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三月のリオ

 三月は水女神様の月


 雪が溶けて出来た水で世界を綺麗に洗った、水女神様の月




 「リィーオォー! 早く来ねえと置いてくぞーっ!」

 「今行くーっ!!」


 窓の外から聞こえてきた元気な声に、リオも部屋の中から元気に答えた。

 お姉ちゃんが洗った朝ご飯のお皿を、乾いた布でせっせと拭く仕事も丁度終わったので、洗濯籠を抱えて洗い場へ向かうお母さんにパタパタと駆け寄る。


 「お母さん、ぜーんぶ終わったよ!」

 「はいはい。それじゃ行ってらっしゃい」


 キラキラと目を輝かせて、うずうずソワソワと足踏みをしているリオに、お母さんはニッコリと笑って頷いた。

 『どこ』へ『何をしに』いくのかは、今の時期だと簡単に想像が付くので、わざわざ確認したりはしない。その代わり「お昼には帰って来なさいね」と掛けられた声を背中越しに聞きながら、リオは目一杯の早さで外へと飛び出した。



 「おまたせー! ……あれっ、レジーとフィスだけ? ミーアとダグは?」

 家の前に立っていた幼馴染の姿が二人だけだったので、リオはキョロキョロと辺りを見回した。いつも一緒に遊んでいる、もう二人の幼馴染を探していると、答えがすぐに返ってくる。


 「ミーア、風邪引いちゃったんだって」

 「だからダグは今日ずっと一緒にいてやるってさ」


 「えぇー!?」

 リオは目をまん丸にして驚いた。それから慌てて「ミーア大丈夫なの? 熱は? それともゴホンゴホンしてる?」と二人に尋ねる。

 「そんなひどくないけど、外に出るのはダメっておばさんに言われたんだと」

 「まだ寒いし、しょうがないよね……」

 ダグは、ミーアだけ置いてきぼりは可哀想だし、心配だから自分も残ると言っていたらしい。

 そっかあ、としょんぼりしながらリオは頷いた。でもすぐに、ぐぐっと握り拳を作る。


 「じゃあ、二人の分も見つけて、おみやげにしよう! それで、おみまい行く!」

 「おう!」

 「ん!」


 グーにしていた両手をパーに開いて頭の上に高く上げれば、パン!とレジーとフィスが片手ずつ掌を合わせた。



 やっと雪が降らなくなり、毎日おひさまが顔を出してくれるので、うんと積もっていた雪もほとんど溶けてしまった。

 日陰の寒い場所にはまだ少し残っているけれど、三人がテクテクと進む道はすっかり地面が顔を出している。お喋りしたり、種まきの歌を口遊んだりしながら歩き続けていると、やがて目的地が目に飛び込んできた。


 「とーうちゃーっく!」


 最後にピョンッと飛び跳ねて着地したリオの瞳に映るのは、一面の青色――プルカの湖だ。

 森へと続く道から外れ、膝の高さまである草を足でワサワサ掻き分けるように進めば、先に集まっていた大人達も気付いたようで、網を手にしながら揃ってこちらを振り向く。その中でも一番大きいのが、ダグのお父さんだ。


 「おっ。やっぱり来たか、チビ共」

 がっはっはと笑いながら頭をわしわしと撫でられ、リオ達は「ぎゃー!」「何すんだよ!」「やめてぇ~!」と文句を叫ぶ。リオのふわふわした藁色の髪も、レジーのツンツンはねた赤い髪も、フィスのサラサラした銀色の髪も、皆ぐしゃぐしゃだ。

 三人が頬を膨らませて怒っても、ダグのお父さんはがっはっはとまた笑う。そして「湖には、あんま近付きすぎんじゃねえぞ?」としっかり釘を刺されたので、髪を直しながら「はーい」と皆で返事をした。


 湖から少し離れた場所に、平べったい形をした大きな岩があったので、リオ達はよいしょと上によじ登って、並んで座る。そして、湖を見つめながらじっと待った。

 プルカの湖は、いつもは緑色がちょっと混ざった青色をしているけれど、モラスリ山からの雪解け水が流れ込む今の時期だけは、まるで夜の空がそのまま落っこちてきたみたいに、とても濃い青色になる。

 その青い水面が、むくむくと膨れ上がった。いや、良く見れば動いているのは水では無い、とすぐに分かるだろう。



 ばさっ ばさばさっ ばささっ



 いくつも、いくつも、重なり合う羽音――そう、それは、湖と同じ青色をした、鳥達の群れだった。


 白青鳥は、雪が降る前に北の空からプルカの湖にやって来て、雪が溶けるとまた北の空へと飛んでゆく。白青鳥は、だから春告げ鳥とも呼ばれていた。冬が終わったよ、春が来るよと、教えるみたいに旅立つからだ。

 そして、今日がその飛ぶ日だろうと予想して、リオ達だけでなく村の人達も湖へやってきたのだった。どうしてかというと……白青鳥は、ちょっとした置き土産を残していってくれるので。


 ぶわわわっと湖の水が噴き出すように、薄い水色の空に夜空が吸い込まれていくように、白青鳥が次から次へと水面を離れていく。一年に一度しか見られない光景を、うわあと歓声を上げて眺めている内に、青い群れはあっという間に遠ざかっていった。

 それを見届けてから、リオ達は腰掛けていた岩から飛び降りて、鳥達がいなくなった湖でワイワイと作業している大人達に再び近付く。あまり近くに寄りすぎて、もしも冷たい湖に落ちてしまったら大変だから、そこはちゃんと気を付けた。


 白青鳥が過ごす寒い冬の間は、湖も凍って雪が積もる。その雪に隠れるように、鳥達の羽は最初まっ白なのだ。そして雪と氷が溶ける頃には、湖と同じ青い羽に生え変わる。

 つまり、湖には抜けた白い羽がたっぷりと残されている訳で――村の大人達の目的はこれだった。大きくて丈夫な、そして綺麗な羽は、飾り細工や羽ペンの材料にもってこいなのだ。村の立派な売り物なのである。


 ダグのお父さんを始めとした、力自慢の大人達が湖へ大きな網を投げ入れて「そぉーれ!」と引き寄せると、その中には白いふわふわした塊がわんさか詰まっていた。それを、そばに広げたこれまた大きな布の上に並べて乾かしていく。

 そちらの作業に混ざったリオ達は、ちょこちょこ手伝いながらあちこちに目を走らせた。と、ある一ヶ所を見た瞬間、その動きがピタリと止まる。


 「あったー!!」


 文字通り飛びついたリオの手には、まっ白な中にポツンと紛れ込んでいた青色が握られていた。

 白い羽よりも随分小さな、青い羽。

 生え代わる時に、一緒に抜けてしまった新羽が、たまにこうやって混ざっているのだ。細工を作るには数が少なく、そして柔らかすぎてしまうので、大人達はこれだけ子供に譲ってくれるのが恒例になっていた。


 「次はミーアの分も見つけるぞー!」

 「じゃあ、俺はダグの分!」

 「ボクも……母様にあげたいから、頑張る」


 きゃあきゃあと張り切る三人を、大人達はにこにこと見守っていた。




 雪解けのプルカの湖をスゥッと細長く切り取ったような、春告げ鳥の青い羽。

 新しい季節への、女神様からの祝福が込められていると伝わるこの羽は、幸運のお守りになるのだ。


 春の始まりの色をした宝物を、大事な友達や家族にもちゃんと渡すために、リオ達は夢中でこんもり積み上がった白い山に突撃した。

活動報告にリオのキャラデザを載せてみました。

ご興味がおありの方はどうぞ*^^*

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