15:一人目の選択
「青ジソを頂けるのですか?!」
「うん。シソは繁殖力が強いから、精霊も増えやすいと思うよ。私はこの場所から移動しないけど、雨が届くように祈ってるから。アマリアさんも頑張ってね」
「ありがとうございます」
「いえいえ。こちらこそお買い上げありがとうございます。一株のみのお渡しですが、お代は、共通通貨で100になります〜」
「え。代金がかかるのですか?」
「道の駅の物販ですから、当然です」
唖然とするアマリアに、にっこりと営業スマイルを浮かべた雨巫女は、チューリップの花に手を添え、祈った。
「魔人族領を癒す青ジソを」
すると眩い光とともに。青々と茂った一株の青ジソが根切りした状態で現れた。
感動して声も出ないアマリアを放置して、雨巫女は一人喜ぶ。
「おお!イメージ通り。しかもちゃんと水を含んだ海綿でくるんであるね」
現れたシソを丁寧に、持ち手のついた麻袋に入れ、雨巫女は、アマリアに手渡した。
「いっぱい増えるように頑張って育ててね」
アマリアは、青ジソを共通通貨100で手に入れ、一旦、魔人族領に戻ることにした。
どうやら雨巫女の意思は固く、このオアシスから動くことはないようだ、それなら他を出し抜いて、シソの株を手に入れる方が良いと判断したのだ。
「雨巫女様本人を連れ帰らなくても、今回は青ジソを手に入れたから、まずはこちらが最優先ね」
うふふと美女が微笑む姿はどことなく色気があった。
雨巫女は、お胸の大きな露出の高いお姉さんがクネクネすると色っぽいんだななんて考えていた。ちょっとだけ羨ましいなんて思わないから、イタズラで雨を降らしてやろうなんて思わないから、ついうっかり雨が降っただけだから、そう思いながら、そっと小声で呟いた。
「アマリアさんの上に雨を」
雨巫女からふわりと優しい光が広がって、アマリアの上に土砂降りの雨が降る。
「きゃ」
突然の雨で驚いた様子だが、恵みの雨を浴びて、彼女は嬉しそうだった。
そして服が濡れて、色気がお色気にグレードアップして、
「色気増し増しになっちゃった」と、雨巫女は口がへの字になるのだった。
そんなやりとりを経て、翌日アマリアは魔人族領に旅立った。
「では雨巫女様、私は一旦魔人族領に戻ります」
「はいさよなら。シソは増えるから気をつけてね」
満面の笑みで微笑み合う美女と少女。
シソで緑化が進めばいいよね、と呑気に笑う雨巫女に悪意は感じられなかった。
プルンプルンのお胸が羨ましいなんてちっとも思ってないもんと思っていた。
そんな雨巫女の心情に気づくことなく、アマリアは他種族を出し抜いてシソを手に入れたことを喜んだ。
雨巫女もシソの繁殖力を思い、ほくそ笑んだ。
「緑化も進むし、食べれるし、青汁にもなるし、精霊も増えるし、良いことだらけだよね」
魔人族領に向かうアマリアの後ろ姿を見送りながら、雨巫女は微笑んでいた。
どこかの種族に滅んで欲しい訳じゃ無い。どこかの種族だけを助けたくない訳じゃ無い。
三種族みんなが精霊の加護を受けることができればいい。そう思っているが、思春期真っ盛りの雨巫女は、素直になれないでいた。
いつか自分もプルンプルンになってやるんだ、なんて決して思っていないんだから。
女性同士の微笑ましいやりとりに、人族のディルクと獣人族のファースは焦っていた。
雨巫女様に来ていただけないのなら、魔人族のアマリアのように、何か植物をいただいて自領に帰るべきなのか、それとも、一人ライバルが減ったので、自領での活動を依頼するべきなのか迷っていた。
立ちすくむ二人の頭上にうっすらと雨雲が広がる。オアシスのどこかで雨巫女が祈りを捧げているようだ。
「この力が欲しい」
「我が領土で独占したい」
空を見上げながら二人は呟く、雨巫女に拒絶されたにも関わらず、二人は諦めていなかった。
そんな二人の上にも、雨巫女の優しい雨は降り注いているのだった。




