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もやし系竜人の僕は。  作者: 森マッコリ
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フェスティバル 後編

お祭りの水あめ、多すぎて一人じゃ食べきれないんですよねー。焼きそばの大盛りならタコ焼きと合わせて食べられるのに。

 スカイゴールはまだまだ続くよ。エレクと姐さんと皆に励まされ、指揮を執ることを覚悟した僕は西の集落のチーム全員の能力をフルに生かして、南の集落に立ち向かっていた。


 [ラッドは向こう、ミレアとガッドはそこへ。エレクとオームは攻め。他の皆は各自自由に待機して!]


 こうしていると、前世で自分の配属の部下へ支持出してたことを思い出すよね。なんだか俄然やる気が出てきた!


 [ボールは敵チーム赤い奴だ!その濃紺の奴の持ってるのはおとりだよ!]


 隅をこそっと飛んでいた赤い奴が、ぎょっとしてこちらを振り向いた。その手には本物のボールが抱えられている。濃紺の奴の手には地属性魔法で作られたと思われる、大きな岩が抱えられていた。向こうさんもやってくれるね。だけどその手は効かないよ。僕が前世でどれだけ地獄(書類の間違え探し)を見たと思ってるんだい?鍛えに鍛えた丈夫なお目々は後世でも継続だよ!


 って、うわっぷ、濃紺の奴が僕に岩を投げてきた!あわわわわ風魔法、いや、この際水魔法か!?素手でやったら確実に負傷する!!いくら古代魔法があって怪我が治っても、ダメージは蓄積されちゃうんだよ!ってそうこうしてるうちに目の前まで!!う、うわあああああああ!!


 ガキンッ


 [何やってんだ、ラウル。ぼさっとしてたらやられるぞ]


 あ、姉貴ぃいいいぃいぃ!!


 姐さんこと西の集落の皆の姉貴、フェリオが俺の前にさっと立ちはだかったと思えば、地属性魔法で強化した1mはある長い両手の爪で岩を一閃。次の瞬間岩はボロッと細かく砕けて地面へ落ちて行った。さすがは姐さん、かっこよさすぎ!


 [ご、ごめん……つい……]


 [わかったなら早く次の指示を出してくれ。皆あの赤いのを止めるので精一杯なんだ]


 姐さんがその鋭い爪で指した方向を向けば、炎を噴き上げて暴れまくっている南の集落のドラゴンが目に映る。その周りでは皆が頑張って足止めしていた。おっと、こりゃたいへん!


 [オームは本気でブレス、ガッドは死角から突進だ!アリア、大丈夫?]


 [[[任せてよ!]]]


 3匹は息を合わせて一斉に攻撃を始めた。


 オームは風属性魔法の使い手だ。風魔法のブレスは、圧縮した空気を一気に放つ。だから大砲みたいなとんでもない衝撃があるんだ。


 ドオオオオオンッ


 こっちまでブレスの余波が暴風となって飛んでくる。それを直撃した赤い子は、吹っ飛ばされて上空に打ち上げられた。が、腕のボールはしっかりと抱えられて離さない。

そこへ青い線が走る。ガッドだ。ガッドの頭は固い。とんでもなく硬い。大きな岩も頭突き一発で割れるほどの石頭だ。そんな恐ろしい威力の頭突きを突進で受けた赤い子は、とうとうボールから手を放した。すかさずアリアがキャッチ。


 [いっけえええええっ!]


 アリアはそのままゴールに自分ごと入って、無事に得点を獲得した。


 『ゴオオオオオオオオオオオオル!!またまた西の集落の得点です!』


 『イケイケですねぇ~』


 『見事なプレーでした』


 [やった、やったよ!私、得点入れられた!]


 [すごいぞ、アリア!]


 [オームとガッドもでかしたな!]


 『ってわあ、ボールボール!]


