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17:雨巫女は誰のものでもない

 満面の笑みで狐獣人を見送った雨巫女は、一人残った人族のディルクに問いかけた。


「ディルクさんだけになったね。それであなたはどうするの?」


 ディルクは他の二人が自領へ招く説得を諦めた事を好機と捉えていた。

 この場に居るのは雨巫女と自分のみ。

 ここで説得できれば他領を出し抜く事ができる。そう思ったのだ。

 少し目を細めながら微笑み、人族領への来訪を強く進め始ようとしたその時、雨巫女から駄目押しの一言があった。


 ニコニコ笑っている雨巫女の口調がなんだか速い。


「さっき渡した赤ジソとドクダミ、まずはそれを植えて精霊を助けて欲しいな。

 人族領でも精霊の力は弱まっているんだよね?

 少しでも精霊を助けてあげたいの。

 他の二人は早速上に帰ったから一歩リードだね。ディルクさんここでモタモタしてたら取り残されちゃうよ?

 あ。繁殖力早いからどんどん精霊が力を付けて、あっという間に引き離されちゃうかもね。

 どうする? どうする? 帰っちゃう? ここで私を駄目元で説得している間にドンドン引き離されちゃうよ?」


 雨巫女は煽るように一気にまくし立てた。

 ディルクは目をぐるぐる動かしながら何か考え、下唇を噛みながら唸っている。


 結局、私はここから動かないから、早く決断した方がいいと思うんだけどね。

 そんな事を考えながら、雨巫女は暇そうにその場でしゃがみこんで地面をガシガシ掘っていた。


 悩むディルクの存在を忘れ、雨巫女は掘った穴に桜でも植えようかな、なんて考えていた。

 右手にチューリップの杖を持ち、掘った穴の底を軽く三回叩いた。


「大きな綺麗な桜の木が生えますように」


 すると茶色と緑色の光が螺旋状に集まり、音もなく穴の中に消えていった。

 数秒するとカフェの入り口に、立派な桜の木が立っていた。

 どっしりした幹に大ぶりな枝。枝にはびっしりと八重の桜が咲き乱れている。


「わぁ綺麗」

 桜の木の下に立ちさまざまな色の精霊が周りを飛び交う中、ぽかんと口を開けて呑気な感想を言っている雨巫女は神聖な白い光に包まれていた。

 人の姿形はしているがその存在は違うもの。雨巫女は世界を中立で救うもの。


 それを見たディルクは気付かされた。

 雨巫女は見た目は人族の少女。同じ種族として人族領を優先してもらえるのではと、心の隅で思っていた。どこかに甘えがあったのだと。

 そんな考えを振り切るように軽く頭を振るとディルクはゆっくりと雨巫女に伝えた。


「雨巫女様。私は頂いた赤ジソとドクダミを持って人族領に帰ります」


 ちらりとディルクの方に目を向けた雨巫女は、神々しく輝きながら右手を高く上げた。もちろんチューリップの杖は掲げている。


「ん。わかった」


 間髪入れずにディルクの上に降り注ぐ土砂降りの雨。突然の雨にディルクは理解が追いつかず目を白黒させていたが、続く雨巫女の言葉に苦笑を浮かべた。


「激励の雨だよ。それじゃあね」


 最後の人族も去って行った。


 雨巫女はぼんやりと思う。


 それぞれが持ち帰った植物が大地に根付いて精霊の助けになればいい。

 そう願いながら雨巫女は祈り続ける。

 おばあちゃんに貰ったチューリップの杖。

 助けてくれる黒うさぎになった精霊たち。

 これから増えていく小さな精霊の子供達。


 私はこの砂漠でオアシスを作っていく。

 旅人たちの憩いの場所を作っていく。

 暑い砂漠で疲れた旅人が、私のカフェでゆっくり寛いでくれればいい。


 正直砂漠化って言われても、緑化って言われても、よくわからない。

 でもわかるのは私はこの世界で必要とされているとういう事。

 この世界の人たちの手助けができるって事。


 今はまだ砂漠の小さなオアシスだけど、いつかきっと緑を増やして人族も魔人族も獣人族も皆、平等に精霊の恵みを受けられるようになればいいなと思う。


 きっとできる。決意を新たに私はチューリップの杖を握り締めたのだった。




体調を崩し、間が空いてしまいました。申し訳ありません。

中途半端な感じはありますが、この話は一旦完結とさせて頂きます。

ありがとうございました。

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