int2.ヴェルギリのある日
ぼくの名前はヴェルギリと言います。ぼくは剣の形をしたあくまです。ぼくは今、人間かいにいます。
ここはアリゲーリのおうちです。アリゲーリはぼくの友達で、今はマオウタカシと名乗っています。ぼくとタカシは、生まれたとき、ぐうぜん近くにいました。それから、途中で離れ離れになったけど、今はまた一緒です。
けれど、ここにはいじわるなエーリアルもいます。エーリアルはぼくとちがい、本物の剣です。エーリアルはとてもいじわるです。ぼくがちょっとタカシに近付いただけで、ぼくのことをけったり投げたりします。タカシはぼくのことをかばってくれますが、エーリアルにとてもこまっています。ぼくはエーリアルからにげるために、犬のすがたになってにげます。けれどぼくは変身が下手なので、おかしな形になります。瘴気だけなら上手くできるのですが、自分の体だとだめです。
ここにはタカシとエーリアルの他に、ミランダ、キャリバン、ミラーレ、レギオニステラという、四体のあくまもいます。
ミラーレはぼくに近付こうとしません。ぼくの方から近付くと、目をそらしてにげていきます。
キャリバンは、いつもお酒を飲んでいます。そのたびに泣いています。大きな声で泣くときもあれば、こっそりと泣いているときもあります。
レギオニステラは、アリドュスクロワというタカシの剣を持っています。アリドュスクロワは、エーリアルにいじめられる仲間です。エーリアルは、他の武器にいじわるするので、みんなからきらわれています。他のみんなは元気でやっているでしょうか。特にベアトリが心配です。ベアトリは他のみんなとちがって、せん細なのです。
それとミランダですが、ぼくはミランダが大好きです。ミランダは僕をかわいがってくれます。今まで、タカシ以外に、そういう悪魔はいませんでした。生まれたときから一緒のタカシとちがい、とても新せんな感覚です。
そして最近、シコラクスが現れました。シコラクスは、タカシがアリゲーリだったころの知り合いで、ぼくもよくおぼえています。たしか、第九まかいに落っこちた人間だったはずです。自分の身を守れないので、いつもアリゲーリの近くにいました。シコラクスはアリゲーリのことが大好きで、いつもからかっては、あとでこっそり落ち込んでいました。
こうやって大ぜいのあくまが集まると、昔を思い出して、なつかしいです。アントニウスはどうしているでしょう。アントニウスはタカシの友達で、まかいで二番目に強いあくまです。一番はタカシです。
今、ぼくはタカシの部屋で遊んでいます。遊び相手はミランダです。ミランダがボールを投げて、ぼくがそれを受け止める遊びです。何時間でもできます。でも今日は、ミランダの様子が変です。何度もため息を吐いたりしています。どうしたのでしょう。ぼくはしゃべるのが苦手なので、身振り手振りで思っていることを表現します。
「ん? どうしたの、ヴぇーたん」
ミランダはぼくをヴぇーたんとよびます。正直やめてほしいのですが、それを伝える方法がないので、今はあきらめています。そのうちぜったいにやめさせます。
「もしかして、心配してくれてるの?」
「ピキー」
「ありがとう」
ミランダはわらうと、ぼくをひざの上にのせました。ミランダはぼくをなでてくれます。
「私ね、隆志さまのことを叩いちゃったの。隆志さまは悪くないのに。私自身、どうしてあんなことをしちゃったのか……。シコラクス様にまで庇ってもらって、私、本当に不甲斐ない。隆志さまのお側に相応しくないのかな?」
ミランダはとても落ち込んでいます。こういうときは大抵、タカシがわるいのです。友達としてゆるせません。ミランダにあやまらせる必要があります。
ぼくはミランダのひざをおりて、タカシを探すことに決めました。
タカシのおうちの一かいに下りると、ミラーレがお昼ごはんのじゅんびをしていました。タカシはいません。どこに行ったのでしょう。仕方がないので、タカシを待つことにします。
そうしていると、お昼ごはんの良いにおいがただよってきました。これは、多分、お魚です。ぼくもお魚をもらおうと、ミラーレに近よりました。おどろかせないように、足元から近付きます。中々気付いてもらえないので、足をさわってみました。
「きゃあ!」
ミラーレはとてもおどろいて、しりもちをついてしまいました。心外です。
「ど、どうかなされましたか、ヴェルギリ様」
「ピキー」
やはりお魚をやいていたようなので、所望します。
「あ、これですか?」
「ピキー」
ミラーレからお魚をもらいました。しゅるいはわかりませんが、おいしいです。小骨の多い魚は好きです。ミラーレはぼくがお魚を食べるのを見て、ふるえていました。お作法は苦手です。少しはしたなかったようです。
ともかく、リビングにもどり、ソファの上でタカシを待ちます。お昼時なので、そろそろもどってくるでしょう。