 こうしてプレーはは順調に進んでいった。途中、ハム様がまた暴走しかけたり、姐さんが会場のドラゴンたちを惚れさせながら見事にゴールしたり、エレクが相手のチームの子たちをまとめて一掃したりといろいろあったけど、とっても楽しいプレーだったよ。


 南の集落との結果は340対20で僕らの勝ちだった。スカイゴールは総当たり戦だから他の集落とも対戦したんだ。北の集落戦では120対90で僕らの勝ち。そして東の集落とは


 『ゴオオオオオオオオル!!ラッド選手が決めました!!熱い、実に熱いたたかいだぁっ!』


 『おっと、ここでタイムアップですねえ』


 『結果発表~。東の集落120ポイントに対し、西の集落は……おおっと120ポイント!!同じく120ポイント!!!引き分けだああああああああ!!』


 『前代未聞の結果ですねぇ』


 『今年の試合は例年とも比べ、とても盛り上がりました。しかし、このような結果になるとはだれが予想したことでしょうか!』


 なんと、引き分けだったんだ!こことの試合は本当に楽しかった。それはもう、あのエレクがおもわず雄たけびを上げるほどにはね。


 勝負が終わったら選手みんなで地面に下りて、一斉に咆哮を上げる。このしきたりは野性味を感じさせるよね。僕ももちろん思いっきり吠えたよ。僕のストレスのだいたいは飛ぶことで発散させてるんだけど、この試合、ハム様とかハム様とかハム様のせいですんごいストレスがたまってたんだ。アイツ、試合が終わってからもヤジを飛ばしたり、ちょっかい出してきたりしてホントにうざ……ゲフンゲフン。とにかくムカついたんだ。あぁいうやつってホントに場の空気を悪くするのがうまいんだよね……


 ちなみに東の集落も2勝してたから試合全体の方も引き分けだったんだ。


 そんなこんなでスカイゴールの種目は終わり、それからは大人たちの競技に入った。

空中レスリングはものすごく興奮したよ。雄竜たちのガチンコバトル。鱗のぶつかり合う激しい音が、会場を虜にした。ちなみに優勝したのは北の集落のガチムチのでっかいドラゴンだった。うう、いつか僕もあんなふうにムキムキになってやるんだ!


 空中ママさんリレーは、あれはもう恐怖しか感じなかったよね。全員殺気をまき散らしながら、豪速で互いにぶつかって相手を弾き飛ばしたり、魔法で蹴散らしたりして空のコートを飛んでいくんだ。女性コワイ……ちなみに優勝は母さんだった。こわかった。


