台風
ホワイトサ〇クロン乗ったことないですけどぜったい乗りたくないですねー。(コケコッコ)
ゴオオオオオ……
雨がザーザーとバケツをひっくり返したかのように降り、風がゴウゴウと吹き付ける今日の日。竜の島に台風がやってきたんだ。
ものすごい雨で地面が沼のようにぬかるみ、巻き上げる風で木々がなぎ倒されて空へと舞いあがってゆく。竜の島の台風は、日本にやってくる台風よりも何倍もひどい。沖縄に上陸したての台風よりももっとずっと強いんだ。
今、僕は父さんと母さんと近所のエレクとその家族で近くの洞窟に避難している。僕としては水竜であり風竜でもあるから、台風なんてどうってことないんだけどね。母さんの自慢の花壇には、妖精さん達のためにも強力な僕の水魔法の結界を這ってきたからいいけれど、さすがに家もとはいかなくてこうやって避難しているんだ。しょうがないじゃない、12歳だもの。まだ魔法だって未熟なんだい!
エレクと二人、お山座りで洞窟の外を眺める。
「すごい雨だねー」
「だな」
奥では母さんたちが今後について喋っている。洞窟の奥で話していて、僕らには話の内容を一切聞かせてくれない。だから僕らはこうして外をぼんやりと眺めつつ時間をつぶすしかないんだ。
「ねぇ、天気がよくなったら何する?」
「……鬼ごっこ、かくれんぼ、あとじゃれ合いっこ」
「じゃれ合いっこかあ。あれは天気よくないと無理だもんね」
ちなみにじゃれ合いっこっていうのは犬や猫がじゃれ合うように遊ぶこと。ただ、魔法やすごい威力のパンチが飛び交うからたまに地形が変わっちゃうことがあるんだよね。
「それとスカイゴールも」
「そうだね。チームの皆でやらなきゃ」
スカイゴールは前世にはなかった遊び。もうすぐ竜の島全体での祭りがあるから、同年代の子供たちと一緒に練習してるんだ。
「天気がよくなったら日向ぼっこして、空を飛んで、鹿も狩ってたべよう」
「ああ」
「そんでたくさん遊ぼうね」
「そうだな」
えへへ
二人で笑いあう。また晴れたらたくさん遊ぶんだ。
よく考えれば前世から見ても、つるんでいてこんなに心から楽しいと思えるような友達はいなかったような気がする。そう考えるとエレクは僕にとって本当の意味での親友なんだろうなあ。ただ、エレクが僕のことをどう思っているのかは知らないけど。できることならば心友になりたいなあ。こうやって波長の合う友達はそうそういないはず。見つけたからにはこの交友関係を大事にしていかなきゃだなあ。
というか、社畜おじさんも随分と変わったもんだね。いつも仕事仕事の仕事尽くしの仕事漬け。無給残業、仕事のお持ち帰りは当たり前。とてもホワイトとは言えないような日々ではあったけれども会社の家畜からここまで脳内お花畑に変格するとは……。まあそれが今の僕なんだけどさ!
ドオオオオオオン
「!!」
「あ、雷。すごい威力だね」
光ってから落ちるまでの時間が短い。近くに来てるんだろうな。と、
ドシャアアアアアアアアアアアアアアアンバリバリバリドスーン
「っ!!!!」
「わわっ」
爆音とともに洞窟の目の前の木に雷が落ちた。光もすごくて一瞬目の前が真っ白になった。ってわ、木が黒焦げで真っ二つに……すごい!自然のエネルギーを感じさせるよね!
「今のはすごかったねー、ん?エレク?」
「……ッ」
ちょっと興奮しながら隣に目をやると、エレクはお山座りをさらに縮こませてぎゅっと体を丸めていた。よく見ると小刻みに震えているようにも見える。この反応は、もしや……?
「もしかしてエレク、雷怖いの?」
「……」
エレクは何も言わずに僕の服の裾をつかんだ。あ、これもしかしなくてもそうだ。だから今日は元気がないように見えたんだなあ。
ピカッバリバリバリズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンン……ゴロゴロゴロ
「っ!!」
「大丈夫大丈夫。洞窟の中まで入って来やしないよ」
ダアアアアアアアアアアアアアアアンンドスンズドオオオオン
「ううっ」
「わあ、こりゃどっかの木がまた倒されたみたいだね。……エレクはさ、雷のどんなところが怖いの?」
エレクと隣にくっついてお山座りしながら尋ねた。小学校の時、雷を怖がって震えていた子供に先生がくっついたらほっとしたような顔になったのを僕は覚えている。
「……おと、いや」
うーん。これは……雷嫌いの典型的なやつだなあ。それにしてもエレク、全くいつもと様子が違う。何時もはクールであんまり感情を表に出さない感じだけれど、今日は明らかな怯えを見せている。よっぽど雷が怖いんだろうなあ。
「そっか。じゃあ音が聞こえなければいいんだね!」
「……?」
こんな時こそ僕の魔法。風魔法っていうのは空気を操る魔法のことなんだ。音は空気の振動。つまり、風魔法を応用すれば音も消せるってわけさ!
