どう考えても俺の主より密偵の方が主人公っぽい件
俺の目の前で遂に圧倒的な力を持った暴君の王は倒された。
俺の主は今にも息絶えようとしている暴君の王に問いかける。
「先代の娘を何処に追いやった!!」
「ふっ、貴様らに答える義理はない」
暴君の王は狂気を滲ませ息絶えかけているとは思えぬ気迫でこちらを睨みつけ、主は余りの気迫に息を飲む。
暴君の王は自らの気迫に呑まれた主を見て嘲るように笑った。
先代の王は賢王であった。
しかし、弟であった暴君の王に謀殺されてしまい、今の王になったのである。
当時王には幼き姫がいた。
暴君の王は姪である姫を何処かへ閉じ込めた。
王は言う。
「あの娘は我のもの。決して渡さぬ!」
ははははは!
高らかに叫ぶ王。
その姿はまさに狂った暴君だった。
その時。
カランっと音が響く。
その音の先にはひとつの鍵と男の姿があった。
「なっ!?」
「姫は最上階にいる」
静かに言う男に王は叫ぶ。
「貴様!裏切るか‼」
「悪いが俺の今の主はそこのお前を倒した男だよ」
その男は王の元にいた密偵。
そして主が味方に引き込んだ者でもあった。
叫ぶ王を無視し最上階へ向かう。
最上階に着き、扉を開くとそこには。
この世のものとは思えない絶世の美少女がいた。
彼女こそ姫とわかる。
彼女は一点の曇りなく輝く銀の髪と神秘を秘めたと王族しか赦されぬ紫水晶の瞳を潤ませた。
余りにも整いすぎているその顔は頬をうっすらと染め蕩けるような笑顔を浮かべている。
人外の美貌に見惚れる俺らを尻目に彼女は囁やくように言葉を紡ぐ。
「あぁ…きて、くれた…」
駆け寄る彼女。
その先に居るのは暴君を倒した麗しき俺らの主――……
ではなく。
「会いたかった…ディ!!」
「俺もだよ。シャル」
そう言って抱き締めるのは全身黒い服を纏い今はフードを外し素顔を晒している先程の密偵の男。
こいつは王城まで俺らを導いた。
つまるところ、革命軍の旗印たる俺の主の密偵である。
抱き合う二人を呆然と見ている主を傍目に俺は思う。
なんかもう、設定からして密偵のあいつのが主役だよなー…、と。
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突然だがあいつの人生を辿ろう。
あいつは元々とある島国の王子だった。
そこは小さくも豊かな国で独自の文化を持っていた。
そんな穏やかな日々を送っていた。
けれどそんな日々は長く続かず。
暴君が即位と同時に侵攻を受けた。
そして暴虐の限りを尽くされあいつの母国は滅んだ。
その後あいつは暴君の気まぐれにより生かされ都合のいい暗殺者としての人生を強いられた。
そしてある日。
隠された姫に出会った。
あいつと姫は密かに密会を重ね、あいつは姫を救う為同じく故郷を滅ぼされ復讐に燃えていた主や俺達を集めた。
そして活動を続け、今現在王を倒し姫救出ってところである。
え、なんであいつのことをこんなに詳しいのかって?
それは俺もその国出身だからである。
因みに主は圧政に耐えかねての反乱だった。
まぁ、何が言いたいかと言うと。
やっぱあいつの方がまさに物語の主役っぽいよね。うん。
しかも姫とフラグばっちりで主の右腕(女)や凄腕女冒険者や町娘とかのフラグも立ててやがってるんだぜ?
あっはっはっ。
リア充滅びろ。
主にとっては革命軍リーダーであり王を打ち倒した自分こそ主役だったんだろうなー。
だからこそ今まさに二人の世界に入ってる姫と密偵を呆然と見ているのだろう。
そんな主にこの言葉を送りたい。
主どんまい!