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仲直りのようです

王子の誕生日パーティーの会場デザインを頼まれ、王都へ向かうアイリス。

しかし何やら気がかりなことがあるようで…

自室に帰ってからも、アイリスはパーティーのデザインについてのコンセプトを描き続けた。


スケッチブックに自分が思い描くデザインを夢中になって描いていると、気付けば空が白み始めていた。


(え、もう朝!?)


見渡すと、机の上はひどい状態になっている。

急いで絵を荷物に入れようとするが、周りがあまりにも散らかっていて当分時間がかかりそうだ。


「うわー。これ全部持っていけるかな…」


あまりの散らかしっぷりに自分でも驚く。


(こんなに集中力が続くなんて初めてだわ…)


これは元アイリスの性格が引き継がれたのだろうか。


(悪役令嬢になるぐらいの執着力も役立つものね…まあ、ゲームではその力もほぼ王子にしか使ってないんだろうけど。)


そんなことを考えていると、アイリスのお腹がぐううとなった。

思えば、結局夕飯も食べずにずっと絵を描き続けていた。


「ちょっと早いけど、ご飯食べに行こうかな。」


昨日の服のままで歩いているのを、マルタが見たら怒ると思い、とりあえず服を着替える。


「まだこのフリフリの服を着るしかないのかなあ。」


相変わらずアイリスの服にはフリルやリボンがたくさんついている。


(このデザインはとっくに流行遅れよ!)


 昨日アンナが教えてくれたことによると、王都の女の子たちの間では青や白と言ったクールな色が人気らしい。


(私もそっち系の色がいいなあ。)


前世から、ピンクなどのかわいらしい色よりも青系統の色の方が好きだった。


(まあ、元アイリスは違うみたいだけど。)


 この前衣裳部屋を見せてもらって驚いたのが、部屋の広さはもちろんのこと、かかっているドレスが、どれもピンクや真っ赤なものばかりだったことだ。


 今では、その中から数少ない青系統の服を選んで着るようにしている。

それ以外の服は売りに出すか、分家の小さい子たちにあげようと思っているが、マルタは許してくれるだろうか。


 馬車に乗っても疲れないようにと用意された服に袖を通しながら、アイリスは王都に寄ったら新しい服を買おうと思った。




 朝食を食べ終えると、アイリスはエントランスへと向かった。


外では、コナーたちがアイリスの荷物を馬車に積み込んでいた。


「コナー、お疲れさま。」


「お嬢様。おはようございます。」


アイリスが声をかけると、コナーは荷物を運ぶ手を止めて挨拶した。


「荷物ありがとう。重かったでしょう?」


「これくらいどうってことありませんよ。それよりも、一か月分の服にしては多くないですか?」


コナーの質問に、アイリスはきょとんとした顔を向けた。


「コナー何言ってるの?今のは全部絵を描くための道具よ。」


「ええ!?こんなにあるんですか!?」


コナーは馬車の荷台を振り返って言った。


引っ越しでもするのかと思うほどの荷物が括り付けられている。

それでも、荷台に入りきらなかった分は別の馬車に乗せてある。


「もちろんよ!これがなかったら仕事ができないもの。」


当たり前のように言うアイリスに、コナーはやれやれと頭をかいた。


「これはまいったなあ。馬がかわいそうだ。」


「ふふふ。たくさんニンジンをやらなくちゃね。」


くすくす笑いながらアイリスは言った。


 しばらくコナーと話していると、アンナが荷物を持って屋敷から出てきた。


「お嬢様、ここにおられましたか。」


「荷物ありがとうアンナ。部屋にあったのもまとめてくれて。」


「とんでもございません。」


「…それはそうと、マルタは大丈夫だった?」


 昨日川遊びをするために、王子とのお茶会があるから仕立て屋を呼んでほしいとマルタに嘘をつき、そのあと「勘違いだったわ」と言うつもりでいたのだが、いきなりの王子の訪問にそのことをすっかり忘れてしまっていたのだ。


