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2:ここはどこだろう

 気がついた時、目の前は茶色だった。


 地面が目の前にあって、乾燥した土だった。


 日向で温められているので、熱さを感じたが動けなかった。

 風も強く、鼻の中に砂が入ってきてもやはり動けなかった。

 どうしようもなくて、クシュンとくしゃみが出た。


 少し時間が経ち徐々に身体が動くようになったので、ゆっくりと動かしてみた。


 右手。左手。右足。左足。


 どうやら動くようだ。着ていたチノパンとフリースパーカーがズタズタになって、血みどろになっているけど、今は考えないことした。


 そっとポケットを確認したら、おばあちゃんに貰ったチューリップの球根も砕けズタズタになっていて悲しくなった。


 身体の動きにも何か違和感を感じたが、とりあえず起き上がってみることにした。


 周りを見た。

 何もなかった。

 辺り一面、砂っぽい土が見渡す限り広がっていた。

 訳がわからなかったので、とりあえずもう一度寝転んだ。


 ーーーーー


 なんだろうこれ。

 夢かなこれ。

 どこだろうココ。

 どうなってんだろう今。


 道の駅はどこ? 私の自転車はどこ? なんで川土手から砂だらけの場所に居るの?


 仰向けの視界には、雲ひとつない真っ青な空と、三つの太陽が輝いていた。


 よし。冷静になってみよう。

 まず私は何故か意識を失った。

 途中で誰かの声を聞いた。

 気がついた場所は砂漠のような暑い場所だった。

 違和感はあるが身体は動く。

 見上げる空は青い。大気汚染はないようだ。

 太陽は三つある。太陽が三つある? あれ? 普通は太陽は一つだよね? あれ? おや? ん?


 夢なのかな? それとも事故か何かで死にそうで、今から三途の河を渡るのかな? よくわからないな。


 そうだ! こんな時はあれだ。まずは他力本願だ。

 私は潔く、理解することを諦めた。


「誰かいませんかーーー! 助けて下さいーーー!」


 何度か叫んでみたけど、反応はなかった。大口を開けたせいで、砂が口に入ってむせてしまい、半泣きになってしまった。


 薄々わかってたけど、誰もいなかった。本当に砂しかなかった。

 本気で泣きそうになった時、小さな声が聞こえた。


『アマミコおきたー?』


 ああ天使の声が聞こえる。


「誰かいた!どこ?ココどこ?どこに居るの? 助けて! 」


『アマミコおちついてー』

『ココはココだよー』

『タスケテほしいからタスケタよー』

『シロとキイロとクロがヒパタよー』

『アマミコびろーんてシニソウだたからギュギューてしたヨー』

『タスケテするからツレテクよー』


 声は小さいのに、色々と自己主張の強い言葉が返ってきた。


 会話ができたことで少し落ち着いてきた私は、あちらこちらから聞こえる声を繋ぎ合わせて、何となくだけど状況がわかってきた。


 まず、ココは地球ではない。多分。

 どこかの誰かが私を召喚?したらしい。多分。

 声の主達は私に助けて欲しいみたい。そのために雨を降らせて欲しい。多分?



 雨を降らす。


 そんな力は私にはないのにと思いながら、冗談のつもりで、右の手のひらを顔の前でクルリと回転させてみた。

 そんなこと有り得ないと思いつつ。


「雨よ降れ」


 すると辺りを湿気が漂い始め、灰色の雨雲が目の前に現れてびっくりした。雲の下にはサラサラと雨が降っている。

 冗談のつもりだったが、実際に雨が降り、私は動揺した。


 ーーー


 本当に降った。

 でも雲って地上30cm位に無いよね。雨雲呼び出しちゃう時点で普通じゃないからいいのかな。しかもこの雲ちっちゃい。2m×2m位なんだけど。


 なんか雨雲の下に水が溜まってるからいいのかな。ここ平地だけど何で水が溜まってるんだろう。雨雲、呼べるから何でもありなのかな。

 何でもありなら、大きな樹が生えれば日陰ができて涼しいのにな。なんて考えていた。


 どうせなら、日陰になる樹も生えるといいのにな。そんな考えで、足元の湿った砂をすくい取ってパッと投げたらモコモコと地面が盛り上がり、みるみる大きな樹に育っていった。


