陰明寺家
ガイア大地南西部(裏鬼門)に位置する「預言の塔」。古代の先人達が気の遠くなるような年月をかけて造り上げたピラミッド型の石造物。
塔の最頂部には二十畳ほどの空間があり、神々を祀るための祭壇が設けられ、代々、陰明寺家が「星参り」を執り行う儀式の場となっていた。
今、まさに現在の陰明寺家当主、第二十代・陰明寺祈秀が星参りの儀式の最中であった。
星参りとは、星の位置や輝度、色合い等から、この国の行く末を占う太古の昔から陰明寺家に受け継がれてきた儀式のことだ。
背丈ほどの錫杖の先端に、三日月型の白銀と黒鉄を背中合わせに取り付けた錫杖槍を両手で持ち、綺麗な円を描くようにゆっくりと体を廻転させる。手にした錫杖槍も動きに合わせるように体の前や頭上で回転させる。その動きは、まるで氷上を滑るかのように無駄がなく美しい。
幾何学的な模様を描くように、錫杖槍で夜空の星々を一点一点なぞると、藍色の空のキャンパスは、この世の事象の答えを導き出すための巨大な壁画へと変わっていく。
祈秀は、止めどなく流れるように廻転を徐々に早め、空の星々と一体感を増していく。
そんな祈秀の姿を一心不乱に見つめる者がいた。祈秀の息子、秀因である。眉目秀麗、臥竜鳳雛な天才肌、陰明寺秀因には、天も二物を与えたと誰もが口にするほどだった。
秀因の目の前でゆっくりと動きをゆるめていく祈秀。その両肩は大きく上下し、土砂降りの雨に打たれたかのように全身は汗でまみれていた。
シャラン・・
儀式の終わりを告げるため、錫杖槍を床石に打ちつけ、呼吸を落ち着かせるために両の瞼を閉じた。
『父上・・』
フッと短く息を吐き出し、ゆっくりと瞼を持ち上げたその先に秀因の姿があった。しかし、自分を呼んだはずの息子の視線は遥か後方にあり、その顔には恐れにも似た驚愕の表情が浮かんでいる。
『どうした・・』
秀因の表情を訝る祈秀だったが、恐れるように見開かれた秀因の瞳に映り込むものを見つけたとき、止まっていた歯車が動き始めたような・・終焉に向かって加速し始めたような、絶望にも似た感覚が体中の細胞を粟立たせるように感じた。
『やはりこの時は訪れるか・・』
振り絞るように出したはずの祈秀の言葉は、声となって外界に表れることはなかった。