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もやし系竜人の僕は。  作者: 森マッコリ
2/9

おつかい

おっほう

 ああ、空からの眺めはいいなあ。


 今、僕はお使いを頼まれてドラゴン姿で山の上空を飛んでいる。南の集落で果物を買いに行くんだ。

 現在僕は8歳。いやあ、年月がたつのは早いよね。竜の島では15歳になると外へ出て一端独り立ちするっていう決まりがある。家族とは後7年しか一緒にいられないんだ。まあ、さみしくなったら帰ってこればいい話なんだけど。それでも最低1年は帰ってきたらダメなんだよね。


 海を渡るのは危険がいっぱいで、毎年帰ってくる子供たちはほんの数頭にまで減ってしまうらしいんだ。それからは外で暮らすもよし、竜の島に戻ってきて過ごすもよし。まあ、僕は外の世界を見て回りたいんだけれど。


 何でこんな掟があるのかと言えば、昔に島を守るためにあった習慣の名残らしい。そんなものなくてもいいじゃないって思うんだけどね。


 それはさておき、僕はここ最近、風と水の魔法の活用法を考えている。風と水の魔法は地味だけど、攻撃用としても使えるんだ。だからもっといろいろ活用していけばとっても強い魔法なんかを作り上げることが出来るんじゃないかってね。外の世界できっと役立つはずさ。


 そんなことを考えつつ、空中散歩を楽しむ。この浮遊感がたまんないよね!僕は風属性の魔力を持っているから風に乗りやすい。とっても速く飛べるんだ。前世は絶叫系は無理だったけど、今はむしろ高低差をつけて飛ばしちゃうぐらいには飛行を楽しんでいる。


 お、南の集落が見えてきた。だいたい楕円形の形をしている僕らの島は、何故だか環境がきっかり4つに分かれていた。言い伝えでは先祖の魂の偉大な力が、それぞれの土地に影響しているだのなんだの言われてるけれど、ホントかなあ。


 スイーっと勢いをつけて舞い降りる。降りる直前に足元に風を巻き起こせば、音もなくストンと降りることが出来る。


 「あらまあ、ラウルちゃんじゃないのー。今日は何が欲しいのかしら?」


 「ガウウ」


 「果物?うーんと……今はオレンジがたくさん入ったけれど、どうかしら?」


 「ガウ」


 「わかったわ。オレンジ3つね。おまけでもう一つ入れといてあげるわ」


 「クウ!!」


 「いつも来てくれることのお礼よ。ラウルちゃんは偉いわねえ、お手伝いできるなんて。うちの子にも見習わせたいわ」


 「ギャウ」


 「はい、さようなら。またきてねー」


 南の集落の果物屋のおばさんはいい人だ。こうやってたまにおまけが貰える。しかも売っている果物は全てジューシーなんだ!


 南の集落は火山が近くにあって、野菜や果物がたくさん取れる。火山灰の降り積もったこの土地には栄養満点!野菜がすくすく育つよ。それと温泉がいたるところに沸いているから、家族連れのドラゴンたちがたくさんやってくるんだ。一年を通してあったかいこの場所では、一年中作物が取れるんだよ!


 さて、次はここから一番近い東の集落だ。買い物にカツオを頼まれている。今日はカツオのたたきなんだ。この島では魚を生で食べるのは当たり前、それどころかたまに生肉の味付てないのがそのままドーンと出ることもある。やっぱドラゴンだからかな、肉は生で食べてもおいしいんだよね。


 砂浜がどこまでも連なり、浜辺を歩けば貝や海藻が。海に潜ればさまざまな種類の魚たちのパラダイスが。夏は海だ!バカンスだ!そんな東の集落は海の幸が特産品です。


 浜辺の村とあって、海岸沿いにそって飛べばすぐにつく。

 お、前方から紫色のドラゴン発見!


 「グオウ」


 「ガウウ」


 「ガオッ」


 「グウ!」


 どうやら東の集落のドラゴンだったらしい。すれ違いざまに西の集落のお肉をアピールしておいたよ。

僕の村は山の幸がたくさん取れる。春から冬まで、とれたての季節の山菜をどうぞってね。


 山のふもとの広大な森が広がる西の集落。何と、集落の半分は森の面積なんだ。そんな森の中からは鹿肉エンペラーディア熊肉ロックグリズリー、さらには豚肉ファイアボアまで何でもござれ。ろ過をされたきれいなお水が流れる川には、脂ののった川魚や、塩茹でがおいしいカニなんかも住んでいる。一番特産物が多いのも西の集落なんだよ、えっへん!


 おお、青い空に青い海。これこそが東の集落。沖縄やハワイの海よりももっとずうっと透き通っていて、とってもきれいなんだ。


 降り立った先にあるのは海岸近くにある魚屋さん。


 「ガウ」


 「あ、この白い鱗は西の集落のラウルだネ!さあさあよってらっしゃい見てらっしゃい!品ぞろえ豊富な魚屋ボルムへようこそ!」


 「ガウオウ」


 「ふむ、カツオだネ。うーんと……あ、これはどうかナ。こんなに大きいのにそうだネ……その干し肉一枚だよう」


 「ギャオ」


 「へい、まいどありー!」


 この島にはお金はない。だから基本的には物々交換をしている。お店っていうのはその地域の物をたくさん持っている人たちのことを言うんだ。この集落ではボルムさんのところが一番いい条件で成立するって母さんから聞いたよ。だからここへ来たんだ。


 ちなみに僕はもちろん西の集落の特産品を、たっくさん持ってきたよ!


