りましょう。」


と王子は微笑んだだけだった。


その途端、強烈な空腹感に襲われるアイリス。


「そうだったわ!私朝から何も食べてないんだった!ああまだ料理は残っているかしら…」


アイリスが思い出したように言うと、会場へと走り出した。


「皆さん私はここで…ごきげんよう!」


(早くご飯が食べたい!)


「ちょ、姉さん。待ってよ!」


「アイリス様、お借りしたドレスは…?」


「ああ、それなら今度取りに行くわね!じゃあまたねルビー!」


そう言うと、アイリスは疾風のごとく会場へと去っていった。


「姉さん!」


クレーヴェルは慌てたように言うと、


「失礼をいたしました。ドレスは王都から帰る際に取りに行きますので…」


とぺこりとルビーに頭を下げ、アイリスを追いかけていった。






「まるで台風のような人でしょう?」


クレーヴェルの背を見つめながら、エドワード王子は面白そうに言った。


「ええ。」


ルビーは嬉しそうにほほ笑んだ。


「でも、とても素敵な方ですわ…」


日が真上から少し傾き、会場を覆う水の膜はダイヤモンドのように輝いていた。


もうすぐパーティーは、第二部へと移ろうとしていた。







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