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もやし系竜人の僕は。  作者: 森マッコリ
5/9

フェスティバル 前篇

祭りと言えば金魚すくいで1200円使って6匹しかとらなかったことが……

 パンッパンッパンッ


 空に火薬玉が投げられる。今日は竜の島全体でのフェスティバルなんだ!


 「頑張ろうね、エレク」


 「おう」


 僕らはな、な、なんと、ジュニア部門の西の集落代表なんだよ!今日まで西の集落の皆とがんばってきたんだ、絶対優勝してやる!ちなみにジュニア部門は15歳までの子竜たちの出る競技だよ。


 周りの子竜たちが順調にムキムキになっていくというのに、僕らはまだ痩せている。僕、じゃなくて僕らってところがポイントだよ!エレクもムキムキじゃないんだ!仲間なんだよ!その割にはパワーはすごいけど……


 珍しく普段無表情なエレクがほほを紅潮させて、声を弾ませている。何時もクールな人が熱くなるとびっくりするってこのことをいうんだね。そういえば前世でも書記の伊藤さんがクールビューティーで清楚系な乙女だと思っていたら、実はニューハーフでしたとかね。あれ?違う?


 話を戻そう。今、僕らは竜の島の中心にある、中央の広場へ集まっている。島民800人全員集結!皆ドラゴンの姿だったり、人の姿だったり。ちなみに競技はドラゴン形態で行うのがルールだ。


 『まもなく、島民大運動会を開催いたします。選手の方は定位置についてください』


 お、とうとう始まる!楽しみだなあ。


 「ラウル、頑張れよ!父さんたち応援してるからな」


 「水分はきちんととるのよ?疲れたらちゃんと休んでね?」


 「うん分かったよ。あと母さん、僕は一応水属性持ってるから水については心配しないでよ。それじゃあ行ってきます!行こ、エレク」


 「ああ。親父、お袋、行ってくる」


 「頑張りなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 「いけぇぇぇ!!エレクドリスぅぅぅ!!」


 相変わらずのエレクの家族の息子愛っぷり。


 「ホントしつこい」


 そんなこと言っても顔は正直ですよ、エレクさん。


 背中から翼を出して、飛翔する。変身は空中でやらないとみんなの邪魔になっちゃうからね。それから魔力を一気に解放すれば、体がずんずん大きくなっていく。完全に変化し終えたときに横を見れば、真っ黒な鱗をつややかに光らせた黒竜がいた。エレクだ。エレクの鱗の色も僕と同様、とっても珍しいらしい。ドラゴンの姿の時のエレクは筋肉が引き締まっていて本当にかっこいいと思う。僕は相変わらずの弱弱しい見た目だけれど。


 「グオ!」


 「グオウ」


 一緒に目的の場所まで飛んでゆく。僕らの種目はスカイゴール。スカイゴールというのは、大玉スイカぐらいの大きさの黒い鉄球を、相手のゴールに入れる競技。人数は1チーム12人だ。手でも足でも尻尾でも魔法でも、何でもアリなこの競技。実質かなり危険でもある。だから競技場全体に古より伝わる、怪我してもすぐに治るという反則チート結界魔法を、大人のドラゴン10体で協力してかけてある。いやー、古代魔法ってすごいよね。まさにチート!


 ちなみに鉄球ボールはドラゴン形態だとビーチボールぐらいの大きさにしか感じない。重いんだけどね!


 空中に浮かんだ不思議な8つの輪っか。それがゴールだ。ゴールの前にはキーパーがスタンバイしている。だいたい大きくてゴツイのが選ばれる。僕ら西の集落チームでは、炎竜のジュリーちゃんがゴールキーパーとなっている。大きくてとっても強そうだ。ゴールが8つもあって守るのはとても難しいんだけれど、ジュリーちゃんならきっと守れるはずだ!


 『選手、位置について』


 魔法で拡大化された声がスタジアム全体に響く。あ、あそこで”ファイトだエレクドリス!!”と書かれた大きな旗を振ってるのはエレクのご両親かな?その隣のラブラブカップルはきっと父さんと母さんだ!


 『それでは、始め!』


 審判たちの座る特別席の後ろから炎、風、土、水の四つの属性のブレスが放たれた。開始の合図だ!ちなみにドラゴンは皆それぞれの属性の元のエネルギーを口から発射できるんだ。火竜の放つブレスは正にドラゴンって感じがするよ。


 っと!相手チーム、南の集落の緑色の子が飛び込んできた!ここからはドラゴン語を翻訳してお送りしたいと思います。


 [ぅおおおおッそこをどけえッ]


 緑の子が咆哮を上げながら突っ切ってくる。


 [分かってるな]


 [もちのろんさ!]


 どうやら緑の子は僕を狙っているようだった。なんだよ、僕の見た目がひょろいからってさ。あんの緑野郎……雑魚から先に叩き潰そうって考えだろうな。ハッ甘い甘い!


 ぎりぎりまで緑の野郎を引き寄せてから、風魔法の補助もつけてひらりと回避する。すると緑の野郎は僕の後ろでただずんでいたエレクに衝突した。エレクはちょっとやそっとの打撃じゃあ全然効かないからね。緑の野郎の鼻先はエレクの固い鱗にあたってグシャリと痛そうな音を立てた。ざまあみろ!


 [今だ]


 [言われなくとも!]


