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パーティー本番のようです 昼の部

パーティー当日、朝早くから準備をして準備万端、と思いきやまたもやトラブルに巻き込まれるアイリス。

しかしあのカフェで出会った少女とまたしても出会って…

…ゆらゆらと目の前を炎が揺れている。

「きれいね。」

声をかけると、炎は恥ずかしそうに揺らめいた。

「そんなことないよ。」

「どうして?」

「みんな危ないって言うの。近づくとケガするからって。」

「それでもあなたがきれいなことに変わりはないわ。」

「そうなの?」

「そうよ。」

「みんな、嫌いなのかと思った。強くて、何でも燃やせる力が。」

炎は悲しそうに言って姿を消した。


「お嬢様、起きてください。」

マルタに肩を揺さぶられ、アイリスは目を開けた。

「う~。あとちょっと…」

「もう起きる時間ですよ。」

シャっという音がしてカーテンが開いた。しかし外はまだ日も昇っておらず真っ暗だ。

「え~まだ夜じゃない」

「何をおっしゃるんですか。今から準備ですよ」

がばっと布団をはがされ、ひんやりした空気がアイリスを包む。

「ひい~寒っ」

アイリスは思わず体を縮こませた。

「はいお嬢様。もう起きてくださいね。」

眠い目をこすりながらのそのそと起き上がるアイリスにマルタが厳しく言った。

「パーティーは午前中から始まるんですから。さあ支度をはじめますよ!」

その言葉と同時に十人ほどの侍女たちが勢いよく部屋に入ってきた。

「え!?え、何!?」

するとアイリスはあっという間に抱え上げられ、次に気づいた時にはバラの花びらが浮かぶ湯船につかっていた。

「香油をお持ちして!」

「そのタオルじゃないわ!」

バタバタと侍女たちが行きかう中、アイリスは呆然として言った。

「マルタ…これは一体…?」

銀色の盆に様々な瓶を載せてやってきたマルタは、

「パーティーの支度ですよ?入浴後には、トリートメントとエステと着付けと髪のセットとメイクをしますからね。」

マルタがニコッと笑った。

「え、そんなに…?」

準備の多さに唖然とするアイリス。

しかしマルタがパンっと手をたたいた途端、アイリスはあっという間にヘアオイルや美容液などを持ち、楽しそうに笑う侍女たちに囲まれた。

「「さあお嬢様、支度をはじめましょう。」」

そして、侍女たちによるスペシャルメイクアップタイムが始まったのだった。


 数時間経ち空がやっと明るくなりかけた頃、アイリスはようやくマッサージを終え、髪のセットをしてもらっていた。

「こんなに支度が大変だなんて…」

頭から足先まで肌がつるつるになったアイリスは呟いた。

「パーティー前から疲れたわ…」

「あらお嬢様、そんなに疲れた顔をしていてはお顔が台無しです。さあ笑って。」

サラサラになったアイリスの髪をとかしながらマルタが言った。

「だって、私ご飯も食べてないわ。」

「何度も起こしたのに起きないからではないですか。ご飯はパーティーが始まってからですよ。」

「そんなあ~」

ぴしゃりと言われ、これ以上ないくらい落ち込むアイリス。

(ご飯がお預けだなんて…)

しかしマルタたちはそんなことを気にも留めずに、素早い手つきで髪をセットしていく。

「ドレスはどちらがいいですか?」

アンナが後ろから聞いてきた。

アイリスは鏡越しに王都の店で買ったドレスを見た。

「うーん。どれがいいかしら?」

これなんてどうですか?こちらの方がいいですよ。と侍女たちが議論しあう中、アイリスは眠たそうにあくびをした。

(あ~もう何でもいいよ。全部青で同じじゃん。)

