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瘴気の魔王アリゲーリ  作者: こんたくみ
幕間
42/68

int2.ヴェルギリのある日


 ぼくの名前はヴェルギリと言います。ぼくは剣の形をしたあくまです。ぼくは今、人間かいにいます。

 ここはアリゲーリのおうちです。アリゲーリはぼくの友達で、今はマオウタカシと名乗っています。ぼくとタカシは、生まれたとき、ぐうぜん近くにいました。それから、途中で離れ離れになったけど、今はまた一緒です。

 けれど、ここにはいじわるなエーリアルもいます。エーリアルはぼくとちがい、本物の剣です。エーリアルはとてもいじわるです。ぼくがちょっとタカシに近付いただけで、ぼくのことをけったり投げたりします。タカシはぼくのことをかばってくれますが、エーリアルにとてもこまっています。ぼくはエーリアルからにげるために、犬のすがたになってにげます。けれどぼくは変身が下手なので、おかしな形になります。瘴気だけなら上手くできるのですが、自分の体だとだめです。

 ここにはタカシとエーリアルの他に、ミランダ、キャリバン、ミラーレ、レギオニステラという、四体のあくまもいます。

 ミラーレはぼくに近付こうとしません。ぼくの方から近付くと、目をそらしてにげていきます。

 キャリバンは、いつもお酒を飲んでいます。そのたびに泣いています。大きな声で泣くときもあれば、こっそりと泣いているときもあります。

 レギオニステラは、アリドュスクロワというタカシの剣を持っています。アリドュスクロワは、エーリアルにいじめられる仲間です。エーリアルは、他の武器にいじわるするので、みんなからきらわれています。他のみんなは元気でやっているでしょうか。特にベアトリが心配です。ベアトリは他のみんなとちがって、せん細なのです。

 それとミランダですが、ぼくはミランダが大好きです。ミランダは僕をかわいがってくれます。今まで、タカシ以外に、そういう悪魔はいませんでした。生まれたときから一緒のタカシとちがい、とても新せんな感覚です。

 そして最近、シコラクスが現れました。シコラクスは、タカシがアリゲーリだったころの知り合いで、ぼくもよくおぼえています。たしか、第九まかいに落っこちた人間だったはずです。自分の身を守れないので、いつもアリゲーリの近くにいました。シコラクスはアリゲーリのことが大好きで、いつもからかっては、あとでこっそり落ち込んでいました。

 こうやって大ぜいのあくまが集まると、昔を思い出して、なつかしいです。アントニウスはどうしているでしょう。アントニウスはタカシの友達で、まかいで二番目に強いあくまです。一番はタカシです。

 今、ぼくはタカシの部屋で遊んでいます。遊び相手はミランダです。ミランダがボールを投げて、ぼくがそれを受け止める遊びです。何時間でもできます。でも今日は、ミランダの様子が変です。何度もため息を吐いたりしています。どうしたのでしょう。ぼくはしゃべるのが苦手なので、身振り手振りで思っていることを表現します。


「ん? どうしたの、ヴぇーたん」


 ミランダはぼくをヴぇーたんとよびます。正直やめてほしいのですが、それを伝える方法がないので、今はあきらめています。そのうちぜったいにやめさせます。


「もしかして、心配してくれてるの?」

「ピキー」

「ありがとう」


 ミランダはわらうと、ぼくをひざの上にのせました。ミランダはぼくをなでてくれます。


「私ね、隆志さまのことを叩いちゃったの。隆志さまは悪くないのに。私自身、どうしてあんなことをしちゃったのか……。シコラクス様にまで庇ってもらって、私、本当に不甲斐ない。隆志さまのお側に相応しくないのかな?」


 ミランダはとても落ち込んでいます。こういうときは大抵、タカシがわるいのです。友達としてゆるせません。ミランダにあやまらせる必要があります。

 ぼくはミランダのひざをおりて、タカシを探すことに決めました。

 タカシのおうちの一かいに下りると、ミラーレがお昼ごはんのじゅんびをしていました。タカシはいません。どこに行ったのでしょう。仕方がないので、タカシを待つことにします。

 そうしていると、お昼ごはんの良いにおいがただよってきました。これは、多分、お魚です。ぼくもお魚をもらおうと、ミラーレに近よりました。おどろかせないように、足元から近付きます。中々気付いてもらえないので、足をさわってみました。


「きゃあ!」


 ミラーレはとてもおどろいて、しりもちをついてしまいました。心外です。


「ど、どうかなされましたか、ヴェルギリ様」

「ピキー」


 やはりお魚をやいていたようなので、所望します。


「あ、これですか?」

「ピキー」


 ミラーレからお魚をもらいました。しゅるいはわかりませんが、おいしいです。小骨の多い魚は好きです。ミラーレはぼくがお魚を食べるのを見て、ふるえていました。お作法は苦手です。少しはしたなかったようです。