 マルタは仕立て屋を夜遅くまで一生懸命探してくれていたらしく、それに気づいたアンナが急いで教えたときの落ち込みっぷりはすごかったという。


(本当にひどいことをしたわ…謝らなくちゃ。)


「はい。まあ今も少し落ち込んでいますが、恐らく大丈夫でしょう。」


「でも謝りたいわ…今マルタはどこにいるの?」


「先ほど坊ちゃまに呼ばれていたので、まだ屋敷かと。」


「そう…」


マルタは屋敷に残るつもりなのだろうか。

それでは謝る時間がない。


「あ、お嬢様。来ましたよ。」


コナーが指さす先には、荷物を抱えてこちらに向かって歩いてくるマルタがいた。


「マルタ!」


アイリスは彼女に駆け寄った。

遅くまで仕立て屋を探していたせいで、やはり少し疲れているように見える。


「マルタ、昨日は本当にごめんなさい。嘘を…じゃなくて、勘違いしていたみたいで。」


「いえ、良いんですよ…」


マルタは疲れた顔で微笑んだ。


「でも…こんなに疲れた顔をして…」


「私は平気です。それよりもお嬢様、お時間に遅れてしまいますよ。」


マルタはそう言うと、素早くアイリスを馬車に乗らせた。


 馬車の中できちんと謝ろうと思っていたアイリスだったが、マルタは後方の馬車に乗ってしまったようだ。


「やっぱり怒っているのかしら…」


向かいに座ったアンナに、アイリスは不安そうに聞いた。


「そんなことないと思いますよ。ただ寝たいだけかもしれませんし。」


シュンとするアイリスを励ますアンナ。


何か他のことに気を向けさせようと、アンナは辺りを見回し、


「あ、ほら!旦那様が手を振られていますよ!」


と言って指さした。


窓の外を見ると、メルキュール公爵と執事たちが出発する馬車に向かって何か叫んでいる。


「--!--!」


「あら、旦那様ったら。お嬢様とお別れするのがそんなに寂しいのですね。お仕事が王都にあるから、会おうと思えば会えますのに。」


フフッと笑うアンナ。アイリスも笑って窓から手を振った。


「お父様、行ってまいりまーす!」


公爵たちは走って追いかけてきたが、馬車の方が圧倒的に速く、あっという間に姿が見えなくなった。






 そこからのことはあまり覚えていない。

昨晩徹夜して絵を描いたせいか急に眠気に襲われ、王都に着くまでずっと寝てしまっていたのだ。



「―お嬢様、起きてください。着きましたよ。」


アンナに起こされ窓の外を見ると、アイリスたちはにぎやかな街の中を走っていた。


「まだ王宮ではないじゃない。」


目をこすりながら言うアイリスに、


「何をおっしゃるんですかお嬢様!今からデザインのお勉強をするんですよ!」


アンナはずいっと顔を近づけて言った。


「べ、勉強?」


「そうです!王宮のパーティーのデザインをなさるのですから、今の流行を取り入れないと!そのためには、実際に見て回るのが一番ですよ!」


目を輝かせながらアンナは言った。


(だから今日の服はドレスじゃないのね…)


一見すれば、アイリスは町娘とまではいかなくとも、少しお金持ちの商家の娘のように見える。


(これならあまり目立たないものね。)