やってきたのはエーリアルでした。エーリアルはいつもタカシを見ています。遠くにいても念視でみています。ぼくも念視はできますが、いつもタカシを見たりはしません。なぜなら、それはよくないことだからです。ぼくは知っています。人間かいではストーカーとも言うそうです。
けれど、今のエーリアルはタカシを見ていませんでした。ぼくを見ています。エーリアルは誰かをいじめるときだけ、タカシを見るのをやめます。いやなやつです。
「ヴェルギリ、お前からアリゲーリへの反逆心が見えます。許せません」
言いがかりです。ぼくはタカシをこらしめようとしているだけで、反逆心などありません。ですが、エーリアルは問答無用です。早速ぼくをけってきました。本気でたたかうとエーリアルにはかなわないので、ぼくはにげます。
エーリアルのすばやさは、武器仲間の中でも一番です。人間にそっくりなすがたに変身できるからです。その気になれば、けもののすがたにもなれるはずです。ずるいです。なので、ぼくはいつもつかまってしまいます。今も持ち上げられてしまいました。
「やはりお前はアリゲーリの剣に相応しくありません。精々座布団で限界です」
そう言うと、エーリアルはぼくの上にすわってしまいました。
「ピキー」
変な声が出てしまいます。エーリアルはわざと重心をずらしたりして楽しんでいます。だんだんむかついてきました。
近くにごみ箱があります。ひらめきました。ぼくは手を伸ばしてエーリアルの顔をひっぱたき、持ち上げて頭からごみ箱にたたきこみました。わたわたと足をばたつかせています。良い気味です。
仕返しされると大変なので、手早くごみ箱にかかっていたビニールぶくろを引っぱり、口をむすびました。ビニールぶくろにエーリアルが入っています。ざまあねえ。
剣に変身すればエーリアルはだっ出できるはずですが、エーリアルはプライドが高いので、そんなことで変身しません。なので、しばらくこのままです。
でも、ごみと一緒にふくろに入るエーリアルを見ていると、なんだかかわいそうになってきました。これ以上みていると、こっちまで辛くなってしまいます。なので、ごみ捨て場という所に捨ててきました。これでエーリアルを見ずにすみます。辛くなることもありません。すごくすっきりした気分です。
ごみ捨て場から帰ってくると、タカシとキャリバンがいました。お昼ごはんを食べているようです。レギオニステラ以外はみんないました。レギオニステラがいれば、アリドュスクロワにエーリアルのことを話せたので、残念です。
ともかく、タカシをこらしめねばなりません。
「ピキー!」
「お、ヴェルギリ。どうした、腹減りか? ほら」
タカシがお魚を分けてくれました。おいしいです。でもそうではありません。このまま続けてもおねだりだとかんちがいされそうなので、ぼくはタカシのひざにのりました。ぺちぺちとタカシのほおをたたき、真剣な話だぞ、ということを伝えます。
「足りないか? ほら」
お魚おいしいです。でもそうではありません。
「もっとか? 野菜も食べろ」
お野菜はあんまり好きじゃありません。でも食べます。でもそうではありません。
「あの、旦那、俺、ちょっと……」
「あ、私も……」
キャリバンとミラーレが席を外してしまいました。口をおさえて、なんだか吐きそうです。大丈夫でしょうか。ぼくは気付きました。今はタカシとミランダとぼくだけです。話をしやすいように気づかってくれたにちがいありません。
「ピキーピキー!」
「うーん、腹が減っているわけではないようだな」
ミランダを指し示します。
「ミランダに関係あるのか?」
「ピキー!」
「え、私?」
「ピキー!」
「ミランダに謝れって?」
「ピキー」
「俺なんかしたか」
「え、ええと、私は平気ですよ?」
「ピキー!」
「あ、もしかして……」
「心当たりがあるのか」
「あ、いえ、あの、私、ヴぇーたんに愚痴をこぼしてしまって、それで……」
「なるほどな。どんな愚痴だ?」
「い、いえ! 大したことではありませんので」
「しかしヴェルギリが怒ってる」
「ピキー」
「え、ええと、私、やはり隆志さまのお側に相応しくないのではないかと、思いまして……」
「…………」
「? 隆志さま?」
「あ、なんだ?」
「いえ、ご様子が、おかしかったので」
「少しぼーっとしただけだ」
「そうですか、お休みになられては」
「問題ない」
このあとも少々会話が続きましたが、結局、タカシがミランダにあやまることはありませんでした。納得できません。けれど、今のタカシの様子は気になります。むかし、まかいにいたときも、たまにあんなふうに、ぼーっとすることがありました。ずっと一緒にいたぼくだからわかることなのですが、これはなんだか、タカシにとって、とても重要なことのような気がするのです。
付け足しておくと、エーリアルはその日の夜中に帰ってきました。散々仕返しされたことは、言うまでもありません。
ちゃんちゃん。