神経を集中させて、空気中に漂う魔力に自分の波長を合わせる。それを洞窟の入り口に集めて積み重ねてゆく。
「でーきた!」
「!」
洞窟の入り口に、ガラスのような透明な膜を張った。外の音、つまり空気の振動を膜が吸収して止めてくれるんだ。ちなみに洞窟の中の音も外には漏れません。僕の自信作だよ!
と、また外が激しく発光した。エレクがばっと体を丸める。が、音がやってこない。エレクは恐る恐る辺りを見渡した。また空が光り身を縮めるが、やはり音は聞こえてこなかった。
「???」
「エレク、これでどう?」
なんだかよくわかっていない様子だったけれど、とりあえず僕がなにかしたのだと気づいたらしく、こちらを向いた。
「音が、ないね」
「うん」
「ゴロゴロってしない」
「そうだね」
「……ありがと」
「どういたしまして!」
それからはまた話すことが無くなって、2人でずっと静かに外を見ていた。すると、ふと脳裏に懐かしい歌がよぎった。
「てるてるぼーず、てるぼーず、あーした天気にしておくれ」
「何、それ」
「んー。これはね、”天気が良くなりますように”って意味の歌なんだよ」
「へぇ」
「そうだ、ねえエレクはてるてる坊主って知ってる?」
「?」
「知らないか……あ、そうだ!それなら一緒に作ってみない?」
「作る?」
「そう!ティッシュ……薄い布2枚で簡単にできるんだ!」
「おもしろそう」
「じゃあさっそくやろう!母さん、いらない布もってないー?」
それからは、前世の子供時代を思い出しながら、楽しくてるてる坊主を作った。小さくて薄い麻布をくしゃりと丸めて、それよりも大きな布をかけて縛る。それから竜の島には書くものが一切ないから、木の実をつぶしてその汁で顔を描いた。
「でーきた!」
「できた」
エレクのはちょっぴり歪だったけれど、初めてにしては上出来だった。僕?僕のは完璧なるてる坊さんになったよ!前世でも幼稚園の時、皆に作ってーって言われてたぐらいにはうまかったんだ!
「さ、これを壁に首を吊るそう!そうだな……そこの出っ張ってるところにでもかけよっか」
「吊るす……」
「ん?どうしたの?エレク」
「吊るしたら、死んじゃう」
「いやいやいや、違うよ。それはおまじないみたいなものだから、ね?」
「やだ」
だけどエレクはてるてる坊主を離さなかった。あちゃー。今のは完全に言葉のあやだったな……小さい子ってなぜか変な勘違いするんだよね……。って僕、エレクと同い年じゃーん!残背に引きずられて今、僕は子供なのか大人なのかわかんなくなっちゃうよ。
それから何とか説得して、ようやくてるてる坊主を吊るすことに成功した。2つ並んだてるてる坊主は、にっこりと笑いながら空を見ていた。
「てるてるぼーず、てるぼーず」
「あーした天気にしておくれ」
「ふへへ」
「あはは」
どうやらエレクもこの歌を覚えてしまったみたいで、一緒に合わせて歌ってくれた。エレクってこういうところは乗りがいいんだ。
「これで明日、晴れるのか?」
「さあね。それはてるてる坊主にがんばってもらわないとね」
ざあざあと降りしきる雨の中、二人で外を眺めていた。
「んうう……」
優しく差し込む太陽の光で目が覚めた。丸まった体を起こし、大きく伸びをする。洞窟の外は真っ青な快晴だ。森の木々たちもなぎ倒され、巻き上げられて大変なことになっているけど、大方は残っていた。さすがは竜の島の木だよね。これが前世の街路樹か何かだったりしたら、全部空へと舞いあがることになっていただろう。隣ではエレクが大の字で寝ている。どうやらあの後寝落ちしてしまったようだ。
空気の膜を消すと、朝のさわやかな風が入っていた。雨によって丸洗いされた早朝の空気は、とってもおいしい。気分がよくなって隣のエレクを揺さぶった。
「エレク、朝だよ!ホラみて、雲一つない青空だよ!」
「……もう、朝か?」
「そうだよ!キレイな空だねー」
「てるてる坊主のおかげだ」
「そうだね。てる坊にもお礼、言わなきゃね」
どこまでも続く青い空。木々の葉には、雨のしずくがキラキラと輝き、太陽はさんさんと柔らかな光を投げかけていた。そんな中、洞窟の中では2つのてるてる坊主が誇らしげに空を見上げるのであった。
さあっと乾いた風が吹く。雨に洗い流された新しい世界は、今日も静かに動き出す。
照る坊外に放置してたら溶けてた。