眠気と空腹で投げやりになるアイリス。

「みんなに任せるわ…」

アイリスはそう言って目を閉じた。

この時、まさかその言葉を後で後悔するとは思わなかった。



「—皆様、本日は私共のパーティーにお集まりいただきありがとうございます。」

庭園では多くのゲストが集う中、エドワード王子が挨拶の言葉を述べていた。

「では心ゆくまでお楽しみいただけますよう―」

王子がそう言うと、ポンっという音があちこちで鳴り、ゲストの頭上には大小さまざまな水の玉がいくつも浮かんだ。ワアアと会場に感嘆の声が広がる。

それぞれの水玉には、色とりどりの魚が泳ぐものから、かわいらしい花々の浮かぶものまであった。

一瞬にして会場が海の中へと変身する。

「こんなに魅力的なパーティーは初めてですわ!」

「すばらしい!」

多くのゲストがその幻想的な景色に魅了されている。

その様子を見て、エドワード王子は満足げな顔をして挨拶を終えた。

一方で、レオン王子はぶすっとした顔をしている。

「レオン、誕生日なのですからそんな顔をしては示しがつきませんよ」

笑顔を崩さずにエドワード王子が小声で言った。

「なんであの女が作ったパーティーに出なきゃいけないんだ。」

王子が不満を漏らす。

「あの女、ではありません。アイリスですよ。」

エドワード王子が笑顔で諭した。

「じゃああいつは今どこにいるんですか。」

レオン王子は負けずに言い返した。

パーティーが始まってから、アイリスは姿を見せていない。

「そうですね…少し探してきましょうか。」

王子はそう言うと、自然な足取りでその場を離れた。


同じ時、アイリスは庭園への道を急いでいた。

「みんなに任せる」とアイリスが言ったことで、侍女たちの間でどのドレスにするかという激しい争いが起きてしまったのだ。

争いはどんどん激しくなり、見兼ねたマルタがアイリスに決定してもらおうとしたが、前日の疲れと今朝の早起きを引きずっていたアイリスを起こすのはほぼ不可能だった。

結局、アイリスが起きたのはパーティーが始まる五分前だった。

それから急いで支度をし、適当に選んだコバルトブルーのドレスを着てアイリスは会場へと向かった。

「アイリス様!そんなに走ってはいけません!」

後ろで同じように急ぎながらマルタが厳しく言った。

「他の方に見られたらメルキュール家の品位が疑われます!」

「だって仕方ないじゃないー!」

ドレスの裾を持ち上げて走りながらアイリスは言った。

「なんでドレス一つであんなに議論できるのかわからないわ…」

「私はそれよりもあんなに起こしているのに一切起きないお嬢様の方が分かりません!」

いらいらしながら言うマルタの言葉を耳に入れないようにしながらアイリスが速足で通っていると、ふと視界に赤い色が映った。

「あら?」

その色が夢の中に出てきたあの炎に似ていたため、アイリスは思わず足を止めた。

「お嬢様!急に止まらないでくださいまし!」

ぶつかりそうになったマルタが文句を言う。しかしアイリスはそれを気にも留めずに、来た道を戻った。

「お嬢様?」

「マルタ、ちょっと先に行ってクレーヴェルに遅れると伝えてちょうだい。」

「え、で、ですが、」

「いいからいいから。じゃあ後でね!」

アイリスは手をひらひらと振ると、茂みの方へと入っていった。




「姉さん、遅いなあ。」

クレーヴェルはため息をつき、辺りを見回した。

 水の魔法を使った演出が終わった後、彼はアイリスと待ち合わせしていた場所に行ったのだが、待てど暮らせどアイリスがやってくる気配がない。

「何かあったのかな…もしかして、あの王子に誘拐されたんじゃ!」

クレーヴェルが心配そうに言った時、後ろから声が聞こえた。

「誰が誰を誘拐するんです?」

振り返ると、木の陰からエドワード王子が現れた。

クレーヴェルは瞬時に笑顔になり、

「本日はお誕生日おめでとうございます。」

と頭を下げ、そしてすぐに顔を上げた。

「主役がこんなところにいてよいのですか?あちらにお戻りになられては?」

クレーヴェルが示す方には、方々から祝辞を言われて対応に困っているレオン王子の姿があった。

「あそこは彼一人で十分でしょう。それよりも、アイリスを見かけませんでしたか?」

「殿下もご存じないのですか?」

クレーヴェルは意外そうに言った。

「あなたも知らないとなると、これはますます心配ですね…」

「そうですね。」

二人は辺りを見回しながら言った。

「では()()()()僕が探してまいりますので、殿下はパーティーにお戻りください。」

クレーヴェルはそうにこやかに会場を指した。

「いえ。彼女は()()()ですから、私も一緒に探しましょう。」

王子もにこやかに応じると、王宮に向かって歩き出した。

「あ、ちょっと…!」

その後ろを、クレーヴェルが慌てて追いかけていった。



そのころ、

(あの魔法の炎さんだったりして)

アイリスはワクワクしながら奥へと進んでいた。

しばらくすると何やら数人の人の声が聞こえてきた。

(なにかしら?)

生垣に隠れるようにして、アイリスは耳を澄ませた。

「おい、野蛮人。お前なんでここにいるんだよ。」

話しているのはアイリスより少し年上の少年少女のようだ。

「そうですわ。あなたのような汚らわしい赤毛はこのようなところにふさわしくないわ。」

「帰りなさいよ!」

あまり良い空気ではないようだ。

「おい、こいつ泣いてるぜ。」

「あなた強いんでしょう?今すぐその力見せてみなさいよ。」

クスクスクスと馬鹿にしたような声が聞こえてくる。

(これは止めなくちゃ!)

しかし相手はアイリスよりも年上で、しかも五、六人はいる。

アイリス一人出ていったところで勝てるだろうか。

「こうなったら…」

アイリスは両手に力を籠め、彼らの頭上に向かって手を掲げた。

(いでよ!大雨!)