 僕は魔法以外にもスピードが取り柄だからね。最近じゃあ風魔法を使わなくとも、時速100キロ台を翼の一振りでたたき出すことが出来る。方向転換だってずいぶんうまくなったと思うよ。だってあの数年前のお使いの時からたくさん練習したから。


 フィールド上にただずむドラゴンたちの間を紙一重で縫うようにに避けて飛ぶ。何でそんなぎりっぎりの所で避けるかと言えば、相手をひるませる効果があるからだ。この日のためにエレクともたくさん作戦を練ったんだ。


 敵にわたっていたボールを紫の子から奪い取り、一番右のゴールの前まで来る。だが、ボールを投げ込もうとしたところで、ゴールキーパーが割り込んできた。


 [ゴールは死守する!]


 [まあそれがゴールキーパーの務めだからね。でも、それはどうかな?]


 [何!?]


 キーパーの前から一瞬で上空へ移動し、キーパーの一の間反対、つまり一番左のゴールに向かってボールをしっぽでたたき込んだ。


 ガゴッ


 『ゴオオオオオル!!!西の集落、10p先取しましたぁッ!!』


 『いやー、最初からとんでもない戦いですなあ』


 『はい。ラウリオル選手とエレクドリス選手のいいチームワークからなせる技でしたね』


 [やったよ、エレク!]


 [まだ気ぃ抜くんじゃねえぞ]


 [わかってるよ!あ、ボール来た!]


 今度はショッキングピンクの子が飛んできた。きらっきらの色だけど、雄だ。腕にはしっかりとボールが握られている。体には明らかな贅肉がだぼだぼとついており、その巨体で視界が遮られた。なかなか手ごわそうだ。


 [どけどけどきやがれぇぇぇ!!俺様のお通りだぞゴルアアア!!]


 しかもオラオラ系ときた。


 [エレク]


 [おう]


 魔法で水球を作ってオラオラ系に当てる。一球とは言わない。いくつもいくつも連打で売っていく。


 [~~!うぜえ、寄るんじゃねぇ!!]


 オラオラ系が咆哮を上げてこっちに突進してきた。そりゃあ水風船が何発も顔に当てられたらイライラするよねえ。でも今回の作戦のキモはそこにある。


 [クッソ何で当たらねぇ!?]


 ひらりひらりと攻撃をかわしていく。へっへーんだ。小柄だと小回りが利くんだよーだ!


 [マレード、そいつなんかほっておいて俺たちにボールを回してくれよ!]


 [るっせえ!!俺様にたてつくやつは皆ぶっ潰す!]


 何やらいざこざが始まったようだ。横暴に一人我儘にふるまって場の雰囲気を悪くして、結果的に計画は失敗して、さらにそれを他人のせいにする人ってよくいるよね。僕、ああいうの好きになれないなあ。


 相手の動きを見切って尻尾で頭をはたいた。


 [そんなら潰してみなよ、ピンクのロースハム様?]


 そしてハム様の顔面に思いっきり水球をたたきつけ、盛大に鼻で笑う。


 [~~ッ~~き、さま~~ッ!!]


 まあこんなのやられたら誰だってむかつくんだけどね。挑発成功!


 生き物は怒るとパワーが増す代わりに動きが単調になる。ハム様の元から大きかった攻撃が余計に大きくなり、簡単に見切れるようになった。ハム様は僕にとにかく何かしら当てようとめちゃくちゃな動きで暴れ出し、ボールを振り回し始めた。


 これを待っていた!


 即座に風の刃を作り出し、ハム様の手首に当ててボールを弾き飛ばした。


 [今だよ!]


 弾き飛ばしたボールの先に、黒い影がスッとよぎる。エレクだ。エレクは口を大きく開けると、あのルビー色の輝く炎を吐き出した。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオッ


 敵のゴールキーパーはその炎のあまりの熱さに近づくことすらできないままに、僕らの得点を許した。


 『ゴオオオオオオオル!やりましたッ!西の集落、20p獲得うう!!』


 『これは……すごいファインプレーですなぁ。やっぱりアレは格が違いますなあ』


 『最後のエレクドリス選手の炎のブレスは実によかったですね』


 [やった!]


 [……ふう]


 [この調子でどんどん追い上げていこうね、皆!]


 ここで忘れてはいけないのがチームの皆さんだ。この試合は僕らだけのものではない。他の西の集落皆でのプレーなんだ。皆で戦って、皆で楽しむ。勝負ってそういうもんじゃない?


 [……はい!ラウリオルさん、エレクドリスさん!]


 水色の子、アビールがうれしそうに声を上げ、


 [こっちだってバンバン使ってくれよ、リーダー?]


 若葉色の子、フェリオは僕をリーダーと呼んだ。え?リーダー!?


 [ちょ、ちょ、ちょ、リーダーなんてそんな……それにこのゲームにはリーダーも何もないよ!]


 [皆あんたの作戦を頼りにしてんだ。ここにいる全員があんたをリーダーとして認めてんだよ。な?そうだろ、お前ら]


 そうだ、そうとも!とまわりから声が上がる。え、ナニコレ恥ずかしい。


 [……俺もお前が一番いいと思う]


 [エ、エレクまで……]


 [俺の実力が発揮できるのも、お前の支持があってこそ]


 [その通りだぜ、ラウリオル。ほら、皆もこういっていることだしよ。……後は分かるな?]


 フェ、フェリオさんテライケメン……!抱いてっ!性別なんて関係ないわ!姐さんって呼ばせてぇ~!


 あ、いい忘れていたけどフェリオ姐さんは女の子のドラゴンなんだ。かっこいいでしょ?


 [うう、エレク、姐さん……みんな、僕、頑張るよ!]


 [ねえさん……?おう、まあみんなついてってやっからがんばれよ]


 [うん!]


 『うっうっ、感動しましたああああ』


 『いやー、青春ですねえ』


 『私らも若いころを思い出しますね』


 そんなこんななフェスティバルはまだまだ続く!







 はるか上空、雲の影


 ギラリ


 瞳が光る

ワキンはかわいい(確信)

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