 赤や水色、黄色に白のブレスが飛び交い、あちこちで爆発を起こし、身震いするような恐ろしい咆哮があげられたりしながらながらフェスティバルは進んでいった。







 ソレは踊り子ドラゴンさん達のきれいな舞が終るころにやってきた。







 僕らは西の集落の子皆で人型に戻ってご飯を食べていた。ドラゴン姿のままだとお昼ご飯、食べた気がしないからね。


 「それにしても今日は楽しかったですわね」


 「そうだよねん!」


 「ラウルの指示が的確で、俺びっくりしたよ」


 「えへへへ……僕、頭を使った戦法が好きなんだよ」


 「それはひょろっこいもやしの卑怯な戦法ってもんだな」


 「マレード!」


 「あんたまたきたのか。こりない奴だな……ラウル、こんな奴のことは気にすんなよ」


 「うん。大丈夫だよ、姐さん」


 また来たよハム様。しつこいねぇ~。でも大丈夫だよ皆。僕、これでも前世はおっさんだから。30歳生きてたから。ムカつかないもん。


 「チビで使えねえからズルい手使わなきゃやってらんねぇってことだろ?」


 「ラウル君はズルくなんかないよ!」


 「そうだそうだー!!」


 「ハッこれだから一介のザコは……誰もこの小動物を躾してやんねえから代わりに俺様がやってやってんだよ。そんなことを考える脳みそもないのかぁ?」


 「クソが」


 「さっきから聞いていれば言わせてくれるじゃねぇか。ラウルは俺らの仲間だ。それを目の前で罵倒されちゃあ……」


 「エレク、フェリオ」


 「お前はいつ……っ!?」


 「ここは私たちが言ってやんなきゃなんねえんだラウ……!?」


 二人が僕を見て硬直した。何でだろう。僕はただ、ハム様を説得しようと努めて笑顔でいるっていうのに。


 「ねえ」


 「あんだよ」


 「僕ね、気にしてるんだよ」


 「は?何言ってんだチビ」


 「それだよ、チビっていうその言葉。君だって”黙れよ肉の塊”って言われてもムカつかないのかい?」


 「に、肉……てっめえ……!」


 「それと君はもっとほかのこと仲良くした方がいいと思……」


 「だまりやがれれクソチビ!!」


 「あ?」


 僕は右手でハムの胸ぐらをつかみ、左腕だけ竜化してのど元に爪を突き付けた。鋭い爪が太陽の光を浴びてギラリと光る。


 「人の話は最後まで聞こうや、豚野郎。それとも今すぐハムになりてぇのか?お?」


 ハム様はうごぉと鳴くと、地面に崩れ落ちた。顔面はいろんな汁まみれで、股間の間からも汁が漏れていた。汚い。


 「南の集落の皆も君のことは良い風には思ってないだろう」


 「ば、化け物……!!」


 「あ?喋る豚が何言ってんだ。てめぇの方がよっぽど化け物じゃねぇか」


 「あ、あのな、ラウル、もうやめてやんねえか?」


 「んー?」


 にこっと満面の笑みで後ろを振り向くと、ズザーッっと皆が後ろへ下がった。なんでだ。


 「も、もう私たちのことはいいからさ、お弁当食べようぜ」


 見れば、皆は首をブンブンと振っていた。ふとエレクを見る。思いっきり目をそらされた。いやん。


「ほらラウルくーんそいつは放っておいて、ミカンでもたべようよ」


 え?ミカン?


 ハム様を投げ捨てて西の集落の皆の所へ駆け寄る。


 「ミカンだミカンだー!」


 「そ、そうだ。私のミカンもやるからこっちおいで、な?」


 「えっ姐さんミカンくれるの?わーい、僕ミカン大好きー!」


 竜の島のミカンは全部が全部温室ミカンみたいに甘くてジューシーなんだ。しかも拳骨サイズ!


 皆でお弁当の続きを再開しながら踊り子さん達の舞を見物する。たまに魔法で炎や水を出してダイナミックに体全体を使って踊っていて、とってもきれいだ。と、皆がなぜか自分の分まで譲ってくれた大量のミカンを齧りつつ思った。視界の端に映る肉塊なんて知らない。


 火の粉が飛ぶ、水がはじけ飛ぶ。空気が渦巻きそよ風が吹く。宝石の粉がふりまかれ、キラリキラリと宙を舞う。


 「きれいだね~」


 「……ああ」


 炎が火柱となって天へ上る。そこへ暴風が送り込まれ、炎の竜巻となり、踊り子さん達が炎の合間を飛んでゆく。その光景は、会場を圧倒させるのには十分であった。そして舞もとうとうフィナーレを迎えようとしたときのことだった。




 ソレがやってきた




 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオン


 先ほどの比柱よりももっと大きな火柱が、天を穿った。そのスケールは会場を埋め尽くし、あわや観客席の手前まで火で覆い尽くされてしまったのだ。


 「な、何!?」


 「あっつぅ……!?」


 急いで水属性と地属性魔法を持つドラゴンたちが消火に当たる。僕もドラゴン形態に戻って、力いっぱいブレスを吐いた。隣では同じくドラゴン形態のエレクが、大地を歪ませて土をかぶせようとしていた。


 大量の水と地面の隆起によって火柱が沈下された。


 [ふう、疲れた……今のは何だったんだろ……]


 [さあな……]


 先ほどの騒動で起こった大量の水蒸気が晴れてゆく。その先にはおおきなナニカのシルエットが浮かび上がっていた。そしてソレに誰もが驚愕することとなったのだ。


 煙が晴れた先にただずんでいたのは、真っ赤な体に金色のぎらついた双眼を持つ、竜族よりも数倍は大きな魔物だった。


 その魔物の名はザラマンデル。炎の化身ともいわれる、恐竜のようなその体。


 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンン


 魔物の放った咆哮は、大地を揺るがし木々をざわめかせた。






 その咆哮は僕たち竜を警戒体制へと持ってゆくのに、十分な響きを持っていた。

わたがしはおもちかえり(威圧)

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