そう念じて手に思いっきり力を込めた。

すると大量の水が少年らの上に降りかかった。

「うわー!」

「キャアー!!」

少年らは叫びながら逃げていった。

(おお!こんなに大きいのは初めてだわ。)

自分の手を見つめてアイリスは満足そうに呟くと、生垣の陰から出た。

するとそこには、炎のような赤い髪をした少女がしゃがんで泣いていた。

「炎さん?」

思わず声をかけると、少女はぱっと顔を上げた。

その顔を見て、アイリスは思わずあっと声を出した。

「あのカフェの時の…」

すると少女は目を大きく見開き、

「あ…」

と呟いた。

「私のこと、覚えてる?カフェでは話しかけられなかったけど、私、あなたとずっとお話をしてみたかったの!」

奇跡のような出会いにアイリスは興奮したような口調で話しかけた。

「あなたのファッションセンスはとても素晴らしいと思っていたのよ!布屋の店長もそう言っていたし!ああこのようなところで会えてとてもうれしいわ!」

そう言って顔を近づけるアイリスに、

「あ、あの…」

と少女は困惑したように声を出した。

(は!私ったら初対面の子になれなれしく話しかけちゃった!)

アイリスは慌てて姿勢を正すと、

「失礼いたしました。アイリス・ロ・メルキュールでございます。」

と言ってお辞儀をした。

「い、いえっ、助けていただきありがとうございます。ルビー・マルスと申します。」

その名前を聞いてハッとするアイリス。

マルス家と言えばオリジナルのうちの一つ、火炎の魔力を持つ公爵家だ。

 この家系に生まれた者は皆戦いの才能を持ち、そして燃えるような赤い髪をしている。ルビーと名乗るこの少女の炎のような赤髪が、彼女がマルス家の生まれだということを物語っていた。

「あの、大丈夫ですか?」

アイリスがルビーを見ると、彼女は髪を隠すようにして顔を背けた。

「こ、このような醜態をお見せしてしまい、申し訳ございません…」

そう謝るルビーの言葉に、アイリスはきょとんとした。

「なぜ謝るのです?」

アイリスが目線を下げると、ルビーのドレスが土で汚れているのに気が付いた。

(ああ、ドレスが汚れてるからね!)

「気にしないで!私のドレスを貸してあげるから!」

「え?」

「ドレスが汚れることなんて私はしょっちゅうよ!今から着替えれば間に合うわ!さあ、行きましょう!」

アイリスはルビーの手を取ると、半ば強引に王宮への道を戻った。



 部屋に着くと、アイリスは早速いくつかのドレスをルビーに差し出した。

「ごめんなさい、パーティー用のドレスはこれ位しかなくて。ルビー様のお好きなものを選んでくださいね。」

「で、でも申し訳…」

「いいのいいの。遠慮しないで。」

戸惑うルビーの背を押しながらアイリスは言った。

(侍女たちがあんなにドレスのことで言いあっていた理由がわかるなー。娘の服を選ぶお母さんの気分だわ。)

「じゃあ着替えたら教えてくださいね。私は部屋の外で待っているので。」

(少し強引な気もするけど、まあいっか。それよりどのドレスを着るのかな)

しばらく外で待っていると、ルビーが部屋のドアから顔を出した。

「できました…」

「どう?どんな感じ?」

うずうずしながら待っていたアイリスはその言葉と同時に部屋に入ると、着替えたルビーの姿を見て驚いた。

アイリスが貸したドレスは全て青色だったにも関わらず、ルビーは見事にその赤毛に合ったものを選んでいた。

 少し短めのターコイズブルーのドレスに、赤みがかった茶色のブーツを合わせ、赤い髪を同じく赤茶色の髪留めでまとめ上げている。

アイリスはその美しさに思わず見とれてしまった。

「…やはり変ですよね」

「ううん違うの!なぜそんなにセンスがいいのかと思ってしまって。ルビー様はファッションの才能がおありなのですね。」

アイリスは目を輝かせながら言った。

「こんなに素敵なファッションセンスをお持ちなのに、それを皆様に見せないのはもったいないわ!さあ、会場に戻りましょう!」

そう言ってアイリスはルビーの手を取り扉へと向かった。

「だめです!」

しかしルビーはその手を振りほどくと、アイリスから数歩下がった。

「…ルビー様?」

「私のような見た目のようなものが近くにいてはアイリス様にもご迷惑が掛かります。私の髪は卑賎の者の色ですから…」

ルビーは悲しそうな顔をしながら言った。

 マルス家は国の安全を守る公爵家のうちの一つであるが、その特徴的な赤い髪と戦いに優れた点を野蛮だと言って非難する貴族も少なくない。先ほどルビーをいじめていた子供たちもそう言った考えを持つ貴族だったのだろう。

ルビーは、自分の見た目のせいでアイリスが周りから白い目で見られることを心配しているのだ。

「そんなことないわ!私あなたの髪色は美しいと思っているもの!」

アイリスはルビーに近づいてその手を取った。

「とても情熱的で素敵だわ!」

「ほ、本当ですか…?」

ルビーは恐る恐る言った。

「本当に私の髪色を野蛮だと思わないのですか?」

「当たり前じゃない!」

アイリスはそう言うとにかっと笑った。

「あなただって本当はその髪色好きなのでしょう?だからあんな素敵なコーデができるのよ。ねえ、よかったら私にファッションについて、教えてくださらない?」

その言葉に、ルビーは目を見張り、そしてうれしそうに頷いた。

「はいっ。喜んで」


挿絵(By みてみん)


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