ちびドールさんの知らないところで動き出す。
フラジェール冒険者学園の生徒フローネは焦っていた。
今期の課題として、使い魔一匹と契約することが定められていたのだが、期限がすぐそばまで迫ってきていたのだった。
とはいえ、使い魔なんてものは質にこだわらなければ契約なんてそう難しいことではなく、現に成績が学年で一番悪いあのコビルだってビックモスキートとか言うでかい虫の魔物と契約し、すでに合格をもらっていた。
ではなぜ、フローネは未だに使い魔を手に入れることが出来ていないのか、それは単に彼女が見栄を張ってしまったことに原因があった。
成績優秀な彼女は、この課題が出されたときに、同じクラスでライバルであるライロと自分の方が素晴らしい魔物と契約できると見栄を張りあったのだ。
そしてすでに、ライロの方はこのあたりでは珍しく、なおかつ強力な魔物であるフロストリザードと呼ばれる魔物と契約に成功してしまった。
これではもう、その辺のしょうもない魔物との契約なんてフローネのプライドが許さなかった。
しかし、目をつけて長い時間をかけて手なずけようとしていた魔物との契約を失敗し、気が付けば次の魔物を探す時間すらほとんど残されていなかった。
そもそも、魔物との契約というのは、狙った魔物を聖水なり浄化魔法なりで無害化し、そこから相手の同意を得て、契約魔法でつながりを作る必要がある。
しかし強力な魔物は無害化するのにも手間と時間がかかり、出来たとしてもプライドが高かったりするためにそこで失敗することさえ珍しいことではない。
フローネも欲張って強力な魔物をどうにか無害化することに成功したのだが、契約は結んでもらえず、そこそこの値段のする聖水だけを大量に消費してしまっただけに終わってしまったのだった。
(うぐぐ……どうすればいい、どうすれば……)
契約に失敗した翌日、頭を抱えて教室の自分の席に座っているフローネのもとに、同級生のリューナがやってきた。
「大丈夫?契約駄目だったんだって?」
「リューナぁ……」
「やっぱりナイトイーグルは気難しかったんだ。」
「そうなの。折角たくさん聖水使って無害化したのに。自由に空を飛び回りたいんだって話も聞かずに飛んでっちゃった。」
「あちゃ~。それでどうするの?」
「……もうそのあたりの弱い魔物と契約するしかないのかなぁ。やだなぁ」
ちなみにリューナの使い魔はパフボールフェアリーという綿毛に小さな目をくっつけたような魔物で、今もリューナの肩のあたりをふわふわ漂っている。
契約した魔物は、学園に連れてくることを許可されておりすでに同級生のほとんどが契約を澄ましているため、教室内には使い魔がそこらで自由にくつろいでいた。
どんなに弱い魔物でも合格はもらえるとはいえ、契約する以上それなりのパートナーがほしいとみんなが思っており、さらにフローネのいる教室は成績上位者が集められているために、どの使い魔もそれなりの力を持つものだったりする。
ただの綿毛にしか見えないリューナの使い魔(パフ君というらしい)にしたって、簡単な魔法を操れるほどの力を持っている。
「せめてみんなくらいの使い魔がほしいんだけど、聖水にお金使っちゃって、もうほとんどのこってないの」
「私も貸して上げられればいいんだけど、この子のために結構使っちゃってて……」
「気持ちだけ受け取っておく……」
この学園、冒険者なんてものを目指すものが集まるだけあって、みんなあまり裕福ではない。
そもそもが国営で、授業料なども国がほとんどを支援している。
だが、冒険者になってダンジョンの一つでも解放できればその利益は計り知れない。
それは本人にとっても国にとっても大きな利益を生み出すため、たとえほとんどの生徒がパッとしない冒険者になろうとも一部の成功者のためにこの学園は存続されるのだ。
閑話休題
先が見えない状態にうんうんうなっているフローネのところに、例のライバルであるライロと、彼の幼馴染だというルインという少年が近づいてきた。
「よ、ようフローネ、調子はどうだ?」
「……。」
フローネは返事の代わりにむすーとした目でライロを見てきた。
そのあからさまな不機嫌さに、思わずたじろいでしまったライロだったが、負けじと声をかけなおす。
「それは、残念だったな。お前が言っていたすごい使い魔っていうのに興味があったんだが。」
「なんなの?もー嫌味をいいにきたのかな?」
フローネはすでにやさぐれモードに入っていて何を言っても不機嫌になっていた。
「あ?えぇ?いや。そういうつもりじゃあなくてだな。」
「もういいよぅ。私のことはほおっておいて」
恨みがましくライロの連れているフロストリザードを睨み付けるフローネ。
突然向けられた敵意にたじたじになるフロストリザードは、ライロの後ろに隠れてしまう。
「ほらほらフローネ。そんなにギスギスしないで。ライロはそんな君に朗報を持ってきたんだよ。」
やってきてからリューナと話していたルインが、なかなか本題に入れそうにないライロのためにフォローを入れる。
ちなみにリューナとルインは恋人関係だ。
「そうなの?」
「あ、ああ。……実はつい先日、ここから結構近いダンジョンが浄化されたらしいんだよ。」
そう言ってライロは手に持った地図を机の上に広げる。
見てみると確かに、彼の指し示した場所はこの学園から馬で半日ほどの距離しか離れていない。
「ほんと!?」
勢いよく身を起こしたフローネはライロに詰め寄る。
急に近づいてきたフローネにライロは少し赤くなりながらも答える。
「解放したのが俺の剣を習ったとこの先輩らしくてな。なんか厄落としとか言って寄付金もらったって喜んでたし、たぶん間違いない。」
「そ、それでそのダンジョンの系列は?」
「聞いた話だとゴーレム系らしい。」
「う……ゴーレムかぁ」
ゴーレムも使い魔としてかなり優秀な方だが、折角パートナーとして過ごすならある程度意思の疎通ができる方がうれしい気がする。とフローネは考えていた。
「なんだよ。贅沢言ってられるような状況じゃないんだろ?浄化されたダンジョンなら聖水も必要ないし。」
「うう。確かに」
「な、なんだったら俺たちも行くのに付き合ってやってもいいぜ。なあルイン?」
「はいはい。そのつもりで声かけたんだしね。」
「そうなの?じゃあ私も行くよ」
リューナも話を聞いてついてくる気になったようだ。というか彼女はルインと一緒ならどこにでもついてきそうだった。
自分がぐずついている間にいつの間にかそこに行くことが決定してしまっていたが、彼女にはすでにほかの選択肢を選ぶ余裕なんて残されてはいなかった。
「仕方ない。もうそこで使い魔を探すしかないみたい。」
「あのなぁ。……でもそう悪いことだけじゃないみたいだぜ。」
「?」
「あくまで噂なんだけどさ、そこのダンジョンにジュエルゴーレムがいるかもしれないんだってよ」
「なにぐずぐずしてるのはやくいくよいそがないとどこかにいっちゃったらどうするの」
「お、おい待てよ!!まだ授業おわってねぇだろうが!」
話を聞いたとたんに教室を飛び出さんかのような勢いで歩き出したフローネを慌てて追いかけるライロ
そんな二人を温かい眼差しで見つめるルインとリューナの二人。
そんな四人は授業が終わるや否や、ダンジョンに向かうのであった。