だいじゅういちわ
俺も父さんも、母さんのお願いという強制により、何とかカレンダー通りに休みを確保した連休。
親の希望により、スカイツリーに行く事が決定した。
うちの親は二人揃ってミーハーなんだ。
最初はオープン直後に行くと駄々をこねていたんだが、流行り場所は好きでも並ぶのは嫌いな母さんは渋々諦めた。
最近はもう落ち着いただろう、という事で決行となったんだが。
妹は留守番を宣言していたが、母さんの泣き落とし(泣き真似)に負け、売られる羊のような顔色で車に乗り込んだ。
「ドナドナドーナ!!ヘイッ!おやすみ!zzz」
すまん。
俺の認識違いか、アホの認識違いか。
売られる羊はそんなテンションじゃねぇよ。
自棄なのは分かったが。
そして車に乗ると寝る。というパブロフの犬状態に染み込んでいるアホは即落ちで寝た。
某メガネ少年もビックリな早さだ。
まぁ、起きてると酔うからな。
寝た方が楽なのは分かるが、早過ぎだろう。
起きている人間には辛い渋滞も、寝ている人間には関係ない。
到着した時にすでにグッタリ、もしくはイライラしていた俺達をよそに、一人気分爽快なアホに腹が立つ。
俺達にとっては狭い車内もチビなコイツにはビジネスクラス並の快適さ。
「あ~。よく寝た!じゃっ、僕は浅草で遊んでるから、終わったら連絡しt…」
「待て。誰が行かせるか」
何の為に来たと思ってんだ。
アホの首根っこをすかさず掴む。
逃がさねぇ。
俺一人で新婚気分が抜けてない両親と外出なんぞしたくない。
独り身が沁みて辛いだけだ。
「離せ!僕はバカじゃないから高い所にきょーみないっ!」
「そうだな。お前はバカじゃなくてアホだもんな。良いから行くぞ」
コイツがチビで助かった。
連行するの楽だわ。
喧しいので、口も塞いでおく。
モガモガしてるが、あっはっはっ!何言ってるか分からんな。
エレベーターに乗り込んでしまえば、途端に静かになる蓮。
顔を見ると、真顔だった。
普段はアホ面なのに。
美少年がより際立ってるぞ。
一緒になった女の子やら女性がチラチラと見てはコソコソと何か言っている。
お前、本当に残念なイケメンだな。
喋ると途端に残念さ爆発だよな。
いつも黙ってた方が良いんじゃねぇか?
チーン
しまった。
何分掛かるか見てようと思ったのに、アホの豹変振りが楽しくて忘れてた。
ゾロゾロと展望台に散らばる乗客達。
母さん達は既に別行動のようで「蓮ちゃんの面倒よろしくね~」という一言を残し、腕を組んで行ってしまった。
親だけで来れば良かったんじゃないか?
俺達、来なくても良かったんじゃ、と思わなくもない。
まぁ、名物だしな。話のネタになるから良いか。
連休明けの会社で、何処にも外出してない時の会話に困る感じは辞めて欲しい。
あと、何で休み取った?って責められてる気がするし。
連休は家族サービスです。
親孝行です。
よし。頑張れ俺。
未だに客はそれなりにいるらしく、パッと見ではチビなアホが見つからない。
迷子の放送すんぞ。
窓側には絶対にいないので、内壁沿いを見ていく。
……発見した。
壁の正面でチビがよりチビになってました。
すぐに見つからない筈だ。
「おい。そこでしゃがみ込んでる一ノ瀬蓮さん。お兄様がお呼びだぞ」
立て。恥ずかしいから。
両手は両耳を塞いでいる。
なんで音を遮断する必要があんだよ?
再び首根っこを掴んで無理矢理立たせた。
「…ぼくかえりゅ…」
「諦めろ。良い景色だぞ」
天気も良いしな。
遠くまで良く見える。
押しても動かないほど踏ん張るアホに痺れを切らした俺は、肩に俵持ちをして運ぶ。
全く。手の掛かるアホで困る。
「ぎにゃー!!やめろはなせへんたいゆうかいはん!!たすけておまわりさーん!!」
限界がとっくの昔に突破していたアホが騒ぎ出した。
辞めんかいっ!
誤解されるだろうが!
「あ。兄妹なんで大丈夫です。お騒がせしてすみません」
ペコペコしながら進む俺。
こんな所で職質なんてされたくねぇぞ。
兄妹が兄弟に変換されてるかは知らんがな。
「うぎゃー!!たすけて名探偵!!」
確かに映画で舞台になってたけどな。
流石の名探偵もコレは助けてくれないと思うぞ。
そもそも、本物の高校生の身体と中味持ってる奴が身体が小学生な奴に助けを求めるな。
ん?コイツは中味は小学生か。
名探偵と反対だな。
まぁ二次元とごちゃ混ぜになってるアホはともかく。
お前、よく腹痛くないね。
自分でやっといてなんだが。
普通、腹筋に力入れてないと「ぐぇっ」ってなるぞ。
「ホレ、良い景色だぞー」
スカイツリーの高さ。プラス俺の身長。
「っっ!!」
おぉ。静かになった。
「………もぅ…ゆるして…なんでもするから…もうむりだお…しぬ……しんじゃぅ……」
震えている、か細い声がポソポソと呟かれる。
ガクッ
プラーン
「ぐぇっ」
そんなに限界なのか。
高い所の何がそんなに怖いのかねぇ。
俺には高所恐怖症の意味が分からん。
荒療治で治ると思ったんだが、失敗か。
仕方が無いので、壁際まで戻り、空いている椅子に放り投げる。
「生きてるかー?」
「……うぅ。しんだ。きしゃま、おぼえてろよっ…!」
「飲み物買って来てやるから、そこで死んでろ」
完璧に負け犬発言だ。
腕がガクブルと震えている所が哀愁感すげぇ。お前はチワワか。
さっきの何でもするって言ったのどうすんだよ。
まぁ、俺もイジメ過ぎた気はするので、勘弁してやろう。
帰りの途中、夕飯にと寄った焼肉屋で、蓮が自棄食いをした。
いつにない行動に俺達が何をしていたのか親にバレた。
まぁ、結構な騒ぎになってたしな。
イケメンなだけでも目立つのに、アホとか目立つ要素しかねぇよ。
「蓮ちゃんで遊んだでしょう。ダメよ。怖いモノは怖いんだから」
「いやぁ。楽しくて、つい」
残念な姿なのに、イケメンってだけで通りすがりの女の子達に「可愛いー。大丈夫?」とか声掛けられてた奴は、たまにはアレくらいの目に合っても良いと思うんだ。
飯の後、自棄食いしたアホが車に酔ったのは言うまでもない。