 ともかく、リビングにもどり、ソファの上でタカシを待ちます。お昼時なので、そろそろもどってくるでしょう。

 やってきたのはエーリアルでした。エーリアルはいつもタカシを見ています。遠くにいても念視でみています。ぼくも念視はできますが、いつもタカシを見たりはしません。なぜなら、それはよくないことだからです。ぼくは知っています。人間かいではストーカーとも言うそうです。

 けれど、今のエーリアルはタカシを見ていませんでした。ぼくを見ています。エーリアルは誰かをいじめるときだけ、タカシを見るのをやめます。いやなやつです。


「ヴェルギリ、お前からアリゲーリへの反逆心が見えます。許せません」


 言いがかりです。ぼくはタカシをこらしめようとしているだけで、反逆心などありません。ですが、エーリアルは問答無用です。早速ぼくをけってきました。本気でたたかうとエーリアルにはかなわないので、ぼくはにげます。

 エーリアルのすばやさは、武器仲間の中でも一番です。人間にそっくりなすがたに変身できるからです。その気になれば、けもののすがたにもなれるはずです。ずるいです。なので、ぼくはいつもつかまってしまいます。今も持ち上げられてしまいました。


「やはりお前はアリゲーリの剣に相応しくありません。精々座布団で限界です」


 そう言うと、エーリアルはぼくの上にすわってしまいました。


「ピキー」


 変な声が出てしまいます。エーリアルはわざと重心をずらしたりして楽しんでいます。だんだんむかついてきました。

 近くにごみ箱があります。ひらめきました。ぼくは手を伸ばしてエーリアルの顔をひっぱたき、持ち上げて頭からごみ箱にたたきこみました。わたわたと足をばたつかせています。良い気味です。

 仕返しされると大変なので、手早くごみ箱にかかっていたビニールぶくろを引っぱり、口をむすびました。ビニールぶくろにエーリアルが入っています。ざまあねえ。

 剣に変身すればエーリアルはだっ出できるはずですが、エーリアルはプライドが高いので、そんなことで変身しません。なので、しばらくこのままです。

 でも、ごみと一緒にふくろに入るエーリアルを見ていると、なんだかかわいそうになってきました。これ以上みていると、こっちまで辛くなってしまいます。なので、ごみ捨て場という所に捨ててきました。これでエーリアルを見ずにすみます。辛くなることもありません。すごくすっきりした気分です。

 ごみ捨て場から帰ってくると、タカシとキャリバンがいました。お昼ごはんを食べているようです。レギオニステラ以外はみんないました。レギオニステラがいれば、アリドュスクロワにエーリアルのことを話せたので、残念です。

 ともかく、タカシをこらしめねばなりません。


「ピキー!」

「お、ヴェルギリ。どうした、腹減りか? ほら」


 タカシがお魚を分けてくれました。おいしいです。でもそうではありません。このまま続けてもおねだりだとかんちがいされそうなので、ぼくはタカシのひざにのりました。ぺちぺちとタカシのほおをたたき、真剣な話だぞ、ということを伝えます。


「足りないか? ほら」


 お魚おいしいです。でもそうではありません。


「もっとか? 野菜も食べろ」


 お野菜はあんまり好きじゃありません。でも食べます。でもそうではありません。


「あの、旦那、俺、ちょっと……」

「あ、私も……」


 キャリバンとミラーレが席を外してしまいました。口をおさえて、なんだか吐きそうです。大丈夫でしょうか。ぼくは気付きました。今はタカシとミランダとぼくだけです。話をしやすいように気づかってくれたにちがいありません。


「ピキーピキー!」

「うーん、腹が減っているわけではないようだな」


 ミランダを指し示します。


「ミランダに関係あるのか?」

「ピキー!」

「え、私?」

「ピキー!」

「ミランダに謝れって?」

「ピキー」

「俺なんかしたか」

「え、ええと、私は平気ですよ?」

「ピキー!」

「あ、もしかして……」

「心当たりがあるのか」

「あ、いえ、あの、私、ヴぇーたんに愚痴をこぼしてしまって、それで……」

「なるほどな。どんな愚痴だ?」

「い、いえ! 大したことではありませんので」

「しかしヴェルギリが怒ってる」

「ピキー」

「え、ええと、私、やはり隆志さまのお側に相応しくないのではないかと、思いまして……」

「…………」

「? 隆志さま?」

「あ、なんだ?」

「いえ、ご様子が、おかしかったので」

「少しぼーっとしただけだ」

「そうですか、お休みになられては」

「問題ない」


 このあとも少々会話が続きましたが、結局、タカシがミランダにあやまることはありませんでした。納得できません。けれど、今のタカシの様子は気になります。むかし、まかいにいたときも、たまにあんなふうに、ぼーっとすることがありました。ずっと一緒にいたぼくだからわかることなのですが、これはなんだか、タカシにとって、とても重要なことのような気がするのです。

 付け足しておくと、エーリアルはその日の夜中に帰ってきました。散々仕返しされたことは、言うまでもありません。



 ちゃんちゃん。

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