 「あ、そういえば今アサリ100グラムそのだけど……もう一枚お肉くれたら譲っちゃうヨ」


 「!ガウウ」


 「まいどっ。母さんにでもパスタにしてもらいナ」


 へへ、これはいい買い物をしちゃったな。この世界、味噌っぽい物はあるのだが甘いため、味噌汁には向いていない。うーん、アサリの味噌汁食べたいなあ。


 また地面をぐっと蹴って上昇する。最後は北の集落だ。ここではミルクを頼まれている。


 北の集落は、一年中比較的涼しくて高原にある。冬になれば豪雪地帯にもなるため、雪だるまが作り放題だ。むしろ火竜が火を噴いてどうにかしないと積もりすぎて村が埋もれてしまう。


 まあ、今の季節は春だからその心配もないんだけど。


 北の集落につくまで暇だから、風を操って遊ぶことにしてみた。風の魔法で攻撃に使えるとしたら、風で作った刃や、暴風、それから竜巻ぐらかなあ。他にももうちょっとあるけど、派手なのはやっぱり後二つだよね。ホントにすごいドラゴンとかだと木を根こそぎ吹き飛ばしちゃうんだ。もちろん僕の父さんのこと!


 だけど、今からやるのはそういうのじゃなくて、気流を巻き起こして高速飛行をやってみたい。空気を練って練って練りまくって、ある程度固くなったら一気に解放。すると、空気が元の密度に戻る反動で一気に前へ進む。その流れに合わせて風を巻き起こせば、相当な速さで飛べるってわけさ!時速300キロは超すだろうね。


 ってうっわ!早、早い!空気を練りすぎた!!コレ確実に音速越えてるよ!!400キロぐらい越えちゃってるよ!ってわあぁもう北の集落見えてきちゃってる!止まらない、止めないと……


 前から向かい風、それもかなり強いのを起こす。ぐ、それでもスピードが落ちない!!なら、翼をひねってスピードを落とせば……あいたっ!だめだ、翼が千切れちゃう。もっと鍛えておけばよかったなあ……


 前方にかなり高い木が2本、空に向かってそびえ立っているのが見えてきた。北の集落名物の、その名も高杉。そうだ、アレに水で作ったネットを這ってぶつかれば止まるかもしれない!そうだと決まれば早く水の魔力を練らないと……


 練って練って……いや、時間がない!もういいや、ぶつけちゃえ、えいやぁ!


 木と木の間に水でできた繊維が絡みつく。巨大ハンモッグの完成だ。あれの上で寝ると水の上でゆらゆら浮いているみたいで気持ちがいいんだ。っと、そうじゃなくて……!


 バッシャアン


 ネットに突っ込んだ。ぐんぐん伸びて……


 プチッ


 え……ネットが、破れ……




 ズザアアアアアアン




 いったたたたたた、思いっきり地面に墜落しちゃったよ……まあほとんどハンモッグが衝撃を吸収してくれてたんだけど。やっぱり魔力の練り不足だったなあ……


 「どうしたどうした!?」


 「西の白竜が山の向こうから降ってきたのよ」


 「なんだ、着陸に失敗したのか?ガハハハ。アレでも子竜の時はまだ未熟なんだなあ」


 ……お騒がせして、すみません。






 バサッバサッ


 うう、まだ体のあちこちが痛いや。ちょっと翼も捻っちゃったみたいだし。帰りは上昇気流を使ってゆっくり帰ろうかな。


 あれからきちんとミルクを買って(ミルク屋のおばさんが僕の全身のけがを見て、チーズをおまけでくれたよ)ここまで飛んできたわけなんだけど、今日は疲れたなぁ……もうしばらくはお遣い行きたくないなあ。


 あ、西の集落だぁ、やっと帰ってきたんだ……もうすっかり暗くなっちゃった。


 家の隣にスイッと着地。人型に変身してから家のドアをたたく。


 「ただいま……帰ったよ」


 するとドアが開いた。家の中からはいい香りがする。もうじき夕飯だ。中から母さんが出てきて、ボロボロの僕に一瞬驚いたようではあったけど気にせずに話しかけてきた。


 「おかえり、ラウル。ちゃんとカツオは買えた?」


 「うん。でも、途中で墜落してオレンジが1つ潰れちゃった……」


 「まあ、大丈夫だったの!?」


 「うん……」


 どうしよう、怒られちゃうかな。母さんは怒るととっても怖いんだ。


 「で、でもね、僕、がんば……」


 「偉かったわね、ラウル。オレンジは残念だけど、2つを三人で分けましょう?」


 「……!オ、オレンジはおまけでもう一つもらったからちゃんと3つあるんだよ!」


 「そう、よかったわね!さあ、早くご飯にしましょうか。ラウルちゃんの買ってきたカツオ、大きくておいしそうだわね。母さんがんばっちゃうからね」


 そう言って頭を撫でられた。


 「他にもいろいろもらったんだよ!」


 「そう。じゃあ今日何があったのか、教えてちょうだいね」


 「うん!」







 また、お使い頼まれてもいいかな。


ちなみに主人公が幼稚っぽいのは脳がまだおさないからである。

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