「買い物っていっても、私はあまり詳しくないわよ。」


不安げなアイリスに、


「任せてください!このアンナが案内するのですから!」


アンナはドンと胸を張って言った。






 アンナの言うとおり、彼女が選ぶものには間違いがなかった。


アンナが勧めるドレスや靴は、どれも堅苦しくないのに上品さがあり、かつどのデザインも美しいものばかりだった。

アイリスは思ったよりも多くの買い物をしてしまった。


 また、息抜きに寄ったカフェでは、王都内の女の子たちに人気のスウィーツや、流行りの恋愛小説についてなど詳しく教えてもらえた。


アンナ曰く、


「カフェは一番情報を集めるのに有効なんです。」


だそうだ。


 確かに、今アイリスたちがいるカフェはとてもかわいらしい内装をしていたし、出てくるスウィーツは見た目がかわいいのはもちろん、全ておいしかった。

それに、来店する女性たちが身に着けている服はどれもオシャレなものばかりだ。


「すごい女子力…」


どの時代でも、女の子はおしゃれが好きなんだなあと人ごとのように思いながら、アイリスは来店客を眺めていた。


 すると、客の中に、特にかわいらしい服を着た赤毛の女の子が一人、テーブルに座っていた。


真っ白なワンピースに、エメラルドグリーンの小物でそろえた様子は、燃えるような赤毛を美しく際立たせていた。


「アンナ、見て。あの服とてもかわいいわ。」


アンナにこっそり囁くと、


「まあ。本当ですね。着飾っていないのに、エレガントで素敵です。」


アンナも同調した。


「あの服はどこで売ってるのかしら…」


「さあ…私の知っている服屋にはああいったデザインの服はなかったように思いますが…」


「新しいお店なのかしら。」


「そうかもしれませんね。」


そんなことを話していると、少女と目が合った。

すると少女は慌てた様子で立ち上がると、速足で店から出て行ってしまった。


「あ…どこのお店か聞こうと思ったのに。」


「王都にいる間に、また出会えるかもしれませんね。」


残念そうに肩を落とすアイリスに、アンナは優しく言った。


「それもそうね。じゃあ、そろそろ行きましょうか。約束の時間ももうすぐだし。待たせてるマルタにも悪いわ。」


「そうですね。」


そう言って、二人はカフェを後にし、馬車を止めている場所へと向かった。



 その道中も、街には数々の店が立ち並んでおり、アイリスはゆっくり見る時間が足りないのを惜しく思った。


(前に来た時も観光していけばよかったな。)


数多くの魅力的な店に興味津々で歩いていたアイリスは、ふと、とあるお店の前で立ち止まった。


「お嬢様?どうされたのですか?」


 アイリスが立ち止まったのは、とあるアクセサリーショップのウィンドウ前だった。

視線の先には、透き通ったクリスタルの耳飾りが飾られていた。


「まあ、素敵なピアスですね。」


耳飾り自体は透明だったが、クリスタルが日の光を反射し、様々な色に輝いていた。


「アンナ。私、これ買うわ。」


「わかりました。時間がないので急いで入りましょう。」


アイリスたちが店に入ると、ショーケースの前にいた上品な女性が顔を上げた。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」


