7:人と獣と魔が争う世界
「雨巫女様はどこだ」
苛立ちもあらわにウロウロと歩き回る人影がいた。
彼は、人族の召喚責任者である。
三ツ星の太陽が輝く瞬間に儀式は成功したが、巫女の姿はない。
虚しく召喚方陣が光るだけだった。
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この星の文明レベルは地球と変わらない。
ただ、動力源が電力ではなく、マナを使用していることが地球と異なる。
しかし急激な文化の進歩は多くの魔道具を生み、便利さの代わりに自然破壊を招き、
マナは枯渇するばかりで回復の兆候はなかった。
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少なくなってゆく自然。
いなくなっている精霊。
枯渇するマナ。
魔道具でマナを消費するので、使用を控える。
昔ながらの方法で木を切り薪を使い、更に自然を破壊する。
最悪の悪循環に落ち入っていた。
そして最後の希望として、雨巫女の召喚が行われたのだ。
その希望の巫女が現れない。
獣人や魔人側に召喚されたという情報もない。
マナの枯渇により争いが収束し、表面上まだ均衡を保っているが、
他の種族が雨巫女の力を手に入れれば、三種族のパワーバランスが壊れてしまう。
北部は分厚い氷で覆われている。
東部の人族、西部の魔人族、南部の獣人族、そして中央の砂漠地帯。
砂漠地帯は徐々に広がってきて、三種族を脅かしている。
マナがなければ人々は文化的な車や通信、魔法を手放さなければいけなくなる。
絶対に巫女を確保しなければならないと彼は拳を握りしめた。
「なんとしても探し出すんだ」
時を同じくして、獣人族や魔人族でも巫女姫捜索が始まっていた。
それぞれが、唯一の雨巫女を手に入れようとして。
それから少しして、砂漠の中心にオアシスができたことが、三種族を行き来する商人達の間で噂になる。
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「今日も暑いなぁ」
人族領から仕入れた乾物を荷車に乗せ、商人はのんびりと大陸西部の魔人族領へ向かっていた。
砂漠を行くものはマナの枯渇を避け、動物に荷車を引かせ移動するのが常である。
その日たまたまオアシスを発見した、人族の商人の男アールドも馬で荷車を引いていた。
それは雨巫女が砂漠に雨を降らせ、オアシスを造った三日後のことだった。