『アマミコありがとー』

『ハエルトふえるよー』


 なにかが、なぜか喜んでいるような気配がした。

 過去にも感じたことがあるような、どこか懐かしい雰囲気だった。



 二階建て程に育った樹は生長を止めていた。

 低い位置で降り注いだ雨が溜まり、小さな池もできていた。

 雨が止む頃、一本の樹が池のほとりに立っていた。



 とりあえず池の周辺は日陰になったので、ほんの少し涼しくなったような気がした。


「わー。池の中から雲を突き抜ける大木が生えたよ! 雲は低いけど」

『雨巫女よ、感謝します』


「わー。突然会話レベルがあがったね」

『雨巫女よ、感謝します』


「わー。発声レベルが上がっただけで、会話レベルは低かった」

『申し訳ございません雨巫女様。私共はこの星の精霊です。

 この星は、人間族、獣人族、魔人族の三つの人種が大量にマナを消費しております』


「わー? 会話レベルが限界突破したよ」


『……』

「……」


『急激な文化の進歩により大量の魔道具の使用で、

 木々が枯れ、花は萎れ、大地は乾き、恵みの雨もない状態でございます』

「わー。会話が成り立つレベルじゃないよ」


『精霊は豊かな自然からマナを受け取りマナを生み出します。

 この星はマナが減り、精霊が消えつつあります。

 精霊の声が聞こえる雨巫女様は、雨を呼び自然を司る力がございます』

「……わー。会話が素通りしてるよ」


『この度も、【三ツ星の太陽が天空に輝く時、雨司る巫女来たる】との言い伝えにて、三つの種族が雨巫女様を召喚の儀を行い、お越しいただきました。

 ですが、同時に三ヶ所から召喚されたため、お身体に大変なご負担がかかり、命尽きようとしていました』

「こわー」


『この場所も三種族の中間の砂漠で、周りには何もございません。

 故に、精霊の力も弱くなっておりました』

「わー?」


『なんとか私共にてお守りいたしましたが、万全とは言い難く、

 お身体のお色と寸法まではお守りすることができませんでした。

 ですので、御髪と瞳のお色が薄く、ご年齢がお若くなっております。申し訳ございません』

「わー?」


『ですが、マナ少なき地球でも、幼き頃から精霊の声を感じていた雨巫女様であれば、この乾いた大地をも潤すことができましょう。

 精霊は木々や花からマナを受け取り、より深く豊かな大地を取り戻すことが可能でございましょう。

 どうぞ私共にお慈悲を』

「わー? いきなり流暢すぎて意味がわかりません」


 なんか沢山説明されたけど、あまり理解はできてない。

 うん。私、環境学とかわからないし。子供だし。


 要は、文明栄えて自然破壊。

 砂漠化困った雨頂戴。ってことかな?


 で、この星は三種族で成り立っていて。

 三種族で同時召喚して、私スプラッタ傷だらけ。


 ひび割れた団子をくっつける感じでギュギュッと縮んで若返り。脱色状態ってことかしら?


 三種族はきっと、虹色の雷の点滅の中で見た、白マント、黄マント、黒マントの三集団なんだろうな。多分。


 一通り説明されて、何となくわかった。さっき雨雲を呼んで、雨が降り池ができ、一本の樹が生えたことで、この精霊達もしっかりと話すことができるようになったのだろう。


 突然消えてしまっておばあちゃんは心配していると思うけど、小さな頃から身近にいた精霊達を助けてあげたい気持ちはある。

 地球に戻るにしても戻れないにしても、今は意味が分からないし、どうしようもないので、何もできない。

 本当にどうしよう。とりあえずちまちま周りから何かしてみようかな。


「え。でもちょっと待って。縮んで色抜きって、私、今、どんな状態なの?ゾンビみたいだったら、ちょっといや……」

『お姿はこの水面で』


 いつのまにか低い雨雲は消え、鏡のような水面が広がっていた。


「え。白髪で結膜炎になってる」

『いえ。透き通るような銀髪で、深い紅玉のお色でございます』

「ゾンビじゃないね」

『ゾンビではございません』


 ゾンビじゃなくてホッとしたけど、銀髪ウサギ目のちびっ子になっていた。

 推定年齢10才って感じかな。実質年齢15才だけど。

 腰まで伸ばしていた髪は、肩につくくらいの長さになっていた。

 自分の手のひらをみると、今までよりちょっとだけ、ぷにぷにした肉感になっていて、一回り小さくなった感じかも。

 多分身長も低くなってるんだろうけど、ココには比較する物がないのでよくわからない。

 ただ、ギュギュってされたんだなぁと実感したのは、下を向いても小さな二つのお山で見えなかった足元が、しっかりと見えたことだった。

 成長期の胸を返して欲しいな。


「ゾンビ化の回避は理解したけど、ズタボロ血みどろの服がゾンビっぽいんですけど」

『ココは雨巫女様の力が顕現する世界でございます』

「・・・服をイメージするってことかな」


 イメージイメージ。服ってどんな感じで?

 ココは暑いし。

 でも水辺は確保したし。

 でも食料確保で動きやすい方がいいし。

 飛んだり跳ねたり走ったり。あー。ぴょんぴょん跳んだら、銀髪ウサギ目でうさぎみたいだなぁ。なんてぐるぐる考えながら人差し指をグルグル回したら、私の周りを風がくるりと包み込んだ。


「お。魔女っ子変身イメージだ」


 その言葉通りに、頭の上からキラキラが降ってきて、眩しくて目をつむった。

 手先と足先、ノースリーブのストンとしたワンピースを纏った感触がした。

 もこもこの。何でもこもこ?


 急いで水面で姿を確認すると、うさ耳フードの付いた白いもこもこワンピースに、肉球付き手袋、肉球付きショートブーツを履いた赤目の私がいた。


 もちろんワンピースの後ろに、うさ尻尾のオプションがちんまり付いていた。

 全て柔らかフリース毛布みたいで、スベスベふわもこだ。


 気持ちいいけど、ココ砂漠的な暑さなので、見た目が暑苦しい。

 私は何故か暑くないし、誰もいないから気にしないけど。


 血みどろの服は、池の横に穴を掘って埋めてしまおう。今は怪我をしていないけど、血みどろでズタズタに破れた服は隠してしまいたかった。


 もちろん、おばあちゃんの球根は、割れているけど取り出しておいた。


 ウサギは穴掘りが得意だから、多分私も掘れるだろう。


 うん掘れた。手袋凄い。サクサク掘れた。しかも汚れない。不思議仕様だね。


「あー。なんか疲れた。眠たくなった」


 服を着替えることしかしていないが、情報過多で頭がパンクしそうなので、とりあえず休もう。新しい服のまま池でサッと水浴びして私は乾いた地面に横たわった。


 暑いし風も吹いているから、どうせ服はすぐ乾く。なんてことはない、ちょっとした現実逃避だった。

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