闘技場試合録-薙刀使い リョクvs双剣使い ガゼル-
円形の、土で覆われた地面。それが、この場所に集う者たちのステージだ。
ステージを囲うように周囲は登れないように壁になっており、その上は全方位が観戦を楽しむ観客席となっている。
そう、ここは__闘技場。
戦うものだけがその壇上に上がる事ができ、より強い者だけが最後までその地に立っている事ができるのだ。
「本日の対戦は__薙刀使いリョク対双剣使いガゼル!! 両者とも、入れ!!」
主催のアナウンスが入る。
円形の舞台へと円を挟んで向かい側に空いてる入り口二つから、二人の人が入ってくる。
一人__リョク、大きな薙刀と呼ばれる黒っぽい棒に先には刃が鈍く光る武器を持った男。東国で有名な武具で、防具も東国製の鎧を着ている。
少し長い黒髪を赤い紐で結んでおり、がっしりとしながらも細身に見える男である。
対して一人__ガゼル、一対の日の光に当たって淡くピンクに煌めく剣を持った女。髪はオレンジ色のボブで気の強そうな印象を持つ、赤く風にはためくマントをした素早そうな女だ。
対峙する二人。観客の熱気も最高潮に達する。
「__では、始めッッ!!」
「「「ウォォォォォおおおお!!!」」
観客の歓声。
武器を構え、にらみ合う二人。
探り合うかのように、神経を研ぎ澄ませて、じりじり……と間を図り合う。
少し経ったあと__ガゼルが仕掛ける。
いきなりトップスピードでリョクの目の前に駆け、素早いスピードを生かした一閃を叩き込む。
「せぇぃっ!!」
それにギリギリで反応し、薙刀の柄を斜めに立てて前で構え防ぐリョク。
「ぐっ……!!」
リョクは衝撃で少し苦しげに呻く。
しかしその後もガゼルは器用に両手に握った剣を振るい、連続で攻撃を叩き込む。
「せっ……やぁっ、はぁっっ!!」
右手で右上から斬り下げ、跳んで左回転しつつ左剣から右剣の順で二、三回斬りつけて、左足で着地。
その間も研ぎ澄ました五感を駆使してリョクは薙刀の柄で剣撃を間一髪で防いできた。
剣がぶつかる音が響く。
一撃も当たらなかったガゼルは、ちっと舌打ち。着地した左足にグッと力を込めリョクの懐に踏み込みつつ両方の剣を真っ直ぐ前に構える。揃えて跳びあがりつつ、身体めがけて斬り上げる。
「せいやぁぁぁぁっ!!」
「うぐっ……ッ!」
さすがに連続した素早いガゼルの攻撃を防ぎきれずに右の腹部を斬られるリョク。そのまま片膝をついて負傷部分に手を当てる。
一撃を叩き込んだガゼルは一旦距離を取るためバックステップをとる。
「おっとリョクが負傷したぁぁ! さて、どうするかぁ!? 降参するかぁぁぁ!?」
勝負は、どちらかが降参__負けを認めるか、気絶をするなどして戦闘不能になった時点で決まる。
リョクの斬られた鎧にヒビが入っており、抑えている手の指の隙間から、血が流れ出す。薙刀を支えにしながら立ち上がった。
「……はっ……、まだまだァ!!」
咆哮。ガゼルも効いていないのかと目を見張る。
しかし、リョクの息は少しだけ荒い。そうではないことが分かった。
両目をギラつかせ今度はリョクが仕掛けた。
来る。そう感じ取ったガゼルは双剣を構える。
それを見たリョクは思いっきり薙刀をガゼルに向け__投げる。
「……っえ!?」
予想外のリョクの行動に驚くガゼル。
真っ直ぐ正面に飛んできた薙刀をガゼルは咄嗟に左へずれて避ける。
薙刀にガゼルが気を取られているその間に距離を詰めるリョク。
ガゼルが気がついたときにはリョクは目と鼻の先にいた。
「……ふっ!」
「ぐぁぁっ!!」
腹に重い拳を入れられるガゼル。
女だろうが子供だろうが、力加減をするのは戦う者としての無礼にあたる。
リョクは思いっきり__入れた。
剣を落としてお腹を押さえたまま崩れ落ちる。苦しげな表情を見せるガゼル。
それを見ながら戦いが続くのも考え、リョクは投げた薙刀を拾う。
「今度はガゼルがノックアウトかぁぁぁ!? どうなるのか、このまま負けてしまうのかぁぁぁ?!」
静けさが闘技場を包んだ。
倒れたまま、痛みと戦うガゼル。
それを見つめたままリョクは動かない。
数秒間、悶え苦しんでいたガゼルが少し唇を動かして言葉を発した。
「降……参、……」
微かな声で降参をした。
「おおっとぉぉぉガゼルが降参、降参だぁぁぁ! よって勝者、リョクぅぅぅ!!」
観客が一際大きい歓声をあげる。
リョクは持っていた薙刀を離し、ガゼルの側で片膝をつく。ガゼルに話しかける。
「思いっきりやりすぎたか……? 手加減した方がよかったか?」
苦しげな表情をしながらガゼルは答えた。
「……い、や。むしろ、……手加減して、ないお前に……感、謝、してる……」
そう言い切り、ガゼルはふっ、と微かに笑みを浮かべていた。
「そうか。……治癒術で治してもらいにアルフィのところへ連れてくぞ。いいな」
そう言ってリョクはひょい、とガゼルをお姫様抱っこする。
その時点でガゼルは緊張が溶けたのか、気を失っていたのであった。
武器もついでに回収し、戦いの舞台への入り口から控えの方へ戻る二人。
「これにて、本日の対戦を終わりです!! 本日も誠にありがとうございましたぁ!!」
いかがでしたでしょうか。
描写についてのアドバイスや読み終えてからの簡単な感想などお待ちしております。