「はい。あの、お店の前に飾られている耳飾りを一つください。」


アイリスが言うと、女性は飾ってあったものと同じ耳飾りを奥から持ってきた。


「こちらでございますね。」


「はい。あ、プレゼント用でお願いします。」


「かしこまりました。」


女性がラッピングを始めると、アンナはそっとアイリスに耳打ちした。


「お嬢様、誰に送られるのですか?」


「…内緒よ。」


アイリスはにっこりと微笑むと、自ら商品を受け取った。






「マルタ!」


馬車に戻るな否や、アイリスは外で待っていたマルタに走り寄った。


「お嬢様。お買い物はいかがでしたか?」


馬車の中ではきちんと寝れたのだろうか。

なんだか朝より疲れているように見える。


「楽しかったわ!それでね…これ、あなたにお詫びをと思って…」


アイリスは先程受け取った紙袋を差し出した。


「お詫び…でございますか?」


マルタは中を開いて耳飾りを見ると、驚きのあまり言葉を失った。


「お嬢様…こちらは一体…?」


やっとのことで、マルタは言葉を発した。


「マルタの好みがわからなかったから、マルタに似合いそうなものを選んだの。…気に入らなかった?」


「そんなことございません!ただ、嬉しくて…」


マルタは感動で顔を赤らめながらそう言った。


「あの、昨日は本当にごめんなさい。あなたに迷惑をかけてしまったわ。」


「そんな事いいのですよ。私も申し訳ございません。お嬢様を不安な気持ちにしてしまいました。」


マルタはそう言うと、嬉しそうに耳飾りを光に照らした。


雫型のクリスタルは、日の光を浴びてキラキラと七色の光を映し出した。


「お嬢様にいただいたこのピアス、一生大切にいたします。」


マルタは大事そうにピアスを胸に抱いた。


「そう言ってもらえてうれしいわ。」


アイリスも嬉しそうに笑った。


「もしお邪魔でなければ、王宮まであなたと話をしたいのだけれど…いいかしら?」


アイリスがそう言うと、マルタは


「喜んで。」


と言ってほほ笑んだ。


「ではお嬢様の馬車に…」


「ううん。私がそっちへ行くわ。」


そう言って、アイリスはマルタの乗っていた馬車の扉を開いた。


「あ、お嬢様そちらは…」


マルタが焦った声を出したが、アイリスは馬車の中を目にして固まった。


「…どうして…?」


アイリスの後ろで、こっそり見守っていたアンナがあちゃーと言わんばかりに頭を抱えた。






「アイリス、お待ちしていました。」


王宮に着くと、エドワード王子が出迎えてくれた。


「ごきげんよう、エドワード様。」


「王都で買い物を楽しまれたそうですね。」


馬車の中に置かれた買い物を見て王子は微笑んだ。


「ええ。楽しかったですわ。」


アイリスは不自然なほどにこにこしながら答えた。


「それで…なにやら他の物も買われたようで。」


王子がそう言うと、馬車の中から、


「本日はお招きいただきありがとうございます。」


ひょこっと、クレーヴェルが顔を出した。


その瞬間、アイリスの顔が引きつる。


「おかしいですね…あなたは招いておりませんが。」


王子は笑顔を崩さずに言った。


「僕は《《姉さんの家族》》ですから。」


クレーヴェルも負けじと応答する。


「アイリス、これはどういうことでしょうか。」


「…それが、一緒に馬車に乗ってきてしまったようで…」


王子から目をそらして言うアイリス。


 どうやらクレーヴェルはアイリスが王宮へ行くと聞き、こっそり馬車に乗り込んでいたようだ。


(今朝お父様が焦って追いかけてきた理由が分かったわ…)


 朝の様子を思い出し、なぜあそこで気が付かなかったのだろうと後悔する。

あの時ははっきり聞こえなかったが、今思うと、あれはクレーヴェルを呼んでいたに違いない。


王子は「はあ」とため息をつくと、


「仕方ありませんね…部屋を用意させましょう。」


と言った。


「も、申し訳ございません…」


アイリスは冷や汗を流して頭を下げた。

その横では、クレーヴェルが満足げな顔をして立っている。


(問題は、何でマルタが黙ってたのかってことよ!)


横目でマルタに咎めるような視線を送るも、マルタは気付かないふりをしている。


「アイリスが謝るようなことではありませんよ。」


頭を下げ続けるアイリスに、エドワード王子は優しく言った。


「さあ、行きましょう。」


そう言ってアイリスの手を取ると、


「それでも、後でお礼はしてもらいますからね」


そう囁き、にっこり笑いながらクレーヴェルを盗み見た。


「ちょ、え!?どういう意味ですかそれは!」


「ふふ、あなたにはまだ早いですよ。」


慌てて後を追うクレーヴェルに、王子はさらりと答えた。


「姉さん!やはり今から屋敷に戻りましょう!」


「おや、それなら今すぐ一人分の馬車を用意させましょう。」


隣りで言いあう二人に、


(なんだか、私より仲が良くなってるわ…)


と、アイリスは買い物でぼうっとする頭で思った。


その様子を微笑みながら見守るマルタの耳元で、きらりと夕焼け色の光が光った。



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